冬の神様と、いつもとちがう冬
ことしの冬は、いつもの冬とはちがっていました。
冬の神様は、雪をあちこちに降らせながら、なんだか、もやもやとした気分になっていました。
「う~ん。何かがおかしいぞ。」
森の動物たちは、ことしも、まっしろな冬毛を着こんで、丸~く、かわいいすがたを見せてくれましたし、高い高い山の上には、冬の神様が降らせた雪が、順調につみ上がっていきました。
「どこかがちがうんだが、どこなのか、さっぱり分からん。」
冬の神様は、なにがちがうのか、みつけることができず、もやもやしたままです。
しかし、いちど気になりだすと、あたまの中は、そのことでいっぱいになってしまうもの。
冬の神様は、ついつい気を取られてしまい、雪のもとを、いつもの倍、じゅんびしてしまいました。
「つかれているのかな? きょうは、やけに、雪のもとがおもたいぞ。」
それでも、冬の神様は、きょうのおしごとのために、お空の高い高いところまで、雪のもとをはこんでいきました。
「きょうは、このあたりにしよう。さあて、いっぱい雪を降らせるぞ。」
冬の神様は、はこんできた雪のもとを、ばらまきはじめました。雪のもとは、つぎつぎと下の世界へおちていきます。しかし、いつもは、ゆっくり、小さな小さな雪の花に変わるのに、きょうはちがっていました。いつもよりも、大きなかたまりになった雪のもとは、きれいな雪の花にはならず、ぼとり、ぼとりと、おちていきました。
「やっぱり、へんだぞ。」
冬の神様は、大きなかたまりになった雪が、おもそうに、どすん、どすんと、じめんに着地していくのを見ながら、かんがえこみました。
そのころ、下の世界は、たいへんなことになっていました。
ふだんの倍の雪が、降ってきて、あっという間にじめんをおおい、さらに、どんどんと、おもい雪がつみ上がっていきます。
いえも、おみせも、がっこうも、雪でおおわれてしまいました。
こうばんも、びょういんも、しょうぼうしょも、雪でおおわれてしまいました。
道も、せんろも、ひこうじょうも、雪でおおわれてしまいました。
しかし、いっこうに、雪がやむ気配はありません。
冬の神様がじゅんびした、きょうのぶんの雪のもとが、まだまだたくさん、のこっていたからです。
道には、つもった雪のために、すすめなくなった車が、れつを作っていました。
おうちへ帰るとちゅうの車も、おみせにしょうひんをはこぶとちゅうの車も、とまってしまいました。
ぴ~、ぴ~。ぷ~、ぷ~。
とまった車のれつの、あちらこちらから、けいてきがならされされました。
「あれれ、どうなっているんだ?」
冬の神様は、雪におおわれて見えなくなりつつある、下の世界のようすに、おおあわて。
「しまった。雪を降らせすぎた!」
冬の神様は、のこった雪のもとを、おおいそぎで、海まではこび、なげすてました。
ようやく、雪がやんだ下の世界では、みんながきょうりょくして、雪かきがはじまりました。
雪でおおわれた、いえをほり出し、おみせをほり出し、がっこうをほり出しました。
雪でおおわれた、こうばんをほり出し、びょういんをほり出し、しょうぼうしょをほり出しました。
道も、せんろも、ひこうじょうも、とちゅうでとまってしまった車のれつも、ほり出されました。
「やれやれ。しかし、いったい、どうしたことだろう。」
冬の神様は、にんげんたちのようすが、いつもの年とちがうことに、気が付きました。
にんげんたちは、みな、顔のはんぶんをかくしており、はなれて歩き、うつむいています。
「そういえば、いつもの冬にくらべて、しずかだな。」
冬の神様は、にんげんたちのようすが、いつもの年にくらべて、くらいことにおどろきました。
「はぁ、いいことないなぁ。」
「わるいことは、かさなるねぇ。」
「春がきたら、ちょっとはよくなるかなぁ?」
冬の神様は、もともと、にんげんたちには、あまり、ありがたがられてはいないことを知っていました。
雪をつもらせ、水がたりなくならないようにしていても、じめんを休ませ、のうさくもつをそだてるじゅんびをさせていても、にんげんたちは、それを、ありがたいとは、おもってくれないのです。
「あ~あ。これで、また、よけいに、きらわれてしまったなぁ。」
冬の神様は、がっくりと、かたをおとし、すごすごと、おうちに帰りました。
よくじつ、たくさん、たくさん、つもった雪を前にして、こどもたちは、おおよろこび。
「雪だるまを作ろう!」
「かまくらが、作れるね。大きい、大きい、かまくらが。」
「それより、雪がっせんをしようよ。」
「僕、そりをもってきたよ。これで、すべりっこしよう。」
「それなら、そりをすべらせる、すべりだいを、雪で作らないとね。」
もう、みんな、おおはしゃぎです。
もう、1年ちかく、マスクをしつづけ、おともだちとも、はなれてすごさねばなりませんでした。
きょうだって、マスクはつけたまま。あんまり、おともだちと、ちかづきすぎてはいけないと、お父さんやお母さんからは、ちゅういされています。
それでも、やっぱり、たくさん、たくさん、つもった雪は、こどもたちをよろこばせました。
らいねんの冬、冬の神様は、こどもたちのえがおを、見ることができるでしょうか?
にんげんたちが、顔をかくさずに、あかるくすごしているようすを、見ることができるでしょうか?
それは、神様にも、分からないのです。
おしまい。