番外編 ファーストキスとテリーの恋(1)
本編の最後に少しだけ出て来たルーク殿下が妙に人気なので、多めに登場いただいておりますw
楽しく読んでいただければ幸いです
尚、若干BL要素が含まれておりますので、苦手な方はご遠慮ください
「シリアン殿下がご結婚されて、この離宮に住む方がいらっしゃらなくなったら、わたしたちはどうなるんでしょうか」
メイドのメグが不安げな胸中を隠すことなく顔に出しながら尋ねて来た。
「大丈夫ですよ、我々はもともと王城勤めなんですから、離宮に誰もいなくなったからといってクビになることはありません。数名は管理人として残ることになるでしょうけど、あとは各々新しい配属先が決まると思います」
だから安心してくださいと微笑むと、メグは真っ赤になって頷いた。
メグは没落貴族の二女で、15歳のときに奉公に出されて王城勤めのメイドとなり、その後すぐに離宮にやって来た。
それが三年前のことで、今ではすっかり離宮での仕事にも慣れているが、いつまでたってもウブなところが可愛らしい部下だ。
第三王子のシリアン殿下の結婚と王室離脱が決まり、兄王子であるリチャード殿下とルーク殿下はこれまでの「不仲説」を裏付けるための茶番劇をやめて年の離れた弟と大っぴらに交流するようになった。
もともと兄王子たちは末っ子のことを、母親が違うのだと知りながらもとても可愛がっていたと聞いている。
幼少の頃のシリアン殿下は天使のように可愛らしく天真爛漫で、誰からも愛されていたという。
ただひとり、王妃様を除いて――。
側妃だったシリアン様の母親が疑惑まみれの死に至った時、二人の兄王子たちは可愛い弟を守るために態度を豹変させた。
第一王子のリチャード様はシリアン様を暗殺するふりをし、第二王子のルーク様は冷徹な態度でシリアン様を突き放し、公式行事で会っても目も合わさずに無視し続けた。
転機が訪れたきっかけは、シリアン様が運命の出会いを経てあっさり王室離脱を決めたこと、そしてリチャード様の妻であるエミリア妃の痺れ茸中毒を治療したことに感謝の意を示すという口実で和解したことだ。
それ以来、畑仕事を手伝うことになったエミリア妃はどんどん健康的な肌艶になり、もともと良好だった夫婦仲は益々親密になって、最近では毎晩のように寝室を共にしているらしい。
同じく結婚してすでに6年経つものの子宝に恵まれないルーク様ご夫婦には少々違う事情がある。
畑の入り口に停められた馬車から降りたルーク様は、体を反転させて馬車の中に手を伸ばし、妻のミシェル妃を優しく抱きかかえて降ろした。
まだあどけなさの残るお顔のミシェル妃は御年18歳。
外国から嫁いでこられた時はまだ12歳の子供だったのだ。
外交上の理由からその縁談をお断りするという選択肢は無く、本来ならば十以上の年齢差のあるルーク様よりもシリアン様のほうが年齢的に釣り合っていたはずなのだが、それはもちろん王妃様が猛反対した。
友好国のお姫様と結婚してしまうと、シリアン様の排除が困難になるためだ。
当時、シリアン様の側近に就いたばかりだった自分は離宮での仕事に手いっぱいで、ルーク様がどのような態度でこの結婚を受け入れたのかは知らないが、淡々と仲良く過ごしているとだけは聞いていた。
子供相手に淡々と仲良くって一体…?と思わずにはいられないし、一般的には初夜にあたる閨の儀はいつ済ませたのか、あるいはまだ済ませていないのかと無粋な妄想を掻き立てられてしまうが、それを表情に出してはならないぞと気を引き締める。
ルーク様に抱かれて馬車を降りるのがいつものことのようで、ミシェル様は嬉しそうに微笑みながらルーク様の首に細い腕を回し、ルーク様はそんなミシェル妃を愛おしそうに目を細めて見ている。
何なんだ、その甘すぎる雰囲気は。
もしもシリアン様が影響されたら…―――っ!遅かったか。
振り返ると、シリアン様がルーク様ご夫婦の様子をキラキラした目で見つめていた。
これから馬車を降りるときは手を引いてエスコートするのではなく、ルークお兄様のようにしよう!とか考えているに違いない。
ああ、面倒だ。何なんだ、この兄弟は。