(3)メグ視点
普段ならこんな時間にシリアン様の寝室付近をうろついたりなんてことは決してしないのだけれど…今日だけは特別な事情があった。
昼間、テリーさんの留守中に王城からの使いがやって来て、わたしが呼ばれた。
メイドの中でも下っ端のわたしへの呼び出しに、何か粗相でもしてしまっただろうかと震えながらその使者の元へと赴くと、思いもよらぬことを告げられたのだ。
今、離宮で働いている使用人たちの今後の配属について調整しているところだという話は、先日テリーさんからも聞いていたから驚かなかったけれど、第二王子のルーク殿下の妻であるミシェル妃のメイドに欠員が出て、なるべくミシェル妃に年齢が近くてそれなりに経験もあるメイドを探しているとかで、わたしがその第一候補に選ばれたという話にはとても驚いた。
通常、貴族出身で王城勤めをするメイドは高等学校を卒業して18歳から働き始めることが多い。
それに対してわたしは中等学校卒業後から働いているため、18歳でも一応3年のキャリアがある。
教養よりも、メイドとしての経験を買われたということでいいんだろうか。
「それは、決定事項なのですよね?」
「いいえ、実は離宮のみなさんの配置転換に関してシリアン殿下より適性や性格などが細かく記載された情報をお預かりしているのですが、あなたのデータの特記事項に『突然の配置転換に動揺してしまう性質のため、事前に本人に打診すること』と書かれておりましたので、これは異例の措置です。断ることもできますが、あなたにとっても悪い異動ではないと思います」
シリアン様とテリーさんの心遣いに思わず胸を熱くしつつ、わかりましたと頭を下げた。
三日後に返事を聞きに来るという使者を見送り、今夜テリーさんに相談しようと決めた。
テリーさんは日中シリアン様につきっきりであるため、相談するとなるとシリアン様の就寝後になる。
だからシリアン様の寝室から出て来たところで声を掛けるつもりで廊下の角を曲がったあたりで待っていると、定刻通りテリーさんが寝室へと入っていった。
いつもなら少し言葉を交わしてすぐに出てくるはずなのだけれど、今夜はなかなかドアが開かない…ばかりか、何か大きな声で言い争っているようにも聞こえて、いけないことと知りつつも思わず鍵穴から中の様子を覗いてしまったのだ。
そこでわたしは、見てはいけない光景を目撃してしまった。
テリーさんが…テリーさんがっ!!
シリアン様とキスしている!!!
わたしは音を立てないようにそっとドアから離れ、廊下を曲がったところで猛ダッシュして逃げ出したのだった。