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51:切り札

切り札その2にして俺たちの本命。

それがあのシェルタートル。

中にドラゴンアイを仕込んでおき、タランチェを中に閉じ込めて余すことなくその威力を食らわせる。


シェルタートルには欠陥があったことを、海底神殿の探索前にオラウさんから聞いていた。

それは、移動先が未入力のまま起動すると、解除される条件が無くなり壊れるというもの。

詳しい説明は省かれたが、一歩も歩かないと魔具が正常に戻ろうとして暴走してしまい、高熱を発してしまうとか。


その高熱がドラゴンアイを起爆させるのにうってつけだった。

爆発に必要な熱量に達するかはわからなかったので、念のためフレンさんに発熱剤を調合してもらい、ドラゴンアイに添えておいた。


この作戦は見事ハマり、予想以上の大爆発が起こった。

呪術魔法がなくなっているあたり、タランチェに相当のダメージを与えられたか、倒せたということだろう。


俺たちは互いの無事を確認し合い、ファストリカバリで回復してから、神殿の広間だった場所へ戻った。


神殿は完全に崩壊。

わずかに面影を残しているだけで、あとは瓦礫の山。


呪術魔法がどのようなものだったのか今となってはわからないが、逆にあれがなかったら俺らは神殿の中で巻き添えになっていたかもしれない。

呪術魔法で移動した距離が、ちょうど神殿の外までの距離だったようで、おかげで埋もれずにすんだのではないかと思う。


魔具とウパの魔法を使って、瓦礫をどけていく。

こんなことはできればしたくないけれど、タランチェの死は確実に確認する必要がある。

もし、まだ生きているようなことがあれば、その時は…。


「ハリネ!」


フレンさんに呼ばれて駆け寄る。

そこには、焼け焦げた老人の腕が落ちていた。

シェルタートルに閉じ込められる前のタランチェの腕。

ということは、タランチェがここらへんに埋もれているかもしれない。


思った通り、タランチェは腕のすぐ傍にいた。

丸めた体が真っ黒に焼けただれている。

宿敵とはいえそのグロテスクな状態に吐き気がした。

それをぐっと飲み込み、俺はタランチェの顔を確認するために一押しして横たわらせる。


とても生きているようには見えない。

それでもまだ俺は油断しなかった。

グローブをはずし、首に手を添える。脈は感じない。


さらにライフサーチを確認する。

今ある反応は、三つ。


俺と、


フレンさんと、


ウパ。


違う!


俺の近くに、微かだけれど四つ目が!?


俺はタランチェに再び目を向ける。


「アブセ…コバム…ラ…」


空洞のようになっていたタランチェの口の中から、たしかに言葉が聞こえる。

その瞬間、頭に激痛が走った。

脳を切り刻まれている錯覚すら覚える苦痛に、俺は頭を押さえて転がる。


「「ハリネ!!」」


二人の声がしたかと思うと、誰かの手で口を塞がれた。

そしてそこから、耳を疑うような声が聞こえる。


「まさか、これを使わされるとは思っていなかったよ」


俺の口を塞いでいる手から、タランチェの声がする。

その手は微妙に動いていて、まるで手の甲に口ができているかのようだった。


「タランチェ、あなた…腕だけでも生きていられるの?」


ショックを受け混乱しながらも、フレンさんが今起こっていることを確認する。


「違うよ。わしがいるのはグッドラッカー、お前の頭の中さ」


頭の中が熱くうねる。


「マーカーを付けたと言っただろう?

あれはわしの魔力である故、もしもの時の保険にもなるのさ。

お前を乗っ取って復活するためのな」


視界が赤く染まり、脳から首をつたって何かが伸びていくような感覚がある。


「オラウから聞いたよ。

お前、自分に魔力があると勘違いをしていたんだってね?

まぁ、無理もないけれど、あれはわしの魔力であってお前のではない。残念だったな」


やばい…。

やばい、やばい、やばい。


本能が、このままでは自分を失ってしまうと言っている。

そうなったら、次はフレンさんとウパが危ない。


「フタリトモ…ハヤク…オレヲ…」


塞がれた口でなんとか二人に呼びかけるが言葉にならない。

しかし、二人は為す術なく立ち尽くしていた。


死になくない。


でも、このままではみんな殺されてしまう。


俺が死ねばまだ間に合うかもしれない。


だけど、どうしたら自殺できる?


フレンさんとウパは、俺を殺せないかもしれない。


このままでは自分たちも死んでしまうかもしれないのに、俺を見捨てることができないかもしれない。


………。


そう思ったら、

それに気が付いたら、

俺の中にたしかな覚悟が生まれた。


何もなかった俺に、この世に残したい物ができている。


尖った瓦礫を掴むと、辛うじて塞がっていなかった口端に突き刺し、そこから頬を切り裂いた。

これもかなり痛かったが、今の俺なら耐えられる。


驚いているウパの目を見て、俺は言った。


「大きな…あの赤い光線を目の前に頼む!考えがあるんだ!」


俺のぐしゃぐしゃな声が聞こえてウパがびくりと肩を震わせる。


「ウパ!」


気を確かにとフレンさんが呼びかける。

はっとしたウパが、あの真っ暗な空間の穴を出現させた。


「ハリネ!!」


ウパの心配そうな叫びが聞こえる。


………。


…タランチェ、聞こえているか?


俺は頭の中で呼びかける。


これでお前も終わりだ。


俺はウパとフレンさんを見る。


静かな気持ちだった。


こんな風に、心から誰かを思い、笑ったのは何年ぶりだろうか?


短い時間だったけれど、俺はたしかに幸せだった。


この二人のためなら、俺は死ねる。


俺は最後の力を振り絞って、ウパが開けた空間の穴に身を投げた。

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