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ヴァルジャス帝国との衝突から五日後。
王都は戻ってきた俺たちと、急いで駆け付けただろう王国主力部隊とでごったがえしていた。
結果として、ニライナとの国境線上に送られた主力部隊の被害はゼロ。
睨み合いだけで、衝突はしなかったようだ。
そして国王直属の部隊はというと――。
「此度の被害は、死者五十二名、負傷者百十四名でございます」
「死者は一割であったか……五十二名、これを少ないと受け取るか、多いと受け取るか」
謁見の間でヴァルジャスとの戦いの被害報告が行われた。
十倍以上の戦力差を考えれば、死者が二桁半ばってのは少なかったのかもしれない。
だけど、人が死んだことに変わりはない。
国王が死者の冥福を祈ると、全員が黙とうした。
その後、戦争の事後処理だなんだのがあって、さすがに俺にはちんぷんかんぷん過ぎて退出。
さて、これからどうするかな。
俺の足元には508人のエスクェード騎士が入っている。
アズ村と冒険者とで約60人だったわけだが、これはさすがに多すぎるだろ。
だが聞けば、あの迷宮に残っている騎士たちも、おいおい仲間に加えたいとギャデラックは言う。
『死霊であった頃は、死に際の念に捕らわれ、仲間によっては身動きの取れない状態でして』
「ギャデラックたちも、鎧に憑りついていたから地下にいけなかったもんな」
『はい。それもありますが、冥府の女神を打つことにのみ固執した者もいまして……彼らを解放してやりたいのです』
だったら成仏させる方向でもいいじゃないか。
そう伝えると、みんな若くして死んでいるので、少しは自由な世界を見せてやりたい――と。
『わかる! わかるぞいギャデラックとかいう者よ』
『おぉ! 古代竜様もおわかりいただけますかっ』
『んむ。儂は巨体故、なかなか自由に歩き回ることもできんかったが、今はミタマ付きじゃが、自由を満喫しておる。自由というのはのぉ、いいぞぉ』
俺付きってなんだよ。俺はオマケか?
でもそうなると迷宮の深層部まで行かなきゃならないじゃないか。
入口、瓦礫で塞がってるらしいし、無理じゃん。
『いやそれが、別の入り口がありまして。まぁ狭い故に険しい道のりですからな。なかなか進むのは大変でしょうが』
「そこを俺に行け、と」
『いえ、行って頂ければいいなぁーっと』
同じだろう!
だが俺以上に反応したのはアブソディラスだ。
『いかーん! ただでさえ道草を食っておるのじゃぞ。これ以上リアラとの再会の邪魔をされてなるものかっ』
「だそうだ。まぁ俺も今すぐ迷宮に引き返すのはなぁっと。それに――」
迷宮があるヴェルタは帝国領だ。
ちょっと行く気にはなれない。
俺たちのために用意された、客人用の別宅へと向かった。
城下町の一角にある、こじんまりとした屋敷だ。
あの戦場で俺は自分が死霊使いだと国王に話した。
多くの兵士がそのことを耳にしたし、実際に死霊であるエスクェード騎士たちを目にもしている。
驚かれはしたが、案外あっさり受け入れられたもんだ。
逆に、それを見聞きしていない連中には怯えられもした。
が、国王の一声で、俺の存在は強制的に認められることにもなった。
そしてあの戦場であった出来事はこれだけじゃない。
「ソディア、ただいまー」
屋敷に入って大きな声でそう言うと、しばらくしてパタパタと彼女がやってくる。
「お帰りなさい。お城の中は大変だったんじゃない?」
「うん、なんか忙しそうだったよ。東の国境付近に見張りを出さなきゃいけないだろうし、国王直属の騎士団は疲弊しているしね」
「そう。レイジくんはもう戻ってきてよかったの?」
「よかったも何も、俺は一般人だしなぁ。内政とか兵をどうこうとか、さっぱりわからないし。ただ聞いてるだけ、見てるだけで、眠くなってしまうよ」
「まぁっ」
くすくすと笑うソディアを見て、かなり癒された気がする。
「それで、あの子たちの様子は?」
「少しは落ち着いてきたみたい。ただ男の人はまだ……怖がっててダメね」
『俺が笑わせようと、壁からにゅーって出てきても悲鳴を上げるだけなんっすよ』
コウ……それは当たり前だと思うんだが?
