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12:戦闘

「いやー、大量大量」


フレンさんが薬草をリュックに詰め終わる。


「今日はありがとう。おかげで思っていたよりも取れたよ」


「結局、何も出ませんでしたけどね」


「それはそれでいいのよ。保険を軽んじるのは馬鹿の思考よ。

それに、あなたの魔法があったから、たっぷり時間が取れたのがラッキー」


ずっと大人の女の人って印象だったが、こうして見るとまだあどけなさも残る女の子だった。

俺とは、いったい何歳差なのだろうか?


「じゃあ、帰りま…」


ビィィー!!


突然、ライフサーチのアラームが鳴る。


「えっ!?なに?この音」


しまった。平穏な雰囲気にほだされて警戒を怠ってしまった。

ライフサーチには、急速に近づいてくるモノがあると、警報を鳴らしてくれる機能もある。


「フレンさん、急ごう!モンスターが迫ってきてる!」


「そういう魔法?…わかった」


俺たちは急いで森を抜け、川へ向かう。

が、やつらはすでに俺らの目の前へ現れた。

全身に緊張が走る。間違いなく、あの時の二匹だった。


全身が毛で覆われ、鋭い牙と爪を持つ四足歩行のモンスター。

やつらは唸り声をあげながら、川の方からゆっくりと俺たちににじり寄って来る。


「はっ!?なんでこんな所にダンジョンモンスターがいるのよ!」


「えぇ!!」


ダンジョンモンスターとは、その名の通りダンジョンで遭遇するモンスターのこと。

そこらへんにいるモンスターよりも凶悪であるが、ダンジョンでしか遭遇しないはずである。


「ハリネ、戦ったことある?」


「無いよ!」


俺はすでに冒険者の真似も、魔法使いの真似もできなくなっていた。

前回とは違う。今回は戦わなくてはいけない。

でなければ、フレンさんが…俺の身も危ない。


ひとまず銃を構え、狙いを定める。

奇襲をかけてくる狩りでなかったのが不幸中の幸いか。


フレンさんがさっと俺の後ろへ引いた。

戦闘要員ではない調合師は、これが最適な行動なのだろう。


「サンダー!」


俺は先行している一匹に向かって銃を放つ。

炸裂音と共に、稲妻がモンスターに向かって放たれた。


しかし、タイミング悪くモンスターの突進と重なってしまい、稲妻の下を潜ってモンスターがこちらへ向かってくる。


「うわぁぁ!」


突然の猛攻に体が勝手に後ずさり、バランスを崩して俺は尻もちをついた。

俺の目の高さに、モンスターの鋭い眼光がある。

このままでは噛みつかれる。

俺は咄嗟の行動で足を前に出した。


もうダメだ。

そう思った時、頭でカチッと音がする。


突風が吹いて、モンスターが空中で何かにぶつかった。


そうかこれ、エアライドだ。

俺の足のまわりの空気が固まって、壁を作ってくれている。

暗証コード無しで動作してくれたのが助かった。


モンスターも何が起こったのかわからないようで、距離を取って様子見を始める。


「うぅ…バーンウルフかー、魔法使いとはいえ、Cランクじゃきびしいかな?」


フレンさんからも絶望感が伝わってくる。

こうなったら奥の手を使うしかない。


「フレンさん!これを持って!」


俺は亀の甲羅のような物体を投げ渡した。

フレンさんがそれを受け取ったのを確認すると、暗証コードを唱える。


「シェルタートル!」


「なに!きゃぁ!」


光の球体がフレンさんを包み込むと、四つん這いにならざるおえなくなるまで収縮する。

球体は光を失うと、亀のように短い脚を出して、ゆっくり歩き始める。


シェルタートル。

緊急脱出用の魔具。強固な外壁で身を守り、ゆっくりだが目的地へ運んでくる。


「そのままじっとしていて、いつかは牧場に着くから!」


「なにそれ!これも魔法なの?便利すぎない!?」


こんな状況でも軽口が出てくるあたり、フレンさんが冒険慣れしているのがわかる。


「よし、俺も、シェルタ…」


パシン!


俺の手が鞭のようなもので強く叩かれた。

シェルタートルの魔具が、茂みの奥へ飛んでいく。


何事かと思いモンスターを見てみると、やつは尻尾を伸ばしていた。

そんなこともできるのか?


まずいまずいまずい。

シェルタートルは二つしかない。

このままでは、殺されてしまう。


俺はやつらに背を向けて、茂みのどこかにあるシェルタートルを求めた。


しかし、やつらはそれを許すわけもなく、俺の足と腕に噛みついてくる。


「ぐあああぁぁぁ!!!!!!」


痛い!!!!!!

苦しい!!!!!

殺される!!!!


死んでしまう!!

こんなところで!


………こんなところで?


前回は来なかった走馬灯を俺は見た。


こんなところって、俺に未来があったか?

ここはそもそも俺の死に場所じゃなかったか?


それよりも、この二匹はオラウさんの娘、あの赤ん坊の両親を殺している。

彼らの方が、よっぽど"こんなところで"じゃないのか?


俺はきっとこのまま死ぬ。

最近、何度死のうとしたか、何度死にそうになったかわからない。

それもついに終わる。


ならばせめて、この二匹を野放しにしてはダメなんじゃないか?


「うがあああぁぁ!」


俺は力の限りで吠えた。


カチッ


エアライドが暴走して、当たりの物を構わず吸い寄せ始め、闇雲に放った稲妻が何かに当たっては爆発する。

暴れる俺を押さえつけようと、一匹が俺の頭を踏む。

それほど大きくない足から想像もできない強さで顔が潰されていく。

息が吸えない。


それでも俺は暴れるのを止めなかった。


せめて最後まで…、そう思っていると、モンスターが突然俺から離れ始める。

俺は顔だけ起こしてやつらを見る。

なぜか弱ったようにふらふらしている。

それは俺も同じ、鼻が潰されてまともに息ができない。めまいがする。


そのおかげかどうかわからないが、さきほどまでの恐怖や痛みが薄れていた。


「よくもやってくれたな」


俺は二匹のモンスターに向かって引き金を引く。

やつらは哀れな断末魔と共に絶命した。

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