お化けだよ、石川さん!
真夜中のことだった。
俺がぐっすり寝ていたところを、何者かが駐在所の戸を叩いて邪魔をしてきた。
「……んだよ! 寝てんだぞ!」
「マッポ! 助けろ! やべえんだよ!」
鈴村の声だ。
俺は警棒を持って外に出る。
1発かましてやろうと思ったのだ。
しかし、いざ外に出てみるとそんな気分ではなくなった。
鈴村達暴走族連中が、珍しく泣きながら立っていたのである。
「……どうした」
「やべえんだよ! マジでやべえの見ちまった!」
鈴村の言葉に、他の暴走族連中もうんうんと頷く。
どうしたってんだよ……。
「一回落ち着こうぜ。な? 上がってくか?」
「……いいのか? 本当に助けてくれよぉ……!」
その時。
「うわぁ! 来た!」
誰かが叫ぶ。
見れば、何かが全速力でこちらに走ってくる。
「あ?」
「ぎゃーっ!」
俺は顔を顰めてそいつを見た。
こちらに走ってくるのは赤い服の女で、走る速さが尋常ではない。
おまけに、何かよくわからないことを叫んでいる。
真夜中だというのに、迷惑でしかない。
「あいつ、俺達のバイクより速えんだよ!」
「何ぃ? だったら交通違反じゃねえか」
「しかも殺すって言ってくるんだよ!」
「脅迫も追加か?」
「山田が田んぼに突き落とされた!」
「暴行も追加ってわけか」
俺は腕を捲り上げ、警棒を構える。
「待てやコラ!」
俺は女の前に立ちはだかる。
それでも彼女は止まらなかったので、俺は警棒を女めがけて振り下ろした。
ようやく女の動きが止まる。
よく見ると、本来眼球がある位置にはぽっかり穴が空いていた。
深夜にコスプレして人を脅かすなんて悪趣味な奴だ。
「おい、お前!」
「……殺す」
「馬鹿じゃねえのか! 何時だと思ってんだ!」
「殺す殺す殺す殺す」
「聞けよ!」
ビンタが炸裂。
女は茫然と突っ立っている。
「えー、あんた住所は? 家族は?」
「あ……あう……」
「言えないの? まあいいや。あんた、今何時かわかるか? みんな寝てる時間だぞ。それなのにこんなコスプレして人を脅かすなんてさ、やってることヤバいよ」
「あ、あの……」
「あ?」
「コスプレじゃ……ない……」
「嘘つけ。いいから、大人しく法の裁きを……」
「……このお巡りさん、怖い……」
女をその場で取り調べする石川。
鈴村は仲間と顔を見合わせる。
「ユーレイ相手に……」
「職質か……?」
恐ろしい警官だと再認識した夜であった。