あの戦場……正しくはエスクェード騎士団は、俺と合流する少し前に女の子を数十人拾っていた。
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五日前……
『最初は我らを見ても悲鳴すら上げず、それこそ生気を失くしたような目をしておりました。しかしひとりの娘が持つ不可思議なアイテムに、レイジ様が描かれているではありませんか!』
「だから連れてきたのか?」
帝国軍が撤退し、ドーラク王国も追撃を避け後退。
今は陣営に戻って負傷者の手当てをしているところだ。
ソディアも負傷者の手当てでここにはいない。
タルタスが自分も――と言ってソディアに着いて行こうとしたのを、全力で止めた。
その後すぐギャデラック隊長に呼ばれ着いて行くと、そこに数十人の女の子が蹲っていた訳だ。
『聞けば、娘たちを助けた御仁が、レイジ様を探せと言ったらしく』
「俺を? いったい誰が?」
『さぁ?』
「っていうか、俺が描かれた不思議なアイテムってなんだ?」
『あぁ、それなら……あの娘が持っております』
ギャデラックに教えてもらった子は、人間でもエルフでもなく、獣人か。
この世界にもやっぱりいるんだな。
鎖で繋がれていたというか、ここに来た時には既にその鎖もなく、ただ手足に痕は残っていた。
古い傷だと癒しの魔法でも治せない、とタルタスが言っていたな。
怯えさせないよう、出来るだけ優しく声を掛けて……。
「君たちを助けてくれた人から渡された物を、俺にも見せてくれないかな?」
にっこり笑う。
「――!!」
声には出さず、だけどものすごーく怯えられている。
『まぁこんな感じでして。男が相手だと怯えて何も言ってくれないのですよ、レイジ様』
「じゃあここまでどうやって?」
『騎士団には気の強い女もいますので』
『あら、私のことかしらギャデラック?』
『いや、俺は何も言ってない。本当だ、信じてくれ』
どこの世界でも女は強いな……。
「――イジ……レ、イジ?」
「ん? あぁ、そうそう。俺の名前な、レ・イ・ジ。ミタマレイジ、だ」
そう名乗った途端、獣人の少女は俺にソレを差し出した。
見慣れていたはずなのに、もうずっと見ていないそれは……スマホ!?
「え、これどこで!? なんでこの世界にスマホがあるんだ!?」
「わ、渡され、た。ワタシたち、助けてくれた人、これ、見せろって」
「誰が助けてくれたんだ?」
その問いに少女は顔を振る。他の子たちもだ。
相手の名前はわからない、と。
「お、お兄さんと……同じぐらいの、年齢、かも」
「俺と?」
もしかして……。
スマホの電源を入れると、不思議と画面が付いた。
充電、出来ているのか?
フリックするとホーム画面ではなく、これはアルバムか?
映っていたのは樫田と高山……あぁ、これ、卒業式の写真だな。
もう随分昔のような気がする。
あ、後ろにちっさく俺が写ってるな。これを見てギャデラック隊長は連れてきたんだろう。
「これを渡した人は……君たちを助けてくれたのは、この人たちかい?」
樫田と高山の写真を見せ尋ねると、獣人の少女はこくちを頷いた。
そして――。
「な、何かを見ろって……伝えなきゃいけない言葉、忘れて……ごめ、んなさい。ごめんなさい」
そう言って彼女は泣きだした。
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落ち着けば思い出すかもしれない。そう思って王都まで彼女ら全員を連れてきたのだけれど……。
わかったことと言えば、彼女らは全員、大陸の西の方出身だということ。
いくつかの村で集められた子たちばかりで、無理やり連れてこられたようだ。
若く、健康で、穢れもなく、誰が見ても「可愛い」「綺麗だ」と思えるような子たちばかりだ。
ヴァルジャス帝国の帝都に運ばれる途中で、樫田たちが逃がしてくれた。
わかるのはここまで。
樫田は俺に何を見せたかったんだろう。
写真?
そう思ってアルバムを見てみたけど、正直……樫田という人間を勘違いしていたかもしれない――と思うような写真ばかり出てくる。
卒業式の写真はあの一枚だけ。
他にあったのは……。
「あ、この子可愛いわよね」
『そうっすか? 俺はもう少し先の……あ、この子っす。この子推しっす!』
『私はこの……舌をしまい忘れた子なんかが』
「『可愛い〜』」
野良であろう猫の写真が大量だった。




