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6:その頃の勇者様。

「急げ! えぇい、さっさと通れるようにしろっ」


 辺りに響き渡るほど語気を荒げるのは、ヴァン・ドロ・ヴァスモール・ヴァルジャス。

 ヴァルジャス帝国の第二王子である。

 現在彼とその配下である魔導師、帝国兵、そして四人の勇者たちは外へと続く唯一の道を断たれていた。


 巨大であるはずの洞窟の通路は天井が崩れ落ち、巨大な岩々によって塞がれていた。


「あぁあ……異世界に召喚されて、いきなり洞窟に閉じ込められるとはなぁ」

「きっと勇者の登場に困るような奴らの仕業ですよ樫田さん」

「困る? 誰だよそれ」


 樫田と高山が壁際に腰を下ろし、せっせと岩を運ぶ帝国兵を見ている。

 岩といっても小さなものばかりで、大きな岩は放置したままだ。


「誰ってそりゃあ、魔王ですよ。魔王」

「魔王か……」


 そう呟いたあと、樫田の顔がにぃと笑う。


「魔王か……俺がぶっ潰す」

「俺も俺もっ」


 二人が斜め上な決意を固めている間、戸敷はどの岩を崩せば安全かを確かめている。

 様々な角度から導き出された答えにより、ようやく大岩のひとつが決まる。


「樫田。これを壊せ」


 戸敷が寛いでいる樫田を呼ぶと、同じく寛いでいた高山がやってきて肩を怒らせる。


「オウオウ戸敷よぉ。何樫田さんに向かって命令してんだよ」

「命令? 俺は効率よく作業を行っているだけだが?」

「効率だぁ? 効率と樫田さんへの命令に、なんの関係があんだよ」


 ひとり勝手に怒鳴り散らす高山に対し、樫田は指示された大きな岩に向かって拳を振り下ろす。


「はぁっ!」


 気合の籠った声とともに拳を大岩に叩きつけると、その大岩が――。


「おっしゃぁぁっ。さ、休むか」


 粉々に砕けたのだ。

 

「樫田さん。拳痛めてないッスか?」

「んあー……皮が剥けたか?」

「じゃあ"治癒ヒール"」

「おぉ。お前も様になってきたなぁ」


 砕かれた無数の岩の破片を帝国兵が集め、別の場所へと積み上げていく。

 戸敷は再びどの大岩であれば砕いても崩壊しないか、計算を始める。


 樫田の拳が岩をも砕くほど頑丈で、且つ破壊力があると知ったのは二時間ほど前。

 同じように相田の拳も頑丈であったが、破壊力という点では圧倒的に劣っていた。頑丈さでいえば相田のほうが圧倒的でもある。

 残り二人は常人のそれに毛が生えた程度でしかなく、岩を砕くことなど出来ない。

 この二時間で砕かれた岩は僅か三つ。

 砕かれた小岩を移動させる時間のほうが圧倒的だからだ。


 その間、樫田は休憩し、高山は気が向けば怪我をした兵士に治癒魔法の実験と称して魔法を使い、戸敷は大岩と対峙する。

 相田は他の三人とは離れ、特に何をするわけでもなくヴァン王子の近辺にいるだけ。


 時間は掛かっているが、着実に外へと近づいている。

 それでも兵士らの作業する姿を、苛立たしそうに見つめる人物がいた。


(勇者は手に入れた(・・・・・)。だというのに……くそっ)


 彼らが洞窟内から脱出したのは、それから二日後であった。

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