61:反則チート魔法みたいなものだ
「っく。死にぞこないめっ」
「ふっ。僅かに急所を外すよう、身を捩ったことに気付かなかったようだな」
「なるほど……一国の王子とはいえ、なかなかやってくれる」
キャスバル王子がジャスランと対峙する。
その隙に俺は赤ローブ男を――って、暗殺者にがっちりガードされてるじゃん。
「レイジくん、誰かの武器をキャスバル王子に。私は幅広の武器は使い慣れないから」
「わかった。ゾンビA、お前の剣を貸してくれ」
『了解したでやんす』
にゅっと影から伸びる長剣。
すかさずソディアがウンディーネを召喚して、ジャスランの顔を濡らす。
「っく。ただの水か?」
その隙に王子とソディアが武器交換。
「暗殺者をやるわよ。レイジくんも手伝って。あいつら、比較的魔法攻撃には弱いのよ」
「OK。竜牙兵A。ちょっとでも隙があったら、あの赤ローブをやるんだ。これが終わったら、融合合体させてやるからな!」
『カタッ!』
ぴょんっと竜牙兵は跳ね、剣を構え前を見据える。
他の四体は暗殺者討伐の援護だ。
『レイジ様。即興で魔法をお教えしますです。まずは――』
カルネが影の中から呪文を伝える。
「"魔力は見えざる盾。彼の者らを守る、障壁となれ――魔盾"はいっ」
俺の魔力を封じた杖を掲げると、ソディア、キャスバル王子、そして竜牙兵らが青い光で包まれる。
魔法の効果は、術者の魔力と引き換えに、全ての攻撃を一定量防ぐ――というもの。
今の俺の魔力だと、せいぜい二、三発防げればいい方だとカルネは言う。
魔力と引き換えってだけあって、何かがどっと吸い取られたような感じだ。
だがまだ魔法は撃てる。
『次、"閃光"です。一瞬だけ辺りを眩しくしますが、竜牙兵には一切効果の無い魔法ですぅ』
「つまり、眩しくてもあいつらは普通に動ける?」
『はいですぅ』
まず竜牙兵を一体、キャスバル王子の方に向かわせる。
それから"電撃"で、ソディアと対峙している暗殺者をいったん下がらせた。
「"閃光"!」
味方に作戦を伝える余裕はない。
あまりの眩しさに、思わず俺自身目を閉じてしまう。
あとは竜牙兵の動きに期待だ。
「ぐあっ!」
「ぎゃっ!」
「げぇっ!」
「た、たすっ――」
四つの悲鳴が聞こえた。
そして"閃光"効果が無くなり視界が戻ると、竜牙兵Aの足元には赤ローブの男が転がっていた。
「ほかに赤ローブはいるか!?」
『カタカタ』
竜牙兵Aの頭蓋が左右に振られるのを見届けた瞬間――。
『しゃばだーっ!』
『無敵のアンデッド様、見参!!』
『お痛する子は、誰かしらぁ〜?』
『カラカラ』
『弓は狭い通路では不利だそうで、ラッカさんは観戦しているそうです、はい。あ、私も観戦モードで、はい』
『カルネちゃん、いっきま〜っす! "全てを捉えて離さぬ銀糸――蜘蛛の糸"!』
カルネの放った白い糸が、部屋の外、通路の床にばらまかれる。
その糸を踏んだ暗殺者たちの足が引っ付き、そのまま前のめりにドミノ倒し状態。
床が高粘着性の糸で覆われようが、ゴーストたちには関係無い。
飛んで行って武器を振るい、ひとり、またひとりと屠っていく。
それでも暗殺者軍団も負けていない。
仲間の遺体を踏みつけ糸に足を取られないようやって来る。
「スケルトン! 部屋の入口で足を撒けっ」
俺の号令とともにスケルトンが足を入口の床に転がしていく。
中に入って来た暗殺者が、スケルトンの足を踏んですってんころりん。
そこにゾンビ軍団が覆いかぶさり、殴殺していく。
聖職者のいない敵は、アンデッドにとって敵ではない。
