それから(1)
父の随分と早い帰宅に面食らっていた母だったけれど、わたしが結婚することになったと父から聞かされると
「そうなるんじゃないかって思ってたわ」
と笑った。
ただ、そのお相手が第三王子だと知ると、そこは酷く驚いていたけれど。
わたしから馴れ初めを聞いた両親は、ちょっと複雑そうな顔をしていた。
でも、そもそも夜会に参加しろと言ったのは父なわけだし、わたしがそれでいいのならと最終的には笑顔で了承してくれたのだった。
ちなみに弟たちに「お姉ちゃんね、あのお兄さんと結婚することになったから」と言ったら、
「人さらいのお兄ちゃんが本当にお姉ちゃんをさらっていくってこと!?」
と驚きつつも、何だか嬉しそうにしていた。
翌日、王城に呼び出されたわたしは、再び第一王子のリチャード様ならびにエミリア妃と対峙した。
痺れ茸の毒がすっかり分解された様子のエミリア妃は、小さくて可愛らしい艶やかな唇をきゅっと引き締め、わたしの手を握って深々と頭を下げた。
「夜会でのボヤ騒ぎも、あなたの畑を荒らせと命令したのも、わたくしで間違いありません。申し訳ありませんでした。そんなわたくしたちに解毒剤まで用意していただいて、とても助かりました。ありがとうございます」
エミリア妃がそんなことをしたのは、お世継ぎ問題が関係していたらしい。
隣国から嫁いできて六年経っても懐妊の兆しすらなく、王妃様からはまだかまだかとせっつかれ、子供がいないせいでリチャード様は立太子できないのだという噂を耳にするにつけ、このままでは祖国に帰されてしまうのではないか、あるいは「側妃を」というような話になるのではないかと悩んでいたという。
そこへ第三王子の婚約者探しが始まり、もしもトントン拍子にことが進んでシリアン様に先に子供ができたりしたらどうしようかという焦燥感に突き動かされて、邪魔してやろうと思ったのがきっかけだったらしい。
何とも安直な動機は、それだけエミリア妃が思い悩んでいたという証拠なのかもしれない。
説明しながら涙を流す妻の肩を優しく抱き、ハンカチで頬を拭ってあげているリチャード様によれば、エミリア妃がそこまで悩んでいるとは思っていなかったらしい。
昨晩、王妃様にも「プレッシャーを与えることばかり言わないでいただきたい」と釘を刺したそうだ。
「私たち夫婦の問題にあなたを巻き込んでしまって申し訳ない。畑の弁償はもちろんだが、ほかにどのような償いをすればいいだろうか」
先ほど触れたエミリア妃の手がとても冷えていることが気になって、わたしはその場である提案をしたのだった。
明日で完結します!