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66:

 俺が体に戻った後、ほっとしたのかソディアが眠りについた。

 今は彼女の寝息を聞きながら、これからのことを考える。


 確かにドーラムとニライナが直ぐに戦争――なんてことは無いだろう。

 ニライナの外交官たちが国に帰り、王子がドーラムで殺害された――と嘘情報を流しても、そこから戦争に発展したところで、兵の準備だなんだのに時間が掛るはずだ。

 更に多くの兵を動かすのだって時間がかかるだろう。


 あ、そういうのに詳しそうなのがひとりいたな。


 ソディアを起こさないようそっと立ち上がり、コラッダの姿を探す。

 あいつ、甲冑を点けているから目立っていいな。


「おい、コラッダ」

『はい――あ、レイジ様! 気が付かれたのですね?』

「あ、俺だってすぐわかるんだ?」

『えぇ。だって、肩の上にアブソディラス様がいらっしゃいますから』


 あぁそうだった。

 今は拗ねて膝を抱えているが、アブソディラスは無事に俺の背後霊に戻っているんだったな。


 呼んだコラッダに、国家間の戦争が開始されるまで、どのくらいの期間を必要とするのか尋ねてみた。


『うぅん。難しい質問ですねぇ。ボクが生きていた時代も、国同士の戦争というのはありましたが、エスクェード王国はどことも戦争をしていませんでしたから』

「そ、そうか……ニライナとドーラムが戦争をすると決めた場合、兵の準備や移動にどれくらいかかるのかなぁと思ってさ」

『なるほど。そうですねぇ――』


 暫く考えたコラッダは、エアそろばんでもしているかのように宙に指を走らせる。


『まずどこで開戦するか、にもよりますね。まぁ国境線あたりが一番考えられる地点ですが――地図、いいですか?』

「あぁ。ちょっと待っててくれ」


 ソディアが寝ていた近くに背負い袋もある。そこからしずか〜に地図を取り出しコラッダの下へと戻って来た。

 広げた地図を見ながらコラッダが指先で尺を図り計算する。


『兵の中には騎馬を持つ騎士もいますが、当然歩兵もいます。移動の際は歩兵の速度に合わせますから――』


 ニライナの王都から一番近いドーラムの国境は北西にある。

 コベリアの故郷も近いのだろうか?


 この国境線。

 ここからニライナの王都と、ここからドーラムの王都までの距離は、ニライナ側のほうが近い。


『ニライナの王国軍が国境に辿るつくだけでしたら、六日ほどあれば到着するでしょうね。対するドーラムですが……』


 こちらは距離がやや長く、九日前後だろうとコラッダは話す。

 そして進軍まえに兵を集めたり、兵糧の準備などの期間も必要とのこと。

 もちろん進軍しながらその先々で集めて回ることもできる。それでも必要最低限の物資は必要な訳で。


『それぞれにプラス十日間。そんな感じでしょうか』

「そっか。三週間もかからないもんなんだな」

『本来は兵糧などの準備以前のものもあるんです。本当に戦争をするのか、どう兵を動かしていくかなど。国内での会議なんかがあるんですよ。でも――』


 今回、もし本当に戦争が起こる場合、感情論での開戦となるだろうから、会議は全スルーで行われるんじゃないか、とコラッダは言う。

 まぁそうなるよな。

 お互い子供を殺されて、その復讐として戦争をおっぱじめようっていうんだからな。


 けどまぁ――。


「二人が無事に地上へ出れば、二週間もあれば余裕で戦争回避も可能だな」

『そうですね』


 コラッダを軽く笑い、それから次にカルネを呼んだ。

 迷宮を進むのだから、俺ももう少しみんなの役に立たなきゃな。

 即興で魔法を教えてもらうより、使い勝手の良い魔法を習得しておきたい。


「って訳だからさ。覚えやすい魔法をいくつか教えてくれよ」

『ふむふむ。なるほど。それはもう、カルネちゃんの出番って訳ですね!』

「お、おぅ。よろしく頼むよ」

『お任せするですぅ。ではさっそく、まずは敵を知ることから始めましょう』


 う……やっぱりダメな奴に講師を頼んだかもしれない。


『覚える魔法は"鑑定"です!』

「あ、それね。確か戸敷も使ってて、便利そうだなって思ったんだ。え、じゃあモンスターの鑑定も可能なのか?」

『はいですぅ。この魔法は対象が物質であれば、その性質などを調べられますし、モンスターに対して使えば特性などもわかります』

「人にも使えるのか?」

『使えますが、対象が人である場合、人間であれエルフであれドワーフであれ、獣人であれ、成功率はかなり低いですぅ。これは神による妨害だと、昔の偉い魔導師様が言ってますぅ』


 神による妨害?

