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うみねこダイアリー  作者: 碧 青空
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1年春 初めての下宿

日曜の朝、下宿の食堂でツカちゃんとホブさんの3人で朝食を食べていると、この下宿にどうやってやって来たかの話題になった。


二人は引っ越し屋さんに依頼、自分は両親と布団と必要なものをカローラに詰め込んで海を渡ってやってきたことを話した。


「それでか、クロちゃんの部屋には荷物が少ないよね。」


ホブさんが眠そうに味噌汁をすすりながら言った。


「布団って結構かさばって、車に詰め込んだら他の荷物が入らなくなったからね。」


俺は鮭の骨を取りながら、当時のことを思い出しながら話した。


「そうかぁ?みんなはじめはそんなもんじゃない?」


ツカちゃんがホブさんを箸で指した。

ホブさんは箸を遮るようにして


「じゃーさ、電化製品は何を持ってきた?」


俺は天井を見ながら・・・


「えっと、ラジカセと3.5インチ白黒小型TV、ドライヤー・・・かな?そういう、ホブさんは?」


「俺は~、ラジカセ、15型カラーTV、スタンド、ドライヤー、目覚まし時計・・・それと、こたつだ。」


「こたつは必需品だよな。」


ツカちゃんが合いの手を入れた。


「ツカちゃんは?」


「俺はステレオ一式、こたつ、ラジオ、スタンド、ドライヤー、15インチカラーTVだな。」


「豪勢じゃん!」


ホブさんが箸でツカちゃんを指した。


「そう?こんなもんじゃない?クロちゃんはこれから揃えるんだろ?」


「うん、TVがほしいなぁ。今は白黒TVだからね。そのうちステレオ・・・は高いから、アンプとカセットデッキとスピーカーだけでもそろえたいなぁ。」


「楽しみがあっていいじゃん。俺も家電に限らずほしいものがあるんだよなぁ。自動車免許はあるけど、車は持てないから原付とかほしいなぁ。」


ホブさんがお茶を飲みながら遠い目をして言った。


「学校に通うのは近くて徒歩で通えるんだけど、街まで買い出しとかには不便なんだよな。できれば車がほしいけどさ、維持費が高くて無理だから、原付はほしいなって思うよな。」


ツカちゃんも同じ考えだったようだ。

どうやら二人は、自動車免許を持っているようだ。

俺は原付免許しか無いので、選択肢は無い。だから原付バイクHONDA CB50Jを購入した。


「原付はいいよ~。買い出しとかには必要だよ。この辺にはお店がないし。」


俺はお茶をすすりながら言った。


「階上の方にそこそこのお店があるし、少し下ったところに小さなお店もあったよぉ。」


ホブさんはもう探索済のようだ。


「階上のお店に行ったけど、高いぞ!下の小さな店も・・・」


ツカちゃんはすでに買い物をしていたようだ。


「バイクだと街まで買い出しにいけるから便利だよ。大きな物は運べないけどね。」


「クロちゃんが原付を買ったのって、結構早かったよね?」


「うん、まだ雪が残っている頃に買ったからね。」


「好きなバイクを見つけるのが早かったよな。」


ツカちゃんが興味深そうに俺の顔を見た。


「あれはね、まだ、雪が残っていたけど、バイク通学者がちらほら増えてきた頃に、バスで街まで買い出しに行ったんだ。そしたら橋を渡る手前の国道の交差点沿いにバイクの展示をしていて、ちらっと見えたのがCB50Jだったんだ。買い出しの帰りにバスを降りて展示場に寄って・・・気がついたら購入契約してたよ。あはは・・・」