カルネがばら撒いた蜘蛛の糸が消えると、ゾンビスケルトンも出て行って、残った騎士たちを倒していく。
時々運よくアンデッド軍団をすり抜けてくる奴もいたが――。
「"駆け巡る紫電、身を焦がす――電撃"!」
カルネに詠唱有"電撃"を教えてもらい、襲い掛かる騎士たちを感電させていく。
威力はまぁまぁだが、この魔法の最大の特徴は痺れだ。
体内を流れる電気により、相手は痺れてまともに動けなくなる。
時間が経てば回復するというが、そうなる前にアンデッド軍団の手によってあの世行きだ。
単体魔法なので、アンデッドを巻き込むことも無い。
使い勝手の良い魔法だな。
「レイジくん、呪文の詠唱、慣れてきたみたいね」
「あぁ。咄嗟でも使えるようになってきた。けど、距離が近すぎると厳しいだろうな」
『そのための無詠唱魔法じゃ。魔力を練るのに慣れてきたら、無詠唱でもそれなりの威力を発揮できるじゃろうて』
そうなるといいな。
さて、こっちは粗方片付いたが、キャスバル王子のほうがどうだろう?
竜牙兵を一体付けたが、それでもまだジャスランは倒れていなかった。
粘るなぁ。
いや、キャスバル王子が肩で息をしている。
さすがに怪我が回復したばかりで、本調子じゃないのか。
「王子!」
「手を出すなっ。この男だけは、私がこの手で倒す!」
「しかしっ」
「アリアンを裏切り、彼女に辛い思いをさせた報いは受けさせる!!」
自分を誘拐したとか、そういうのはどうでもいいのか。
王子の頭はアリアン王女のことでいっぱいだってことですね。
熱いなぁ。熱すぎる。
アリアン王女も顔を真っ赤にして大喜びだし。
おのろけは後でやってくれ!
「キャスバル王子のアリアン王女を想う気持ち……ステキだわ」
『ほんとねぇ。あれぐらい一途で熱いと、アタシもコロっといっちゃいそう』
『サナトにも負けない愛だわ』
『アリアン王女、羨ましいですぅ』
あぁ、女の子って、あぁいう甘々なのがいいのか。
けどなぁ。キャスバル王子、明らかに顔色も悪くなってきてるし。
劣勢だろ?
「負けぬ……負けぬよ私は! 戦の神アレストンよ、我を導きまたえっ」
キャスバル王子が拳を突き上げると、その体が僅かに光る。
そして――。
『王子も戦神アレストンの信者なのですね! とうっ――』
さっきは成仏しそうな勢いだったくせに、すっかり元気を取り戻したタルタスが影から出てきた。
「おぉ、そなたもか!」
『はいっ。自分は流浪の司祭。キャスバル王子のために、神に祈りましょう!』
「それは有難い。司祭殿、頼む」
『はい! お任せくださいっ』
おーい。
ゴーストが祈るって、それ、マズいんじゃないのかー?
朗々たるタルタスの祈りによってキャスバル王子は神の奇跡の力を宿し、圧倒的な力でジャスランに反撃を開始する。
時折タルタスの短い悲鳴が聞こえるのは、気のせいだろうか……。
タルタス、常識人だと思っていたのにな。
後になってアブソディラスから聞いたが、タルタスが使ったのは戦神をたたえる歌で、同じアレストンを信仰する者に勇気と、そして実質的なパワーを与える魔法だという。
しかも歌われている間は体力も回復し、程度は低いものの自動回復魔法の効果付きだという。
反則チート魔法みたいなものだ。
歌が終わる――というより、タルタスがばたりと倒れて気絶すると同時に二人の決着はついた。
ガキーンっとキャスバル王子の剣がジャスランの剣を跳ねのける。
弧を描いて飛んだ剣が床に転がったとき、奴の首もゴロンと転がった。




