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日課になってしまったようです(1)

 朝、畑に出向くと必ずシリアン王子と側近のテリーが待っている。

 怖いから何時からここに居るのかは敢えて聞かないようにしている。


 すぐに音を上げるだろうと踏んでいたのに、もうかれこれ二週間ほどになるだろうか。


 母には、畑仕事は今ひと段落しているから、わたし一人で大丈夫だと言ってある。

 母とシリアン様が鉢合わせたら大変なことになりそうだもの。


 すっかり日課になりつつあるけれど、それを「ストーカーだわ!」「気持ち悪いわっ!」と思わないのは、わたしにも少なからずシリアン様を慕う気持ちがあるのかもしれない。


 その証拠に、一通り畑仕事を手伝ってもらった後に「明日は朝から孤児院の慰問があるから会えない」と告げられた時、ひどく寂しくなってしまったのだから。


「そうですか。ご公務頑張ってくださいね」


「そんなに寂しそうな顔をされると困るな」

 何でもない風に言ったつもりだったのに、野暮天なシリアン様にもハッキリわかるほど顔に出ていたんだろうか。

 

 ベンチに座るように促されて従うと、シリアン様がポケットから小瓶を取り出した。

「最近、私もね、同じ軟膏を指に塗るようにしているんだよ。二週間、畑仕事をしただけで指先がカサカサしてしまうんだから、サクラはそれをずっとやってきたなんてすごいね」


 そいう言いながら瓶のふたを開け、綺麗な長い指で軟膏をすくってわたしの手を取った。


「いつもご苦労様」

 甘い微笑みと共に優しく丁寧に指一本一本に軟膏を塗ってもらうと指先にじんわりと温かみが広がる。

 それがいつもより熱いように感じてしまうのはなぜだろう。


「明後日、また会えますか?」


 思わずこぼれた言葉に、それを言った自分が一番びっくりした。

 地味で目立たないモブであり続けることを信条にしてきたわたしが、王子様に向かってそんなおねだりをしてしまうだなんて!!


「ああ、もちろんだ」

 熱い吐息を吐き出すようにそう言ったシリアン様は、わたしの指に唇を寄せて嬉しそうに笑ったのだった。




 こうしてシリアン様は、公務の無い日は――ほぼ毎日なのだけれど、我が物顔で畑に通って来るようになった。


 畑について勉強もしてくれているらしく、どういった肥料を使っているのか、他の肥料を試してみるのはどうかといった話もするようになった。


 弟たちを連れて来たそんなある日。

 痺れ草の畝に再び痺れ茸が少し生えてきているのを確認してたため、今日は雑草はいいからベンチで勉強してなさいと宿題を持参してきたら、シリアン様が熱心に二人に勉強を教えてくれた。


 飽きっぽい性格の弟たちだけれど、シリアン様が上手く相手をしてくれているようで、弟たちの楽し気な笑い声が響き渡るのを聞きながらわたしは畑仕事に精を出した。

 


「人さらいのお兄ちゃんねえ、すごくわかりやすかったよ」

「簡単に計算するやり方を教えてくれたんだ!」


 畑からの帰り道、興奮気味に話す弟たちの声に耳を傾けながら、これを機に少しでも勉強に興味を持ってくれたらいいんだけど…と思っていたら、早速その成果が出た。


 それから三日後の夕方、母が妙に上機嫌で鼻歌を歌いながら夕飯の支度をしていて、どうしたんだろうと思っていたら、弟たちが学校のテストで揃って満点をとったのだという。

 そして、それに気を良くした弟たちは、張り切って宿題や予習を頑張っている。


「計算が得意だなんて、やっぱりお父さんの子ね!」

 父は王城で会計の仕事を担当している。

 だから息子たちもそれに似たのだろうと母は思っているようだけど、父のおかげではなくシリアン様のおかげだと思う。


 でもそれを言ってしまうと、母に「シリーさんって誰?男の人?」とあれこれ追及されそうだし、弟たちは「シリーさんは人さらいなんだよ!」と言いかねないから、黙って母の思い込みを肯定しておくことにした。


 しかもこの後さらに、親に隠し事をしているという後ろめたさが倍増する出来事が起こってしまったのだった。



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