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10:出発

「俺が、冒険者に…ですか?」


「はい」


「いったい、なぜですか?」


「そうですね。理由はいくつかありますが、一番の理由はあなたの夢が叶うかもしれないからでしょうか」


「俺の…夢…?」


「はい、療養中、あなたは色々な事を私に話してくれました。その話から察するに、私ができる一番の恩返しは、今ある依頼を達成することではなく、あなたを冒険者にすることではないかと思いました。

出過ぎた真似だったでしょうか?」


言葉に詰まる。

他愛もない話にしていたつもりだったが、オラウさんは俺のすべてを見透かしていた。

これが人の上に立つ者の見聞力。


「いや、でも、お気持ちはうれしいですが、俺はもう40歳ですよ。今更冒険なんて…」


「それを可能にするのが、魔法道具です」


俺はゾクっとした。

今まで通り穏やかな口調だったが、魔法道具への誇りか、それとも技術力への自信からか、ものすごい気迫を感じる。


「…それじゃあ、俺に魔力があることは?」


「それは、魔法道具への魔力供給が関係してきます」


「魔力供給?」


「はい、実はまだ、魔法道具は魔力が切れると、こちらで魔力を注ぎ直す必要があります。

魔力を換装できるようにするために研究中なのですが、まだ実現できていません。

ですが、微力でも魔力を持つあなたなら、少しずつですが魔力をチャージすることができます。

長期に渡って使用することになる冒険には、欠かせない要素です」


言っていることはわかった。

が、解せない部分がある。


「その…それって、俺に実験体になれって、言っている気がするのですが…」


「そう思われてもしかたないかもしれません。

しかし、あなたは冒険ができる。我々は研究と試験を同時に実施できる。

スポンサーとは、ただ支援するためだけの存在ではありませんよ」


俺は、オラウさんの提案に怒りを感じてしまったことを後悔した。

あまりに幼稚。いつの間にか、一から十までよくしてもらえるつもりでいた。

いい歳した大人の発想ではない。

俺がさきほど感じたのは、俺が客人から交渉相手に変わった瞬間だったのだ。


俺への恩返しは、フレンさんの依頼を解決することで完遂される。

そこから先は、言葉の通り、オラウさんからの提案であった。

しかも、メリットなら俺の方が大きい。

オラウさんからしたら、もっといい人材はたくさんいる。

それでも俺のスポンサーになると言ってくれているのは、やはり恩返しも含まれているからだ。

そしてその恩返しは、俺の心を掴んで離さない。

この発想と切り替えが、商売に欠かせないスキルなのだろう。


なら、俺に言えることはもうこれしかない。


「では、その提案の返事を依頼達成後にさせてくれませんか?」


「わかりました」


この瞬間、俺はオラウさんの客人に戻った。

息が詰まる思いをした。


「いつ、ホオジ山へ行かれるのですか?」


「3日後です」


「では、それまで私と、魔法道具の練習と、依頼達成の作戦を練りましょうか」


「…お願いします」


こうして俺は三日間、オラウさんの所で準備をさせてもらった。


魔法道具は試作というだけあり、銃のように使いやすいものばかりではなかった。

まだクセがあり機能が限定されているものや、期待している効果を得られないものなどがあった。

けれど、やっていることは魔法そのもの。

今まで使っていた道具がおもちゃに感じられるほど、強い力を自由に使える代物だった。


作戦の方では、ホオジ山の地図をもとに歩き方や危険地帯を把握した。

そこから、必要な魔法道具を選別する。

冒険支援大学を出ているから、ある程度の知識はあったつもりだが、結局すべてオラウさんが解決してくれたようなものだった。

専門的な言葉は知らなくても、今までの経験と知識からどんどん理解を深めていく。

この人なら、きっと半年も経たずに卒業するだろう。


そしてなにより、いつでも食べられる豪華な食事、大きな風呂、ふかふかのベッド、メイドさんのマッサージ。

充実した時間に、ぜいたくな休息。

なんか、少し若返った気持ちだった。


そして迎える本番。


再び俺は、門の前までオラウさんに見送られた。


「お世話になりました」


全身を冒険装備と魔法道具で整えた俺は、前回と同じように頭を下げた。


「はい、お気をつけて。無事に帰ってきてください」


俺は歩き始める。

コスプレをしているようで少し恥ずかしいが、どこからどう見ても冒険者だった。

行き交う人が、俺を一目見る。

小さい子供に「かっこいい」なんて言われた時は、にやけてしまった。


職業案内場へ行くと、すでにフレンさんがいた。

3日前に会った時とは、まったく違う恰好をしている。

長い髪は後ろでまとめられ、少し大きめのリュックを背負い、動きやすそうな恰好をしている。

あちらも準備万端…というか、冒険者みたいじゃないか?しかも、服装的に、調合師?


傍まで近づくと、ようやく俺に気が付いてくれた。


「あっ、ちゃんと来てくれたね。って、すごい装備!」


きれいな顔がコロコロと変わる。

ちょっとだけ着ぶくれた服装から出ている小顔がまたかわいい。


「そ、そうかな?」


オラウさんが用意してくれた最新装備である。


「そんなものを持てるなんて、ランクいくつなの?」


「えっ?ランク!?」


忘れていた。

フレンさんは俺を冒険者だと勘違いしている。

だから当然、ランクも聞かれる。


「えーと…」


「んー…」


きらきらとした瞳が俺に向けられる。

ダメだ。この瞳のせいで俺は依頼を断れなくなっていることを忘れるな。


「どう見える?」


「Bランクかな?まさかAランク?でも、それならこんな所にいないよね?」


「そ、そうかな?」


「えー、じゃあCランク?」


「えっとー」


フレンさんの目がどんどん失望に変わっていっているように見えた。


「はい、すみません。Cランクです…」


「そっか。でもまぁ、素材集めだから十分でしょ」


ダメでした。俺は無力です。また嘘を重ねてしまいました。


こうして俺らは、ホオジ山へと向かった。

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