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『あらぁ……なぁんにも無いわねぇ』
コベリアの故郷、ソルスカの村があったらしい場所は、見渡す限りの荒野だった。
荒野――と呼ぶほど荒れ果ててはいないけど、地面は固く、雑草が生えている程度で作物が育ちそうな地面ではない。
だから――。
「この一帯にあった集落は作物の出来も年々悪くなって、集落ごと引っ越してるのよ」
それ以外にも、ファモがまだ健在だった時代に流行り病で消えた集落、食いぶちを減らすため若い娘を奴隷商人に売ってばかりいた村は、人口が減って自然消滅――そんな村もあったようだ。
『これではリアラがどこに引っ越したのか、サッパリわからぬ……リアラやぁぁい』
『ねぇソディア。ディストレトの方はどうなのかしら?』
「そっちは魔王様の加護のおかげで、食べるものに困ることなんて無かったけれど」
……え?
今ソディアは「魔王様」って言ったか?
魔王様の、加護?
え?
『リアラっておばさんはね、ディストレトのほうから来てたのよ。物々交換の為にね』
『おぉ! リアラはディカートの国に引っ越しておったのか』
「ディカートって、誰?」
『魔王じゃ』
……は?
「ディカートって……」
『じゃから、魔王じゃ』
魔王――。
絶対的な力を持ち、モンスターを従えるラスボス的存在。
『旧知の仲じゃ』
さすがドラゴン、魔王とお友達らしい。
えぇー?
魔王とお友達だというアブソディラスに、魔王のことを「様」付けで呼ぶソディア。
二人だけがおかしいのかと思えば、そうではなかった。
アズ村やエスクェード騎士団は「誰それ?」な状態だが、冒険者グループは幾分知っているようで――。
『唯一奴隷制度を廃止している国でさあ』
『逃亡奴隷なんかはディストレトに逃げるのですよ。あの国なら保護してくれますからね』
『でもディストレトは、国の周囲をぐるっと深い渓谷で囲まれてるのですぅ。入国できるのはいくつかの橋だけで、その手前は各国が厳重な警備をしてるですからぁ』
「ドーラムからディストレトに入れる橋は一本だけよ。でも安心して。ドーラム国王から通行手形を貰ってるし、通して貰えるから」
聞く限り、魔王というのは良い人のようだ。
……魔王が良い人とか、RPGでは許されないだろ。
そんな気分で首を傾げていると、それが気になったのかソディアにどうしたのかと尋ねられる。
で、素直に俺が持つ魔王のイメージを伝えると、何故か全員が笑いだした。
『モ、モンスターを従える?』
『どうしてそうなるんですかレイジ様。あは、あははは』
なんかムカつく。
『主の世界におる魔王はそうでも、この世界の魔王はちと違うのぉ』
「いや、俺がいた世界に魔王なんていなかったから。物語とか、ゲームではそうだったっていうだけだよ」
『物語であろうと、魔王が悪人というのは――ないよのぉ?』
と、アブソディラスはソディアを見る。
自分魔導王国にあるような知識のための本以外は、読んだことが無いから――と。
その言葉をチェルシーあたりがリアルタイムで通訳し、ソディアがその問に答える。
「ないわね。そもそも魔王様を題材にした物語なんてものが無いのだし」
『それに、魔王様はモンスターを従えたりしていませんですぅ』
『俺らを従えている分、レイジ様の言う【魔王】に近いのでは?』
「え!? お、俺が魔王!? いやいやいやいや」
じゃあ魔王は何故【魔王】と呼ばれるのか。
「何故って……魔族の長だから?」
とソディアは首を傾げつつ答える。
アブソディラスやカルネも頷き、更に補足する。
『魔族というのはじゃな――』
『この世界に魔法をもたらした種族なのですぅ。エルフ同様に長命な種族でしてぇ、精霊魔法も神聖魔法も、元々は彼らがその原型となる魔法を生み出したことで発生したのですぅ』
『カルネちゃんや……儂のセリフ――』
『また魔王様は神々の大戦中期にお生まれになっていて、まだまだご健在なのですぅ。一族で最も長生きしている方なのですぅ』
「だからアブソディラスも顔見知りだっていうのか」
『そのとお――『その通りですぅ』』
アブソディラスのセリフは完全に飲まれてるな。
あ、拗ねちゃったよ。
どんより靄が出てないし、放置しておこう。
そもそもの魔法発祥は魔族であり、けれど魔族の使う魔法は強力過ぎて人間には制御し辛い。
そこで魔法の改良を行ったのは最初の魔術師たちであり、ロジャーのご先祖様だ。
魔導王国とディストレトは友好関係にあり、魔法の知識は魔導王国と共有されている――とはカルネの説明だ。
『魔族の使う魔法は古代魔法と呼ばれ、魔術師や魔導師クラスでは制御が難しくて危険なのですぅ。暴発する恐れもあってですねぇ』
『ちなみに儂が主に教えたモノは――』
『"爆炎"は通常の魔法で、魔導王国が人間用に改良したモノですぅ。それを暴走させるのは、単純に魔力量が多すぎるからなのですぅ』
「いっそレイジくんは古代魔法のほうが合ってるのかもしれないわね」
ふぅん……でも魔力は封印したし、無詠唱なら完璧じゃん。
今のままで十分だと思うけどな。
そう思ったのは俺だけだったようだ。
『それじゃ!』
『それですぅ!』
アブソディラスとカルネが俺に詰め寄る。
その二人を摘まみ上げ、ぽいっと投げ捨てる人物がいた。
『で、リアラって子はディストレイトの方にいたんだけどぉ、アタシの話聞いてる?』




