しがない男爵家(1)
元は母が庭で細々とハーブを育て、それをラミという薬師に納入していたのをわたしが引き継いだのは、年の離れた双子の弟たちが生まれた時だ。
当時私はまだ学生だったのだけれど、とてもじゃないが「勉強に専念」なんて言っていられる状況ではなく、朝ハーブを摘みとってラミの薬屋に持っていき、その足で学校に通った。
我が国には、運営費の大半を国が賄っている平民用の学校と、親から多額の学費と寄付金を搾り取る貴族用の学校がある。
わたしは平民用の学校で良かったのだけれど、それは父に猛反対された。
そこだけは貴族としての矜持があるから譲れないのだという。
授業の合間の休み時間には学校の図書室でハーブや薬効の高い植物の図鑑や栽培方法を読み漁り、下校途中に食材を買って家に帰ると、ハーブのお世話をした後、夕飯の支度を手伝うか弟たちの子守をするという目の回るような生活を送った。
決して嫌々やっていたわけではなく、弟たちはとても可愛かったし、母の力になりたい一心だった。
当然、学校の成績が良いはずもなく、席次は中の下といったところだし、今でもかろうじてつながりのある数名の友人以外との交友関係を広げる時間も気力もなかった。
そんなわたしは、学校でも目立たない存在で、きっともうほとんどのクラスメイトがわたしの名前はおろか顔すら憶えていないだろう。
卒業を迎えた時は、やっとこの忙しい生活から解放されて薬草栽培に専念できる!と心底ほっとしたのを覚えている。
就職はしなかった。
お嫁に行くあてもない。
ラミがあれこれ指南してくれたおかげで立派なハーブや希少価値の高い薬草を栽培できるようになり、そこそこ稼げるようになっていたためだ。
わたしの高等学校卒業から二年が過ぎた今年、やっと双子の弟たちが初等学校へ通い始め、母と二人で薬草栽培ができるようになったのはよかったのだけれど、弟たちも貴族用の学校に入学したため、当然学費の負担が家計を圧迫し始めた。
入学に向けてせっせと貯金はしてきたけれど、これから先、常に二人分の学費がかかると思うとお金がいくらあっても足りない。
そのため、さらなる事業拡大を目指して畑を借りた。
そこそこの広さがあるためハーブや薬草のほかに、野菜も育てている。
定番のハーブだけでなく、育てるのが難しいとされる薬草の栽培にもどんどん挑戦してみたい!
いずれは自分で育てた薬草を使って薬を作ってみたい!
そんな夢を抱いてワクワクしながら、早朝から夕方まで畑仕事に精を出す日々を送っている。




