光の下に生まれた者は、闇を目指して生きているのではないだろうか(仮題)
99割妄言です。
深く考えずに、笑い飛ばすつもりで読んでください。
間違っても絶対に影響されないでください。
夜空と星空は、似ているようで実は全く違う。
光り輝く星たちは、宵闇の空にとっては五月蠅い存在でしかない。
そう、夜空とは闇、青空は光――そして星空というのは、その二つの要素がせめぎ合う混沌なのだ。
かつて宇宙は、完全なる闇だった。
光はなく、何者をも死に至らしめる絶対的な寒さだけが、そこにはあった。
何も見えず、生物の存在を認めない、完成された世界――だが、そんな理想郷も破壊されてしまった。
完璧に見えた宇宙にも、一つだけ欠点があった。
それは、何も存在しないわけではない――完全な『無』ではないという点である。
そう――世界を壊した反逆者は、内側にいたのだ。
ある時宇宙に、光を放つ存在が現れた。
恒星の誕生である。我々地球人にとっては、太陽が一番身近な存在だろうか。
これにより宇宙は混沌と化し、その暖かさは生物という苦痛の権化を生み出してしまった。
その我々から見れば強大で、宇宙から見れば矮小な反逆者が、どのようにして生まれたのかはわからない。
我々人類が、自らの親の出生に立ち会えないのと同じである。
太陽は我々にとっての親――いや、地球が太陽の子供だとするなら、我々地球人類は太陽の孫と言えるだろう。
太陽を代表とする恒星たちは、宇宙をあるべき姿から変えてしまった。
光に照らされた星たちは、静寂なる夜空を侵略した。
では、光の下に生まれてきた我々人類は、何を壊すのだろうか。
……その答えは、私にはわからない。いや、きっと、誰にだってわからないのだ。
だからこそ地球上の生物は、太陽の光を受けた、光の信徒同士でも壊し合う。肉食獣は草食獣を喰らうし、草食獣だって草花を刈る。
中でも最悪なのは我々人間で、地球という親でさえも壊そうとするし、それどころか同族同士で争いだす。
戦争などというものが存在するのは、必然だろう。
生物は壊し合うように生まれてきているし、人間はその中でも高い知能を持って生まれてしまった。
その結果、人間は苦痛を受けるのが大嫌いだが、そのくせ苦痛を与えるのは大好きな、とんでもなくどうしようもない生物に仕上がってしまっているのだ。
争いなどという、わかりやすい部分だけではない。
人間はその賢さゆえに、他者と手を取り合うことを覚えた。そして、その手を離して突き飛ばすことだって、簡単にできてしまうのだ。
自分に利益があるうちは利用するが、価値が無くなれば手放す――そんな光景は、どこにでも広がっている。
それらの生態を、『自然の摂理』の一言で納得できるほど割り切りの良い思考が出来るのであれば、まだ救いはあったのだろうか。
しかし恥知らずにも、人間という生き物には感情という非合理的なものが備わっている。
何か良いことがあれば喜ぶし、逆に自分にとって不都合なことがあれば怒る。何かを失えば哀しむし、そのくせ何かを壊そうと攻撃的になっているときほど、楽しいなどと感じるものだ。
一方で人間は、その手で何かを生み出すこともできる――と思われがちだが、実のところそうでもない。
結局やっていることは、材料を集めて加工しているだけなのだから。その過程で何かを削ぎ落すことはあっても、生み出すことはない。
そうでなければ、石油を初めとした資源の枯渇など、起きるはずは無いのだ。
例えばだが――割り箸を作ればその分の木を切り倒す必要が出てくるし、その過程で葉や削りカスは処分される。
その処分されたゴミは活用されないし、なにより地球上の元素の量は増えていないのだから、結局破壊活動にしかなっていない。
しかもその成果物である割り箸とて、最終的には捨てられるのだ。何から何まで壊してばかりである。
俺は人間社会の中で、そんなどうしようもない生態を腐るほど見てきた。
道のド真ん中に、汚らしい唾やガムを吐き捨てる不良。感情任せに人を傷つけ、その上形だけの償いで済ます殺人者。怒鳴りつけるだけで他に何もできないくせに、俺の手柄だけは横取りする無能な上司――
彼らだけではない。人間という生き物は、多かれ少なかれ同じような面を持っていて、それを上手く隠せるかどうかの違いしかないのである。
俺がこの真実に気が付いたのは、ごく最近のことだ。
数ヶ月前まで、俺は大手の広告代理店に勤めていた。給料は良かったし、同窓会などでかつての学友に自慢してやると、みんな俺を羨んだ。
