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37:急展開

眩い光は徐々に弱くなってきたが、だいぶ長いこと視界を奪われてしまった。

いったい何が起こっていたんだ?

俺はまだ眩しくて目を閉じたいのを我慢し、クリスタルの現状を確認する。

最初はぼやけているだけかと思ったが、クリスタルの形が変わっている?


次第に目が慣れていき、シルエットだけでなくそれがなんなのかわかってくる。

そこにいたのは、紛れもなく女性だった。

真っ白な肌に、赤く輝く長い髪が二手に分かれてなびいている。

そしてその背中からは、妖精を彷彿とさせる透明な羽が伸びていた。


体は決して大きくなかったが、威圧感があるというか威厳があるというか、自分よりも大きな存在であることを感じた。

水色の目は瞬きすることなくこちらを見据えている。


あの髪の色には見覚えがある。


「よく来た。我が新生者よ」


俺の方…ではない、アレはウパに向かって言っている。

ウパはアレが怖いらしく、俺の後ろに隠れてしまった。

その様子を、アレは無表情のまま眺める。


周辺を探っていたフレンさん達も、アレを前にして臨戦態勢を取っているが、突然の異常事態に戸惑っている。


「…なるほど、別の血が混じっているな。

だから思うように波長が合わせられなかったのか」


別の血。

エルフの人間のハーフであるウパの事をいっているのなら、それは人間のことだろう。


「お前は、エルフなのか?」


「………」


俺の問いは無視された。

ウパ以外は無いものとしているのか、それとも見えていないのか。


「しかたがない」


アレが両手を前にかざし、歌うように何かを語り始める。

すると、ウパが蹲って苦しみ出す。


「おいウパ、大丈夫か」


俺がウパを抱えようとすると、何か大きな力に押されて弾き飛ばされる。

地面に落ちてウパを見ると、アレと同じあの赤髪になっていた。


「うぅ…」


ウパは頭を抱えながらふらふらとしている。


「これならば、私が何かわかるだろう」


キン…キン…


あの二人が共鳴しているかのような、嫌な耳鳴りがする。


「わ…わたし」


ウパが後ずさる。

このままじゃウパが危険だ。

俺は銃と取り出して、アレに向かって連射する。


サンダーは鋭い音を立ててアレに突き進むが、寸前の所で消えてなくなる。

まるで見えない壁にぶつかってかき消えたようだった。


こうなったら…。

俺はエアライドで飛びかかった。

もちろん『幸福な死』任せの特攻である。

魔具を駆使したとしても俺では敵わないのはわかっている。それでも俺は前へ出れた。


「タイプスペル:エレキ」


大量の電気を放出しながら、俺はアレに掴みかかる。

しかし、見えない何かに掴まれて俺は宙に浮いたまま停止する。

もがいてみるが、まるで体が動かない。


「ウパ…逃げろ」


必死にウパへ訴えるが、目が合わない。

恐れながらもウパはアレに魅入られているような状態だった。

思えば、クリスタルの時点で様子がおかしかった。

すでにずっと何か影響を与えられていたのかもしれない。


ガキーーーーン!!


大きな衝突音が鳴り響く。

発生源はミーヤさんの剣だった。

かなり距離があったように見えたが、一瞬で間を詰めてアレに切りかかっている。

その剣もまた空中で止まっているが、威力が強かったせいか俺から見えない力が消えて地面に落ちた。


俺が立ち上がろうとすると、突然アレが爆発する。

俺は吹き飛ばされて最初の位置まで戻される。

そこから見えたのは、折り畳みの杖を構え、その先に光の球を作り出していたゴルデさんであった。

彼は本物の魔法使いだったのだ。


「ライトニングブラスト」


光の球が高速でアレにぶつかり、煙がアレとウパの姿を隠してしまう。


「ウパ!!」


あの爆発ではウパも巻き込まれたかもしれない。

そう思った瞬間、煙が巻き上がって消え、ウパは何事もなく立っていた。

そして、その前には黒ずくめの小さな老婆が、いつの間にか現れている。


その姿には見覚えがあった。

あの、路地裏で出会った占い師。

俺に『幸福な死』を告げた魔法使い。


「現体には危害を加えるなと言っただろうが」


老婆はニヤリと言う。

それはどうやらミーヤさんに言ったようで、ミーヤさんは剣を引いてアレから距離を取った。


「お、お前は…」


ずっと無表情だったアレが初めて表情を崩す。

くっと歯を食いしばると、アパがやってみせた赤い光線を大量に展開し、老婆へ向かって放った。

ウパもお構いなしに次々と攻撃していく。


百を超えたかと思わせる連続攻撃が終わる。

しかし、煙がはれれば地面は焦げるだけで崩れていることもなく、ウパも老婆もまったくの無傷であった。


「まったく、そういう計算高いところがかえって行動を読みやすくするというのに…」


老婆がケタケタと笑い、ふと俺の方を見た。


「おや、そこに転がっているのは『幸福な死』の男じゃないか」


あの夜、俺の目の前から去る前に見せた気味の悪い笑い顔。

老婆はあの時の同じ顔で俺に話しかけてきた。

まるで、一度捨てたおもちゃを拾ったような、無邪気にさえ感じる異質な感情。


「これは…いったいどういうことですか?」


「どういう?あぁ、別にお前は何も知らなくていいよ。ここまでだからね」


「こ…ここまで?」


もう、何がなんだかわからない。

俺は海底神殿にモンスター退治と探索に来ただけなのに。

これはいったいなんだ?

ダンジョンに閉じ込められたと思ったら、

ウパに似たアレや、あの占い師まで現れ、しかも…。


「フレンも、ここまでご苦労さん」


最後に老婆はそう言った。


どうやら俺だけが、この戦況の部外者らしい。

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