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見つめるだけでいい②

 中学に入ると、健の美貌は際立った。


 学区が広がったせいか彼の実家が極道だと知らない人も多く、入学後しばらくすると、同級生のみならず、上級生も含めたファンクラブのようなものができあがった。


 登下校中に無断でスマホで写真を撮られ、不愉快に思った健が睨み付けても


「健くんと目が合ったー!」


 と喜ばれ、少し困惑していたようだ。


 運動神経も良い健はどんどん人気者へと変化していったが、その頃まで真緒は苦手意識が強く、自ら声をかけることはなかった。


 そんなある日――。


 帰宅途中、真緒はガラの悪い三年生の男女に囲まれた。


「ねえ、和菓子屋さんやってるんでしょ? けっこう大きいんでしょ? じゃあ、お小遣いいっぱい貰ってるんじゃない? ちょっと貸してくれないかな。そこのコンビニでノート買いたいんだけど」


 似合わない赤い口紅を塗った少女が、真緒と肩を並べて歩く。


 その後ろでは、上着のぼたんを開けたまま派手なプリントのTシャツをのぞかせた太目の男子がにやついている。


「いえ……持って、ないです。必要に応じてもらっているので……」


「じゃあ、今もらってきてよ。すぐ近くだよね? 一万円もあれば足りるかな」


「えっ? ノートですよね? あの……一万円もしないと思うんですけど」


 学校では地味で目立たず、不良とはまったく無関係の毎日を送っていた自分がまさかカツアゲの対象になるとは思っていなかった真緒は、怯えて涙目になっている。


「ほかにもいろいろ入用なんだよね。家まで送ってあげるからさ、貸してくれよ」


 髪を茶色に染めた痩せた別の男が、真緒の顔を覗き込んだ。


 顔には赤いにきびが一面に広がっていて、息も臭い。


 真緒は思わず顔をそむけそうになったが、恐ろしくてそんなことはできなかった。


 ただひたすら泣きべそをかきながら、この恐ろしい時間が過ぎ去ることを願っている。


「大人しそうな子を選んでカツアゲかよ。みっともないな」


 澄んだ声が聞こえた。


「ああん?」


 いきり立ったヤンキーたちだったが、次の瞬間、固まって静かになった。


 恐る恐る振り返った真緒も、驚いて目を見開く。


 そこに立っていたのは、眉目秀麗な健だった。


 ヤンキーたちを目の前にしても、顔の筋肉ひとつ動かすことはない。


 泰然たる態度で、ただそこに立っていた。


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