 なんだか妙な話だけど、まぁいいか。


 この"鑑定"でまずはモンスターの特性を見る。

 脳裏に特性内容が入ってくるので、モンスターの属性を知るとおのずと弱点もわかると。


『わかりやすいのはスライムですぅ。ほら、あそこにぶら下がっているスライムを鑑定してみてください』

「あそこ? ……うわっ。天井からなんか垂れてる!?」


 スライム……てっきり俺は、ゲームなんかでお馴染みの、つぶらな瞳あり〜の、口あり〜のなマスコット的モンスターを想像したんだが。

 現実は違っていた。

 それはもうジェル状の何かだ。それ以外の表現が見つからない。

 粘液性なのか、でろ〜んと天井から垂れ下がっている。

 それにつぶらな瞳も、口も、何もない。


『スライムはその色で属性がわかりますですぅ。赤は火の属性を持つので、弱点は当然水ですぅ』

「そこはゲームと同じ仕様なのか」

『はい?』

「いや、いいんだ。じゃあ青いのは水の属性で、弱点は雷?」


 それを聞いたカルネが手を叩く。

 当たりだったようだ。

 "電撃(ヴォルテック)"も雷なんだろうか?

 電流……だから、有効だよな。


『ここまで移動してくる間に見たスライムは、赤と青、それに緑ですぅ』

「緑って……風?」

『いえ。植物ですぅ。弱点は火ですねぇ』


 植物……風属性はいないのかと思ったら、半透明なだけの色無しがそうなんだとカルネは言う。

 他にこの迷宮で今のところ確認されているのは、ガーゴイルとゴーレム。

 ガーゴイルは闇属性ということで、アブソディラスの洞窟で手に入れた武器だとほとんど攻撃が利かないという話だ。

 幸い、冒険者グループの持つ武器は、元の武器の霊体化バーション。

 なので問題なくダメージを与えられている、と。


『ソディアさんの攻撃魔法もありましたですし、キャスバル王子の武器に属性を上書きして戦っていただいたので、結構楽勝だったですよぉ』

「へぇ、そうなんだ」

『はい〜。あとはゴーレムですねぇ。こちらも素材になっている物によって、いろいろ特性が変わってくるのですぅ』


 ゴーレムは最初に実寸大の人形を作り、それに命を吹き込む為の核を埋め込む。

 そうすることでようやく動かせるようになるらしい。

 実寸大って……それは……。


「製作者の芸術性も問われそうだな」

『はいぃ。ここのゴーレムを作成された方は、かなり写実的でセンスの良い方みたいですよぉ』

「え?」


 その時、都合よく戦闘中のアンデッドの声が聞こえた。


『ゴーレム来たぞぉっ』


 ――と。


 どんなゴーレムなんだ?

 好奇心から駆け出し見に行くと。そこには綺麗に割れた腹筋を惜しげもなく晒し、今から風呂だと言わんばかりにタオルを一枚腰に巻いた……木製の筋骨たくましい男がいた。

 何を言っているのかわからない。むしろ何を俺は見ているのかもわからない。


 ヨーロッパの宮殿とか神殿跡に飾られてそうな男の裸体像。

 あれにタオルを巻いた、そんな感じにも見えなくもない。

 ただし材質は木。

 タオルも木。

 なので捲れることも無い。


 そんな木製ウッドゴーレムが、自慢の筋肉を見せつけるようにポーズを取る。


「"煉獄の炎を我が手に。爆ぜろ、そして焦土と化せ――爆炎フレイム"」


 ウッドゴーレムは消し炭となった。

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