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46:運命の真実

「ハリネ!」


フレンさんに肩を強く掴まれて、俺は気絶寸前のところで立ち直った。

でも、未だに目の前の光景が信じられない。

あのオラウさんが俺の敵だったなんて…。


「あなた、今『グッドラッカー』って言ったわよね?

それがどういう意味か聞いてもいいかしら?」


たぶんフレンさんは、俺が異常をきたしたまま戦闘に入るのはまずいと考えて、意図がバレバレなのを承知で会話を長引かせようとしている。


「ほっ!」


タランチェはそのふてぶてしさを笑う。

オラウさんは特にリアクションしなかった。タランチェの反応を伺っていたようで、特に何もなかったのでフレンさんの問いかけに答え始める。


「いいでしょう。『グッドラッカー』とは何代も前から研究し続け、私の父の代でようやくその存在を認識できた者のことです」


研究って…。

ここへ来た時に、たしかフレンさんがそういう人がいたと言っていた。

それがまさか、オラウさんの家族だったなんて。


「そうだったんだ。

昔、それに関する記事を読んだことがあったけれど、まさかそのお孫さんだったなんて。

その時はまだ妄想の域を出ていなかったようだったけれど」


フレンさんが挑発的に言う。


「世間的にはそうですね。まだカンパニーがそれほど大きくありませんでしたから、融資の対価として現状を報告する義務がありました」


「それが不要になった時から情報が止まっていると?」


「そういうことです。

もっとも、真相がわかったところで公表する気などなかったそうですが」


オラウさんは淡々と語る。


「その真相ってやつを、もしかして教えてもらえるのかしら?」


オラウさんは一つ咳払いをすると、腕を後ろに組んだ。


「あなたは、創作の長編小説を読んだことがありますか?」


「…あるけれど?」


「その作品を穿った見方をした際、とても都合の良い登場人物がいませんか?」


フレンさんは答えなかった。


「…まぁいいでしょう。

かならずとは言いませんが、そういう人物はいるものです。

なぜなら、作者が物語を進める上で障害が生じた場合、それを柔軟に取り去ることができるから。

言わばもしもの時の保険です」


「それを現実の世界に当てはめたのが『グッドラッカー』?」


「そうです」


それを聞いてフレンさんが鼻で笑う。


「それじゃあ、この世界は出来の悪い物語と同じって言いたいの?

そんな馬鹿げた話を信じるの?」


「じゃあお前が今まで見てきたものをすべて否定するのかい?」


タランチェが話に割り込んでくる。


「どういうこと?」


「生命の循環を管理する神の使いなんていう存在は、でたらめだというのかい?」


タランチェはカーマのことを言っている。

神という存在をどう捉えるのかは人それぞれだが、物語という視点で見ると都合のいい存在と言えなくもないのではないだろうか。


「カーマを物語の表舞台で活躍する調節役とするなら、『グッドラッカー』は裏舞台の存在さ。

同じ神の使いかどうかはわからないが、そんなことはどうでもいい。

重要なのは、『グッドラッカー』を転がすことで物語が動くということさ」


そう言って、タランチェがひっひっと気味の悪い声で笑う。


「そ、それが…」


フレンさんの時間稼ぎのおかげで、少しずつ俺の思考が回復してくる。


「それが俺だっていうのか?」


果てしない違和感。

主要人物ではないにしろ、俺が誰かの物語の登場人物。

そんな者になれた自覚など一切無い。


「そうです」


オラウさんは言い切った。


「私とあなたが出会った街が今どうなっているかご存じですか?」


オラウさんが突然話題を変えてきた。


「いや…知らない」


「壊滅しました。

あなた方が海底神殿に入った直後、突然溢れ出したダンジョンモンスターによって」


「…はっ?」


意味がわからない。街が壊滅した?


「そして、天から現れた女神と勇者によって、そのモンスターどもは退治されました」


「ゆ、勇者?」


「ハリネさん。あなたは本来その勇者の付き人となり、いずれ訪れるピンチを切り抜ける切り札だったのです」


頭がまた真っ白になる。

言っていることが幼稚過ぎる。女神?勇者?付き人?

バカバカしい。あまりに粗末な暴論。


俺の反応が無くても、オラウさんは続けた。


「私とタランチェがあなたを意図的に死に追いやり冒険へ駆り出すことで、凡人であるあなたが生き残るために魔法道具が必要となって私と出会う。魔法道具を持ったことであなたはホワイトドラゴンまで辿り着ける。そして、まだ役目を終えていないあなたを死なせないために神の使いが覚醒する」


「ま…まさか。それがウパ?」


「カーマの力を求めていたわしと、『グッドラッカー』を証明したいオラウ。

偶然出会ったわしらの利害が一致した時、お前とウパがわしをカーマの所へ導いてくれることが決まっていたのさ」


「じゃあ、占いなんてやっていたのは…、もしかしてお店をクビになったのも…」


「オラウの研究を基に見つけ出したお前を、偶然を装ってフレンと出会わせるため。

そして、カーマと出会う予定のお前にマーカーを付けるため」


真っ黒な悪意がそこにある。

他人の人生はおろか、人類の歴史さえ心底どうでもいいと思っている。

あるのは自分の欲望のみ。


そんな奴らに俺の人生は、狂わされていた?

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