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駐在さんだよ、石川さん!  作者: エンタープライズ窪
6/10

お猿さんだよ、石川さん!

「駐在さん! 頼みあるねんけど!」


 朝一番、中岡さんが駐在所に乗り込んできた。


 俺はまだ閉じようとする目を擦りながら、応じる。


「なんだよ? また鈴村か?」


「違うわだら! 佐々岡さんのことや!」


 ……またか。


 正直言って、佐々岡さんに関する相談が多すぎて参っている。


 三輪車に乗ってる姿が不気味すぎるだの、鈴村と喧嘩して大暴れしているだの、やりたい放題なじいさんで困っている。


「……また三輪車の件?」


「だら! 佐々岡さんが家に勝手に入ってきて、部屋を荒らし回っとるんやって!」


「はぁ⁉︎ とうとうこの村にも重大犯罪が⁉︎」


 俺はすぐさま駐在所を飛び出してチャリに跨り、中岡さん宅へと急ぐ。


 着いてみると、ちょうど佐々岡さんが家から出てきたところだった。

 俺はすぐさま手錠を取り出し、筋骨隆々の老人に飛びかかる。


「強盗確保ぉ!」


「な、なんやあ⁉︎」


 突然の襲撃に、佐々岡さんは怯んでいるようだ。

 俺は通行人達にも呼びかける。


「男は手伝って!」


「よ、よし来た!」


「任せろ駐在さん!」


 周りにいた男達が、一斉に佐々岡さんに覆い被さる。


 8人がかりで、なんとか大男を取り押さえたかと思いきや。


「こんのだらどもぉぉ!」


「どわぁぁぁ⁉︎」


 全員が一度に投げ飛ばされた。




「猿?」


「ああ。儂の朝食を奪って逃げてったんや! とっちめてやろうと思って追いかけて行ったら、中岡さんの家に入ったんでな」


 ボコボコにされた俺達は、正座したまま佐々岡さんの話を聞いていた。


 どうやら、この村に猿が出没したらしい。


 山奥の村なので、猿が現れるのは仕方のないことだが、子供達に危害を加えられてはたまらない。


「猿が出たのはわかったが、勝手に侵入して荒らすのは見過ごせないから逮捕な」


「きかんやっちゃな。やれるもんならやってみい」


「あーっ! 公務執行妨害ぃ!」


 激しい言い争いが始まり、加勢に応じた男達は、やれやれと言わんばかりに頭を振った。


 その時。


「どわっ⁉︎」


 俺の頭の上に何かが飛び乗ってきた。


 あまりの重さに、俺はバランスを崩して倒れかける。


「猿じゃ!」


 佐々岡さんが叫ぶ。


 途端に俺の頭が軽くなり、男達から悲鳴が上がる。


「うわーっ!」


「猿だぁ!」


 そして、俺はそいつと目が合ってしまう。


 赤ら顔に、茶色い体毛。

 小坊のように小柄な体。


 猿だ。


「おのれーっ!」


 佐々岡さんの巨体が、猿に向かって飛びかかる。

 しかし、猿は簡単にそれをかわす。


 佐々岡さんは男達に激突し、もつれあって倒れる。


 猿は、そんな彼らを嘲笑うかのように鳴くと、塀の上を走ってどこかに消えて行った。


「おのれー! あのクソ猿が! ただじゃおかんぞ!」


「たしかに、あれはほっとくわけにはいかないな」


 俺は、助けを借りて起き上がる男達を見る。


 猿を追いかけて暴走した佐々岡さんによる被害が出る前に、あの猿を止めるべきだ。




 こうして結成された猿討伐隊は、リーダーの佐々岡さんとサブリーダーの俺、そして8人の男達で構成された。


 虫取り網やスコップ、フライパンなどで武装した男達は、群れをなして村を歩き回った。


 当然、村人達は驚いて遠巻きに見つめるばかりだった。


 俺は警棒に盾といった完全武装である。


 聞き込みを行い、少しずつではあるが猿に迫っている……と思う。


 学校の宮坂校長とのやり取りはこんな感じだ。


「猿を見なかったか?」


「あっちだ。畑の瓜を食われたって、樫本さんがキレてたよ」


 そして、樫本さんの畑へ直行。


「猿の奴なら向こうの駐車場に行ったよ。さっさと捕まえなよ」


 だいぶ怒りは収まったようだったが、それでも怒りは十分伝わってきた。


 そして……。


「うわーっ! なんだよこいつ!」


 聞き覚えのある悲鳴。


 見れば、鈴村のグループが猿に襲われていた。


 鉄パイプで応戦しているようだったが、猿は華麗な身のこなしで暴走族を蹂躙する。


「ほう。すごい運動能力だな」


「やな」


 他の男達もうんうんと頷く。


「ちったぁこっちの心配をしろ!」


 暴走族達に怒鳴られるが、気にしない。


「鈴村さん! そっちいった!」


「う、うわーっ!」


「兄貴ーっ!」


 顔面をバリバリ引っ掻かれる鈴村。

 俺達は思わず顔を背ける。


 俺が視線を戻したときには、猿は倒れた鈴村を飛び越えて走り出していた。


「追いかけるぞ!」


「おう!」


 俺達は武器を手に、猿を追いかけていく。


 猿はやはりすばしっこく、着いていくだけで精一杯だった。

 そこら中を走り回る猿を、討伐隊は懸命に追っていく。


 そして……。


 とある物置小屋の中に飛び込んだ。


「猿はあそこだ! 行くぞ!」


 一斉に突入する10人の男達。

 だが、薄暗い物置小屋の中を見た俺達は、絶句した。


 小屋の中には、床が見えなくなるほどの猿がおり、俺達を殺気立った目で睨みつけてきていたのだ。


 猿の大群が、小屋の中にいた。


「嘘だろ……」


「ヤバくね?」


 思わず尻込みする男達だったが、俺と佐々岡さんは怯まなかった。


「向こうは全面戦争がお望みのようだぞ。猿の星にしたいようだから、とっちめてやらねえと」


「儂も同意見や。ぶっ潰す」


 それを見た男達も、勇気をふりしぼって武器を構える。


 猿と討伐隊。


 約30対10。


 全面戦争が、幕を開ける。


「行くぞォ!」


 飛びかかってくる猿達に、俺達は雄叫びを上げながら突っ込んでいった。




 激しい戦いは、真夜中まで続いた。


 三日月が頭上に登る頃には、討伐隊も猿もボロボロになり、皆で床に倒れている。


 窓から差し込む月光が、俺と元凶の猿を照らす。


「……なかなか、やるじゃねえか」


「ウキキ……(お前もな……)」


 手を取り合う、俺と猿。


 奇妙な友情が芽生えた日であった。

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