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諦めていただきたいんですが(2)

 とにかく早く帰っていただけないだろうか。


 そう思って、雑草を引き抜く作業を弟たちと共にやってもらうことにした。

「あちらから順番に、畝の周りの雑草を抜いてください」

 弟たちが痺れ草のほうには近づかないように、逆側から雑草を抜いてもらう。


 その綺麗な爪の間に土が入って真っ黒になってしまうわよ?

 少しやれば懲り懲りするはずだわ。


「朝からお疲れ様です。昨日の農作業で体は痛くありませんか?」


 テリーにこっそり聞いてみると「いいえ、全く」と微笑まれた。

「重い長剣を素振りする動作に似ていますよね。運動不足にならぬよう、私も殿下も鍛錬の一環としてやっておりますので」


 むうっ、青っ白い顔をしているからてっきり運動なんてしていないと思っていたのに!


 背後から「わあっ!」という弟たちのはしゃぐ声が聞こえて振り返ると、大きな株に成長して根が深くなってしまった雑草を三人で協力して抜いたようだ。


 シリアン様がその雑草を、嬉しそうな顔で「ほら見てくれ」というようにこちらへ掲げて見せて笑っている。


 なかなか抜けなくて困っていたのよね。

 さすがだわ。


 両手を頭上に上げてパチパチと大きく拍手してみせると気を良くしたのか、別の雑草に取り掛かり始めた。


 弟たちは「お兄ちゃん、すごい!」「お兄ちゃん、こっちも!」と、すっかりシリアン様と仲良くなっている。

 人さらいに懐いてどうする!


 きっと弟たちと同レベルで、畑仕事が物珍しくて楽しいのだろう。

 すぐに飽きるに決まっている。

 早く飽きて、もう来ないで欲しいっ!



「シリアン様は子供が苦手ではないのですね」

「年に数回、孤児院へ慰問をして勉強を教えたり、物語を語って聞かせたりしておりますので、むしろ子供の相手は得意分野です」


 くそう、失敗したわ。

 うちのアホアホブラザーズの相手をさせてゲッソリさせる作戦だったのに、やけに楽しそうにしているのはそういうことだったのね。


「テリーさん、殿下がわたしをさらいたいとは、どういう意味なんでしょうか」

 畑の水やりを手伝ってもらうために、テリーとともに井戸へ向かいながら最大の疑問について尋ねてみることにした。


「申し訳ございません…。迷惑そうにされているのは感じていましたが、殿下はいま遅い初恋を体験されているのです。口説き方がおかしいのは鋭意指導中ですので、どうかご容赦ください」


 井戸に吊るされたロープを引っ張って水を汲み上げ、桶に移してまたロープを戻して引っ張り上げるという作業を難なく、そしてわたしの倍ぐらいのスピードでこなしながら、テリーは申し訳なさそうな顔を向けて来る。


「へぇ、随分と遅い初恋なんですね」

 たしかシリアン様は22歳ではなかったかしら。


「…はい、幼少期からあまり同年代の女性と接する機会がなかったようなので。学校にもほとんど通えないまま家庭教師に切り替えましたので」


 それは知っている。

 疎まれっ子の第三王子には常に不運が付きまとう。

 不運で片付けられているが、実は全て暗殺未遂だという噂もある。

 だから、周囲を巻き込まないために離宮でひっそりと暮らしているというのは、有名な話だ。


「はい。多少は存じ上げています。それで、殿下の初恋のお相手とは?」


 可哀そうに。

 シリアン様に見初められて結婚でもしたら、常に身の危険に晒されるではないか。

 彼に対してよほどの愛情を持っていない限り、そんな生活は地獄でしかない。


 水を汲み終わったテリーは、首を傾げながらこちらを振り返った。

「もちろん、あなたですよ。あの夜会で殿下はあなたのことを見初めて、ぜひ恋人に、ゆくゆくは妻にと思っていらっしゃいます」


 嘘!わたし!?

 嫌よ、絶対に嫌っ! 


 


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