「一目惚れだったんだねぇ~」


ホブさんがにんまり笑った。


「うん、まぁ、ねぇ~」


柄にもなく照れてしまった。


「もうね、エンジンかけた時の音を聞いたらこれだって思ったね!」


二人に向かってバイクのアクセルを開ける仕草をした。


「でもさ、支払いが12回払いで、小遣いから引かれているんだよ。無駄使いができません!」


俺は頭をかいた。


「そっか~、俺もバイクほしくなってきたなぁ。夏休みに見てくるかなぁ。」


ツカちゃんがイスから立ち上がりながら言った。


「俺もだ~」


ホブさんも立ち上がって両手を上げて伸びをした。

指先が天井に着きそうだった。

それを見たツカちゃんも片手を上げてちょっとジャンプして見せた。


「片手なら天井に着きそうなんだけどな。」


「ムカイさんは両手指先が、天井に着いてたなぁ・・・」


「つま先立ちしてたんじゃない?」


「してたかなぁ?覚えてないや。」


「この下宿で一番背が高いんじゃない?」


「そうじゃない?他にはヤマちゃんがいるけど、俺たちと同じくらいかな?」


二人は俺の方に目を向けて”ニマッ”と笑った。


「クロちゃんもこれから伸びるよ!」


ツカちゃんが俺の肩を”ポン”と叩いて食堂の扉を開けて出ていった。


「もう、伸びないって!」


ホブさんがおどけた顔で言った。


「ホブさんひどい!」


「あはは・・・じゃ、お先~」


ホブさんも食堂を出ていった。


平均身長はあるんだけど・・・

この下宿の平均身長はきっと170cmを越えているんじゃないだろうか。

でも背が高いって無条件でもてるんだろうなぁ。


うらやましい・・・ハァ・・・


俺はひとり天井を眺めながら、ため息をついた。





部屋に戻るとTVを点けて観る。

TV番組も、青森放送、青森TVとNHK,NHK教育、受信状態が良ければTV岩手が見れる。

アンテナは室内なので受信状態なんて日毎に変わるし。

”笑っていいとも!”は夕方に放送される。もう、勉強だけしていなさいと言わんばかりの環境だ。


それに俺の部屋は物が無いので、広く見える。

布団は寝るときに押入から出して使う。

これを毎日行うのはちょっと億劫だ。


ベッドがほしい・・・

布団の出し入れから解放されるし、ベッドの上の方が、冬は暖かい。


さてどうしようか・・・


ベッドは高価だし、運ぶのも大変だ。

そういえば、大家のおじさんがコカコーラ1リットル瓶用のケースを物置に積んでいたのを見たことがある。

大家さんはコカコーラの自販機を持っていて、国道に面した下宿の入り口の横に設置している。

もっぱらの消費者は、下宿人だけどね。

ちなみに自販機のそばには公衆電話がある。帰省の時などはここから、実家にコレクトコールで電話を掛けて帰省の日時を伝えている。

逆に実家から電話をするときは、大家さんの家に掛けることになっている。



早速、大家さんの家に行く。

大家さんの家は、下宿の玄関を出てすぐ左側にある平屋だ。


「大家さん、いますかぁ?」


大家のおじさんが玄関に出てきた。


「おぉ、黒崎くんどうかした?」


「あの、コカコーラの1リットル瓶のケース売ってくれませんか?」


「ケース?そんなもの買って何に使うんだい?」


「ベッドにするんです。ケースを逆さまにして10個くらいを、2列に並べると布団を載せるのに、ちょうど良いと思うんですよ。」


「おもしろいことを考えるなぁ。ケース、そんなにあったかなぁ・・・」


おじさんは物置に向かいながら軽く笑った。

物置は下宿の玄関から真向かいにあり、国道沿いのところにある。

物置はお風呂と一緒の建物になっている。


「普通のベッドを買おうか、考えたんだけど、高いし、運ぶの大変だから・・・このコーラのケースなら、かさばらないし便利かなと思うんですよね。」


おじさんは物置きに入るとケースを数え始めた。


「売るのはいいけど、いくついるの?1個200円だよ。」


「とりあえず、10個ください。」


「10個ね。」


おじさんは、積んであるケースを数えた。


「ちょうど10個あるわ。全部で2000円だよ。」


「はい、お金は後で持ってきます。」


ケースを2個持って玄関に向かった。


「いや、来月の電気代の請求書にケース代も入れておくから、それでいいかい?」


俺はケースを玄関の中に置き


「はい、それでお願いします。」


おじさんは残りのケースを運ぶのを手伝ってくれた。




部屋にケース10個を運び込んで、並べる場所を考える。

まずは部屋に入ってすぐの、押入の近く、東側に並べることにした。

ケースは軽いので移動も楽だ。

それに上に積めるので場所もとらないし掃除も楽だ。


ケースを逆さまにして2列に並べる。

その上に布団を敷いて見ると、以外とぴったりだった。


布団に寝転がって見る。


「やっぱり、ベッドがいいね~」


思わず、声が出てしまった。

それに、落ち着くし、快適だ。

天井にも手が届くし・・・

まぁ、関係ないけど、つい手が伸びてしまう。


あはは・・・ハァ・・・




なんかすぐにベッドは出来てしまった。

今度はカラーボックスがほしいところだ。

カラーボックスを横置きにすれば、ちょっとした台になるので、15型のカラーTVが置ける。

まだ手には入れていないけど・・・

街の雑貨屋さんに行って見てこようかな?

