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夢を見て僕は。  作者: U-ki
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1 仕事

あと15分後くらいだろうか。


そんな事を思いながら、僕は一人真っ暗な部屋の中、体を丸めて寝そべっていた。


こんな事を思っていても仕方がないし、この先のことを考えれば早く寝て少しでも多く睡眠を取らないといけない。

そう思えば思うほど眠れなくなってしまう。


しかし、日頃の疲れは少なからず溜まっているもので、気づけばだんだんとウトウトしてきた。


もう少しでようやく睡眠をとることができる思ったその時、耳元で毎朝聞いている腹立たしい音が鳴り響いた。


起きる時間だ。


僕は音を止め横目でちらりと時計を見る。

「23:00」時計にはそう表示されていた。


誰かが聞いている訳でもないのに、今の様々な感情からくる苛立ちや反発をわざとらしいため息に込めて吐き出した。これが僕ができる最大限の反抗。


布団から起き上がり、ゆっくりと身支度をする。


準備ができた僕は家を出て「仕事」へ向かう。


辺りは暗くとても静かで人も全く歩いていない。

当然だ、普通ならみんな寝ている時間なのだから。


これから仕事をするという憂鬱な気分が頭の中を支配するなか、僕は自転車にまたがり夜の街を駆け抜ける。


寒い。


12月の痛い寒さがますます今の憂鬱な気分を強くさせる。




会社の近くまでやってくると「ステージサウンド」と書かれた看板が照明で照らされている。

僕が入社した音響の会社だ。


駐車場を見てみる。機材を積んだトラックは先に今回の現場に向かったようだった。

他に会社にはまだ誰も来ていないようだ。


会社のドアの鍵を開け入ると、タバコの匂いが真っ先に飛んでくる。

この匂いを嗅いで2年は経つが、タバコを吸わない僕にとっては、未だに強烈な匂いだと思う。

今の眠気が覚めるほどではないが。


みんなタバコ吸いすぎでは?と思いながら、適当な場所へ荷物を置く。


そして入口近くに掛けてある社用車の鍵を手に取り、駐車場にある社用車に乗り込んだ。


ここからはいつも現場へ出発する前のルーティン。

車を会社の入口近くへ移動させる。同乗する人達が乗りやすいようにする為だ。

これも僕のような若手がする「仕事」の一つだ。


車を入口近くにつけるルールは無いし、先輩に教えてもらった訳でもないが、今では暗黙のルールのようになっている。


そのルーティンを終え、さて今は何分だろうかと時間確認のついでにスマホを触ろうかと思っていると、外から車が来る音がした。


僕の嫌いな音の一つ、上司がやって来る音。

ちなみに他にも、音響機材を載せたトラックのバック時の警報音などがある。まあ今はそんなことはどうでもいい。


僕は気づかないふりをしつつ、スマホを触る。


すると数十秒後、会社のドアが開き、背の高い男性が入ってきた。

千葉さんだ。社内でも腕の良い中堅PAエンジニアだ。

僕の尊敬する人の一人。


「おはようございます。」

僕は入ってきた千葉さんにありのままのテンションで挨拶してしまう。

あ、いくら夜中とはいえ、さすがに暗すぎたかと思っていると、


「おはようー。早いね。」

と返事が来た。


以外にも普通に返事が来たことにホッとしながらも、僕は会話を続けようとする。


「まあ、ルーティンがありますからね。」

「ルーティン?」


しまった。僕の頭の中の単語をそのまま口に出してしまった。


「あ、車の移動です。」

と僕は慌てて言い直す。

「なるほどね、さすが中田君だね。」

近くにあった手頃な椅子に座りながら千葉さんは僕らの心ない会話を続けた。


だってやらないと怒るでしょ?などと思ったが、そんなこと直接言える勇気も無く、

「そんなことないですよ、みんなやってますからね。」

と無難にそう答えた。


千葉さんは、まあね。と適当に返事を返しながらコーヒーを作り出した。


会社の中のタバコの匂いの中に微かにコーヒーの香ばしい匂いが混ざりはじめたその時、ドアの開く音がした。


ついつい、いつもの癖でドアの方に目がいってしまう。この癖は僕だけではないようで、千葉さんもドアに目を向けていた。


一人の女性が入って来た。

伊藤さん。僕と5歳離れている上司。綺麗な女性というよりは可愛い女子といったタイプだろう。完全に僕の主観だが。

伊藤さんも千葉さん同様、今回の現場のメンバーの一人


「おはよう…」

「おはようございます。」

なんだか疲れてそうな伊藤さん。確かに、大きい仕事が続いていたから当然だ。

かわいそうに、と思いながら、僕は千葉さんの時よりも少し元気に挨拶を返す。


すると、間も無くしてまたドアが開き男性が一人入って来た。


今回の現場の最後のメンバー、石元さんだった。

石元さんはいつも明るくムードメーカー的な存在でもある上司だ。だが、さすがに今は少し大人しい。


「おはようございますー」

「おはよう。」


深夜ということもあり、みんないつもより暗めで僕だけじゃなかった、と少し安心した。


「じゃあ皆んな揃ったみたいだから軽く打ち合わせしようか。」

と言いながら今回の現場のリーダーである千葉さんがテーブルに資料を広げる。



数分後、僕らは打ち合わせを終え、会社の入口近くの僕が移動した車に乗り込んだ。


もちろん、一番若い僕が運転席。


車のエンジンを止めずにエアコンをつけて温度調整をしていたので車内は丁度よく暖かかった。

いや、丁度良すぎてさらに眠たくなってしまうのでは?と思ったが、今更遅かった。


車の運転席に座った瞬間、僕は改めて、これから仕事に向かうのだなと実感した。

それと同時に覚悟を決めた。


「それじゃあ出発しますねー」

「お願いしますー」

と皆さんが僕の宣言に返事をする。


その返事を聞いた僕は大きく息を吸って、ゆっくりと車のチェンジレバーに手を掛け「ドライブ」にして、車を走らせた。


車内の雰囲気は全く「ドライブ」ではなかったが。


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