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解毒剤(1)

「はい、これとこれ」

 倉庫から長いトングと小さな木桶を人数分取り出し、シリアン様とテリーに手渡す。


 感動的なプロポーズの後に、これで一体何を?とぽかんとしている男性二人に向かって、わたしは意気揚々と宣言した。


「今から裏山に、シカのフンを拾いに行きます!」


 先頭を切って歩き出したものの、後ろからついてくる気配がなかったため、立ち止まって振り返る。

「早く!モタモタしていると大変なことになりますよ?」


 え、何が?という顔をしているシリアン様の様子が可笑しくて、早々に種明かししてあげることにした。


 畑の畝のうち三分の一を占めていたのは痺れ草だった。

 そこに高値で売れるあのキノコ「痺れ茸」が生え始めていたのだ。

 昨日は雨で、深夜から早朝にかけては霧がかかるぐらいの湿気をたっぷりと含んだ空気で畑は覆われていたと思う。

 つまり、キノコの生育にとっては好条件だったはずで、一気にニョキニョキ伸びていたかもしれない。


 薬草を何年も育てているわたしでも、つい最近までその存在を知らなかった「痺れ茸」なのだから、素人が知るはずがない。

 まして畑を荒らした蛮行は、まだ夜が明けきらない薄暗い時間に実行されたのだろうから、あのヒョロヒョロのキノコが見えていたかどうかもあやしい。

 気づかずに痺れ草とともに引き抜いて踏んづけて…それを犯人たちが手袋をはめ、頭と口と鼻を布で覆って実行した後に、着ていた衣服をすみやかに脱いで着替えたのなら問題ないが、そうでなかった場合は痺れ茸の細かい胞子を口と鼻からたっぷり吸い込み、髪や衣服にも付着させたまま持ち帰ったことになる。


 ラミには痺れ茸の扱い方について、子供が吸い込んだら呼吸が止まって死ぬかもしれないということだけでなく、もっと細かい取り扱い方の注意を受けている。

 それを守らずに胞子が体内に入ってしまった場合、健康な大人が死ぬことはないけれど、かなり苦しむことになるらしい。


 そして、万が一、大量に吸い込んでしまった場合は、裏山のシカのフンを拾って持ってこいとも言われている。

 なぜかと言うと、それが解毒剤の材料になるためだ。


 裏山に生息しているシカは、人間にはない分解酵素を体内に保有しているとかで、痺れ茸を食べても何ともないのだという。

 つまりその酵素をフンから抽出するというわけだ。


 ただし、フンに含まれる酵素はシカの体内から放出されて時間が経てば効果を失ってしてしまうため、解毒剤をあらかじめ作り置きしておくことはできず、できるだけ新鮮なフンを拾ってすぐに解毒剤を作ってもらい、飲まなければならないらしい。


「というわけなんです。わかりましたね?シカのフンは黒豆みたいな形状です!では急ぎましょう。犯人とその仲間たちは今頃苦しんでいると思いますよ」


 テリーによれば、犯人の目星はついているらしい。

 

 その人たちの目の前に解毒薬をぶら下げて、罪を認めてもらおうじゃないの!



 

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