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見つめるだけでいい①

 5軒隣にある豪邸を遠目に見て、憧れの八雲健が出てこないかと期待しているのは、老舗和菓子屋の一人娘、夏目真緒だった。


 本来なら大学を卒業後は家業を手伝うように言われていたのだが、子供の頃からずっと知っている店以外の世界も見てみたいと懇願し、三か月前の春に都内の旅行代理店に就職。窓口業務を行っていた。


 いずれは婿養子をとって店を継がなくてはいけない。しかしずっと心に思う相手は、代々続く極道の一人息子である健だ。


 真緒は健にずっと片想いをしているが、告白もしないからその気持ちに彼が気づくことはない。


 見つめるだけで何も進展しない恋でひどく切ない思いをすることはあるものの、中学の頃から思い続けているだけに、なかなかほかの男性との付き合いを考えることなどできなかった。




(今日も会えないか……。頑張って十分早く出てみたんだけどな)


 ため息をついて、真緒は駅へと歩き始めた。


 極道の息子とはいえ、真緒と同じような理由で、健も都内の証券会社に勤務している。


 帰宅する彼の姿を部屋の窓から見かけたときは、スーツを着こなす背の高い彼が、暗い中でも光り輝くオーラに包まれているように見えた。


(なかなか会えないなぁ。昨日はこの時間に出てたのに……)


 営業職をしているらしく、健の時間は不規則だ。


 時計は今、7時ちょうどを指している。


 この時間に出ると、真緒は会社で一時間も時間を持て余すことになるのだが、それでも健の顔を見たくて頑張って早起きしたのだ。


 しかしそれも空振りに終わった。


 物心ついた頃から真緒と健は顔見知りではあったが、基本的に彼は公園で遊ぶことはなく、会話をすることはなかった。


 健はいつも強面の組員に囲まれていたから、現れればみんな遠巻きに眺めるだけで、一緒に遊ぼうと声をかける者がいなかったからだ。


 せっかくのキレイな顔立ちも、環境のせいかいつも無表情で、必然的に冷たい印象もあった。


 小学校でも健は浮いた存在で、表情のない顔でまっすぐ見つめられると、子供たちはみんな怯えて傍に近寄らない。


 毎日同じ通学路を歩いていたのに、6年間で真緒が彼と言葉を交わしたのはほんの数度のみだった。


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