ついでにカラーTVも見てこよう。



俺はバイクのキーをポケットに放り込み、ジャケットを着てヘルメットの中にグローブを入れて、あごひもを腕に掛けて部屋を出た。


玄関で靴を履いていると、物置の方からホブさんの声が聞こえてきた。

どうやら大家さんのおじさんにコカコーラのケースが無いか聞いているようだ。

ホブさんが少しがっかりしたような顔で玄関

に入ってきた。


「クロちゃん、ケース全部買ったんだって?」


俺はピーンと来た。


「うん、残念でした!ベッド用でしょ?」


「そう、クロちゃんがケースを運んでるのを見てこれはいいなって思ってさ、おじさんにまだケースが残っているか聞いたんだけどさ。」


「無かったでしょ?」


「まーね~!でも来週には、飲料会社から運んでくるそうなんだよね、そのときに分けてもらうことになったよ。」


「そっか。ケースベッド、結構いいよ!もうね、快適!」


「快適はいいけど、ムカイさんもケースを狙っていたようだよ。」


「え!それは知らなかった!」


1号室のムカイさんの扉がゆっくり開いた。

ムカイさんが扉から顔を半分だけ出している。


「クロちゃん~、よくも先に買ったなぁ~」


「ヒッ!いやあの、行ってきま~す!」


俺は逃げるようにして、バイク置き場に向かった。


「クロちゃんのおかげで、ケースの購入は来週になりそうだなぁ・・・」


ムカイさんが顔を引っ込めようとしたとき


「あ、来週は俺だからね!もう予約してあるからね!」


ホブさんが廊下をスリッパでペタペタ歩きながら部屋に戻って行った。


「えぇ~そんなぁ~!」


ムカイさんは、落胆して廊下に額を押しつけた。

そう、この便所の隣の1号室には、”かまどうま”が出没する。

この下宿では、これを通称”便所こおろぎ”と呼んでいる。

以前、ムカイさんの布団の中にこの”便所こおろぎ”が居たことがあり、それ以来トラウマになっているらしい。


「また3週間も我慢するのかぁ~!”便所こおろぎ”は、嫌だぁ~!」


ムカイさんはうらめしそうに、部屋の扉をゆっくり閉じていった・・・





バイク置き場からCB50Jを玄関の前に持ってきてから、バイクに跨りヘルメットを被りグローブを付ける。

このときにスタンドを上げるのを忘れてはいけない。

たまにスタンドを下げたまま走っているバイクを見かけることがあるが、これは危険だ。

自分も何回かやっているので、笑えない事だ。

この1連の行動はいつも心がけて続けている。

はじめはバイク置き場でエンジンを掛けていたが、下宿人が寝ていたらこの上ない迷惑になると思ったからだ。

これは自分の中で決めたルールだ。

帰ってくるときもなるべく玄関前でバイクのエンジンを切るようにしている。


さて、出発準備はできた。

どこに行こうか・・・

ホームセンターはどこにあったかなぁ・・・

確か類家の国道沿いに、カシオペアの曲が流れているホームセンターがあったはず。

何時行っても同じ曲がリピートしていたのを思い出した。

正確にはカシオペアに似ている曲が流れているホームセンターだ。


キーをひねりランプが点くのを確認してから

クラッチを握り左足でチェンジペダルでニュートラルを探す。

緑のランプが点いたのを視認したら支え足を右から左に変えてクラッチを握りながらスターターペダルを踏んでエンジンを掛ける。


ぶろぉぁ!ストトトト・・・


ほんとにこのCB50Jのエンジンの掛かりにはほれぼれする。

ほぼ一発で掛かる。


支え足を入れ替えて、クラッチを握りギアを1速に入れる。

半クラにしながらアクセルを開けて行く。

ふらつかないスピードに乗ったら支え足をペダルに乗せてバランスを取る・・・

視線は遠くに置き、国道45号線に出ていく。

目指すは類家のホームセンターだ。

国道45号線を八戸の街に向かって走る。


風が気持ちいい!


この瞬間が好きだ!


頭の中でジョン&パンチのOP曲を流しながら軽快に走っていると、国道沿いが畑から民家に変わり始めたところで三叉路に来た。

三叉路から右に行くと白銀町に向かう。

こちらには青森労災病院がある。

この辺は住宅がたくさん建ち始めている地区で、国道沿いは区画工事が盛んに行われている。


ここを通り過ぎると下り坂になり、新井田川に掛かる橋が見えてくる。

この橋を渡れば類家に入る。


ところが、坂を下っている途中でエンジンの具合が悪くなった。


ぐぉお・・・

ぐっ・・・

ぐぉお・・・

ぐっ・・・


エンジンが息を付くようになった。


これはガス欠だな・・・


こう言う時はガソリンタンクのバルブレバーを”ON”から”リザーブ”に切り替えてやれば、リザーブに残っているガソリンで10km位は、楽に走ることができる。


あわてず騒がずに走りながら左手でバルブレバーを切り替える。


あれ?リザーブに切り替わらない?

これって、最初からリザーブだったんだぁ・・・

これはまずい!

エンジンが止まる・・・

困った!


橋の手前にある交差点の信号が赤信号に変わったのを視認した。


ほんとうにまずい!

信号が青になればこのまま下り坂の惰性でエンジンが止まっても類家にあるガソリンスタンドまで持つかもしれない。


信号よ早く青になれ!


早く・・・・・・


早く・・・


早く・


・・・


祈りは天には届かなかった。

交差点の赤信号で止まっている車の列に捕まり、止まってしまった・・・

仕方がないのでバイクから降りて押して歩く。

車道では道幅が狭く危ないので、歩道にあがり、バイクを押し進める。


重い!


こんな軽い原付でさえ、押して歩くとなると重い!


ガソリンスタンドまで約1kmくらい。

今までこんな事は無かったのに・・・

乗る前には必ず、タンクを揺らしてガソリンの残量を確認していたのに・・・なぜ?


今日はムカイさんから逃げるようにして出てきたから、いつもの確認を飛ばしてしまったんだ!

ムカイさんの呪いだろうか・・・ハァ・・・

一寸先は闇だ・・・


俺はバイクを押しながら、帰りにムカイさんにおみやげを買っていこうと決めた。

それにしても、ガソリンスタンドが遠い~!





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