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 用意された馬車ってのが無茶苦茶だった。

 あの、どこの世界に空飛ぶ馬車がありますか?

 引いてんの、馬じゃなくってペガサスなんですけど!?


「あぁー、飛んでるねぇ」

「飛んでるわね……」


 ソディアもビックリしている。ってことは、これは非常識な馬車なんだろう。

 あとアンデッド軍団も震えあがって、俺の影から出てこない。


『地面に足がつかないとは……おぉ、なんと恐ろしい』


 ヨサクじいさんの声がする。

 でもさ、ゴーストってそもそも宙に浮いてるじゃん!


 そんなことを思っていると、あっという間に目的地へと到着した。

 早いなぁ。まぁ道を選ぶ必要も無いし、障害物と言えば山だけだ。その山の上を飛べば障害物にもならない。

 魔王の案内で一直線に飛んで来た馬車が、どこか懐かしく感じる町の上空を通過。


「町のあちこちで煙が見える……どことなく硫黄臭いってことは……もしかしてアズかここ!?」

『そうだねぇ。目的地はアズの北にある神殿だよ』

「神殿? そんなものあったっけ? おーい、ヨサクじいさん」


 ヨサクじいさん、青ざめた顔で足元の影からひょこっと顔――いや、禿げた頭頂部だけを出す。

 高所恐怖症なのか!?


『レイジ様、お呼びですかのぉ』

「うん。町――当時はまだ村だったんだろうけど、北に神殿とかあったのか?」

『神殿? 神殿神殿……はて、村の周辺には神殿はおろか、教会すらなかったと思いますだが』

「だって」


 俺は向かい側に座る魔王に視線を向ける。

 アブソディラスと違って、頭上じゃなくってあちこちふらふらするんだよなぁ、この幽霊は。


『うん。地表には無いからね。えぇっと、あの辺りにあるんだけど――ん? なんだが焦げてるね』


 半透明な魔王が指差す先は、確かに地面に焦げ跡があった。しかもかなり広範囲が。


 地面に降りた馬車から、何故か俺やソディアではなくアンデッドどもが飛び出していく。


『うおおおぉぉぉぉ、地面だあぁぁぁっ』

『生きた心地がしませんでしたな』

『まったく』


 大の大人――いや、一人前の冒険者や最強とまで言われた騎士たちが、安堵した顔で馬車を降りていく。

 だからお前ら、そもそも地面に足着いてないじゃん!

 ゾンビやスケルトンならまだしも、なんでゴースト連中が怖がってんだよ。


『うぅーん。火事かなぁ』

『はぁ。この辺りは深い森がありましたのですが。すっかり燃えてますのぉ』


 魔王とヨサクじいさんの会話が聞こえてくる。

 森で火事があったにしては、綺麗すっかり無くなってる。

 普通、森が燃えても炭と化した木とか、そういうの残ってるだろ?

 でもそういうのすら残ってない。

 ただただ地面が黒く焦げているだけ。


『残留魔力がうっすら残っているね。自然発火ではなく、誰か――いや、複数人の魔術師によって破壊されたようだね』

「そんなこともわかるのか?」

『はっはっは。だって私、まおーぅだもん』


 なんでドヤ顔なんだよ。

 しかしどうするんだ、これ。

 目的地は神殿だって言ってたけど、これじゃあ入り口だって破壊されて――。


 そう思って魔王を見ると、陽気な笑みを浮かべたまま何かぶつぶつ言い始めた。

 笑顔のままふつふつと湧き上がる愚痴を呟くタイプなんだろうか?


 いや、違った。


 魔王のブツブツに合わせて地面が揺れ――少し先の地面がパックり割れた。

 割れた――割れたああぁぁ!?


『もしかすると、誰かが神殿を探して木々を焼き払ったのかもしれませんね。入り口を探すために。でも馬鹿だな〜。そんな簡単に見つかるような封印を、私がする訳ないのになぁ。あははははは』

「……え? 魔王、あんたが隠した神殿?」

『そう。あー、でも依頼されてだけどね』


 にこにこと魔王は進んでいく。霊体の足――に該当する部分はみょーんと伸び、俺の肩にくっつているが。

 ぞろぞろと魔王に続いて歩く俺たち。一部浮かんでいる。


 割れた地面には地下へと向かう階段が続いていて、奥の方は真っ暗でどこまで続くのかもわからない。

 地獄の底……なんて言うんじゃないだろうな。


 ここで一体魔王はどうするつもりなんだろう。

 樫田たちを助けられるかもなんて言ってたけど……どういうことだ?

 神殿と何か関係があると?


 そんなことを考えていると、背後からごごごごという音と振動と共に、地面が――。


「うわあぁぁぁっ、生き埋め!?」

「え? やだ、真っ暗っ。キャー!」

『いやぁーん、怖い〜』

『ひぎぃーっ』

『カラカラ』

『あははははははは。"ライト"』


 ぽんっと灯った明かり。

 浮かび上がったのは、俺に抱き着いたソディア――とゾンビスケルトン。それに壁に頭を突っ込んだゴーストたちだった。

 ソディアはいい。いいんだ。


「お前らアンデッドのくせに、怖いとか言ってんじゃねえよ!」

『酷いっ。私らだって怖いものは怖いだよ』


 あ、女性スケルトンだった。


『そうですよ、はい。差別です。はい』

「はいじゃないっ」


 足に縋り付いていた奴はモンドだった。

 男はあっち行けっ。


「それで……この地下神殿に何があるんだ?」


 先を歩く――というか、ふぃーっと下りていく魔王に尋ねる。

 彼は前を向いたまま「神様が居るよ」と、さも当たり前のように言った。


 はい?

 神様??


『神殿なのだから、神様が居て当たり前じゃないか。やだなぁもう〜。はははははは』






 何十分……いや、一時間以上かかったかな。

 やっと階段を下り切って、今度は長い通路が続く。

 人工的に作られたのがわかるような石造りの壁。白く、綺麗に磨かれたような石だ。


「ピカピカねぇ」

「うん。誰かが掃除でもしてるのかな」

『ノームさんがね、掃除しているんだよ』

「「は?」」


 俺とソディアが同時に呆けた声を出す。

 魔王は『ほら』と言って前方を指差した。

 そこにはドワーフをコミカルにしてミニサイズにしたような、ちょっとだけ可愛い生物が居た。


 ドワーフって……掌サイズにすると可愛く見えるのか。

 その可愛いドワーフたちは、俺たちを見て怯えたり、かと思ったらもじもじしながら手招きしたり。


 ……一匹持って帰っていいかな?


『それは困りますわ』


 え?


『ノームが居なければ、この神殿のお掃除をしてくれる者も居なくなりますし。それに、私のお話相手が居なくては困りますもの』


 純白に磨かれた通路の先、淡く光る広間に声の主は居た。

 長い髪を揺らし、優しく微笑む少女が――。


「あいたっ」

「鼻の下、伸ばしてるで」


 何故ソディアに抓られなきゃならないんだ!

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