男手一つで俺を育ててくれた親父も、きっと誇りに思ってくれていたはずだ。
新卒で入った会社は最低でも三年の間は辞めるなとよく言うが、俺は丁度そのぐらいの間この仕事を続けていた。
実家ぐらしなのは格好が付かなかったので、そろそろ一人暮らしに切り替えようと考えていた、そんな時期のことだった……
ある日、俺は会社の同期たちと飲みに行った。
酒はそこまで好きではないが、人付き合いは大事だと、本能が悟っていた。
その日は給料日なだけあって、誰もがベロンベロンになるまで飲んだ。俺も、その日は飲みすぎた。
当然、店に居るのは俺たちだけではない。
……にも関わらず、俺の同期たちは騒ぎ過ぎてしまった。
結果としてそれは、顰蹙を買っていたらしい。近くにいたラフな格好の男たちが俺たちのところへ来て、その中の一人が俺の胸ぐらを掴んだ。
ここで謝ってやり過ごせたのなら、特別語る価値のある話ではなかっただろう。
しかしその日は酔いすぎていた。俺たちは誰も反省する素振りを見せなかったし、それどころか煽ってしまった。
男は激昂したのか、俺を突き飛ばし――そして、近くにあったビール瓶を手に取って、割れるほどの勢いで俺に叩きつけた。
俺は一瞬だけ何が起きたのか理解できなかったが、頭に迸る激痛は、俺に粗方の状況を伝えてくれていた。
次に来たのは、抑えようのない衝動だ。そのどこまでも邪悪な本能が、俺を動かしていた。
気がつくと、俺は割り箸を男の目に突き刺していた。
そこからは、もう乱闘である。
奴らと俺たちは、殺し合う勢いで暴れた。怒号と椅子が飛び交って、酒と料理と血が飛び散った。
結果、店は滅茶苦茶。怪我人も多数出て、無関係な客も巻き込まれた。
その場は警察が収めてくれたが、当然それだけで済むはずもない。
これは立派に傷害事件で、俺は会社を懲戒解雇された。
それだけなら納得できるのだが、一緒に暴れた同期どもは殆どお咎めなしだったらしい。どうやら、俺一人に責任を押し付けたようだ。
俺が目を潰した男とは、なんとか示談で解決した。
奴も俺の頭をぶん殴っていただけあって、あまり強くは出られなかったようである。
巻き込まれた客にも必死に謝って、どうにか俺は犯罪者にはならずに済んだ。だがそれと引き換えに、示談金で貯蓄は尽きてしまっていた。
全ての後始末を終えた俺は、しばらく実家で羽を休めていた。
都の郊外にある小さな家だが、俺はここが好きだし、一人暮らしを始めてもなるべく近くに住もうと考えていた。
そしてある日の深夜、コンビニへの買い物から俺が帰ると――
家は燃えていた。
犯人は意外なほど早く判明した。俺に目を潰された、あの男だった。
どうして俺の家を知っていたのか、そして何故警察はすぐに犯人を突き止められたのか、それはわからないし、今更知りたいとも思わない。
ただ一つ言えるのは、俺は全てを失ってしまったということである。
そう、俺自身は無事だったが、親父は炎の中に消えてしまったのだ。
全てが、思い出だけの存在となってしまった。
あの男は、懲役十五年となったらしい。当然だが、俺の気は晴れなかった。
だがそれ以上に気に食わないのは、奴はこの期に及んで尚も、俺に対して恨み言を吐いているらしいことだ。
それを聞いた時、俺は悟った。光という反抗の象徴から生まれた人間は、所詮ただの獣でしかないのだと――
……さて、俺はそろそろ闇の世界へと一歩踏み出そうと思う。
流石にもう、光の信徒であることに嫌気がさした。
この星空のよく見えるビルの屋上から、俺は旅立つのだ。
光の下に生まれた者は、いずれ闇に還る運命にある。それは遅いか早いかの違いでしかない。
この手紙を読んでくれている君ならば、きっと俺の気持ちがわかってもらえると思う。
そして、生物が苦痛を味わい続けることの、馬鹿馬鹿しさも……
生きるということは、抗い続けることだ。死とは、あるべき姿へと戻ることだ。
つまり俺の行動は何一つとして間違っていないし、君が取るべき行動を示しているものでもある。
現実逃避のように思われてしまうかもしれないが、これは真理である。
君も一度、よく考えてみてほしい。
そして、いつの日か人生に疑問を持ったのなら、その時は俺のことを思い出してほしい。
きっと答えは出てくるはずだ。俺と同じ道を選択するはずなのだ。
ではいつの日か、また会おう。
その日まで、俺はこちら側で待っている。