58:アリアンに伝えて欲しい
「ペンダントをお持ちしました!」
扉――ではなく、アリアン王女が窓から登場。
え? なんで?
若干息切れした王女の手には、確かに――キャスバル王子の霊体があった。
『ようやく見つけた。私を見、声を聞いてくれる者が』
見つけられてしまった、そんな気分だ。
そして改めてキャスバル王子であるか問う。
『左様。私はキャスバル・レム・ニライナ。ニライナ王国の王子にほかない。して、貴殿の名は?』
「俺は御霊 霊路。レイジでもミタマでも、好きなほうでお呼びください」
『ではレイジ殿。まずは頼まれていただけるだろうか?』
「頼み?」
アリアン王女が持つペンダントから伸びた王子の霊体。
王女は俺の様子を見て、何かを探すように視線を泳がせている。
たぶん、キャスバル王子を探しているんだろう。
彼の霊が見えているのは俺だけだ。
アブソディラスも、他のアンデッドにも見えていない。
それは――。
『アリアンに伝えて欲しい。私は……生きている、と』
それは、王子が生霊だったからだ。
生霊だと霊としての存在感が薄くなるらしく、『見える』人間にしか見えないものなのだとタルタスやソディアから聞いてある。
精霊魔法を使えば、死んだ霊よりもハッキリと存在がわかるのだともソディアは言っていた。
今ソディアは精霊魔法を使って、キャスバル王子の存在を確認している。
俺の視線に気づいた彼女が頷く。
あぁー……生きてるんだぁ。
思いっきり殺されちゃった認定したんですけど。
まぁ、王女様が喜ぶからいいか。
さっそくアリアン王女にキャスバル王子が生きていることを話すと、そのまま倒れられてしまった。
倒れる彼女を支えようと手を伸ばす王子は、当たり前だが体をすり抜け勢い余って机にもダイブ。
王女は俺が慌てて支え怪我もなく済んだ。
ソファーに寝かせたところでソディアを見る。
「や、やっぱり言わないほうがよかったか?」
「そんな訳ないでしょ! というか、本人の口から聞いたの?」
「あぁ。王子は生きてるって」
「そう。よかったわ。アリアン様、喜びのあまり気を失ってしまったのよ。私が見てるから、王子から真相を聞いて」
「わかった。ってことで王子様」
床に転がり落ちたペンダントを拾い上げ、それをテーブルの上に置く。
頭をぶつけた様な仕草で王子が苦笑いを浮かべる。
いや、打ってないだろ?
『アリアンには心配をかけてしまったな』
「いや、その……俺が早とちりして、もう死んでるって伝えてしまったもので」
『なるほど。だがそれも致し方ない。私は現にここで霊としてペンダントに憑りついているのだから』
それから王子はこれまでの経緯を語り始めた。
まず、ドーラムとの国境までやってきた王子は、アリアン王女からの手紙を受け取ったと。
その手紙には、一年に一度だけ二人が再会する、北の別荘地で待っている――と書かれていた。
「王女からの手紙だという証拠の品とかあったんですか?」
『いや、特には』
そこはもっと警戒しようよ王子様。
数人の部下とともに到着した屋敷に人の気配はなく、中へ入ったところで――。
『何者かに部下が殺された』
「暗殺者ですか?」
『恐らくは。だが我らとてただ黙ってやられた訳ではない。私も剣の腕には自信がある。奴らのひとりを切り捨てたが――』
新手が現れ、その者の正体を知って動揺したところをやられた――と。
「新手?」
『あぁ。奴にも驚いたが、同時に奴の口から洩れた男の名にも驚いた。そのせいで一瞬反応が遅れ――』
殴打され気を失ったと王子は言う。
気を失う寸前、持っていたペンダントに王女の無事を祈ったらしい。
たぶんその想いが生霊になってペンダントに憑りついたのだろう。
『私の魂の半分がこのペンダントに憑りついたが、本体とはどこかで繋がっているようだ。というよりも、この城に入ってから繋がったようだ』
「城に、ですか?」
『あぁ。なんせ私はこの城の地下にいるからな、ペンダントとの距離が縮まってのことだろう』
「この城に!? ってことは、やっぱあの親衛隊隊長、ジャスランが」
キャスバル王子は頷き、そしてアリアン王女を見た。
そのアリアン王女、意識を取り戻したようでじっとこちらを見ている。
「キャスバルが……いますの?」
『あぁ、ここにいるよアリアン』
「えっと、王子は――」
彼の言葉を伝えようとしたが、アリアン王女は首を振る。
「いいえ、レイジ様。今、彼の声が聞こえました」
「え?」
「ここにいる。そう仰って、それから私の名を呼んでくださいました」
そう言うと彼女は大粒の涙を浮かべペンダントを抱きしめる。
そんなアリアン王女を、キャスバル王子が優しく包んだ。
若干体にめり込んでるけどな。
「二人の愛の力ね」
「え?」
いつの間にか隣にやって来たソディアが、これまた涙を浮かべてそう言う。
いや、チェルシーもカルネも、そしてコベリアも涙を浮かべていた。
『かぁーっ。女ってのは、どうしてこう他人の色恋事で感動できるのかねぇ』
『そんなこと言ってるから、チャック隊長は結婚できないのですぅ』
『はうっ――』
あぁ、チャックが灰色になってるよ。
成仏するかな?
「ではキャスバル様は王家の者が城を脱出する際に使う、地下通路に囚われているのですね?」
『恐らくそうだろう。途中意識を取り戻し、気絶したふりを続けて辺りを観察していたが。いくつかの仕掛けを使って現れた通路へと運ばれたからな』
へぇ、お城の中に隠し通路かぁ。
王子の声は俺とアリアン王女にしか聞こえない。
なので俺が彼の言葉をみんなに通訳することに。
その話を聞いてチェルシーが、
『私たちも隠し通路通りました〜』
と嬉しそうに話す。
え、なにそれ。羨ましい。
「通路の入口はいくつかございます。私の部屋からも行けますが……」
正面から部屋に入ることは出来ない。部屋の前には近衛兵が待機しているからだと王女は話す。
じゃあさっきの王女みたいに、窓から潜入するしかないか。
「いえ、中庭からも行けますので」
「あ、そうなんだ」
『私が捕らわれている場所までは、私自身が案内しよう』
自分を救出するために自分で案内か……。
『しかし、周辺には奴らの仲間がいて、常に見張られている。この人数で勝てるかどうか……』
「この人数ですか? えぇっと」
今表に出ているのは、コベリア、チェルシー、カルネ。あとタルタスか。
さっきまでチャックもいたが、いじけて影の中に入ってしまっている。
アンデッド五人と俺、そしてソディアを戦力として見ているのだろう。アブソディラスは――戦力外だ。
「王子、この人数ならどうですかね?」
俺がそう言って足元の影に向かって手招きをする。
ぞわぞわっと現れ出てくるアンデッドたちに、さすがの王子様もドン引きしたように後ずさった。
『これはまた……予想外な展開だな……』
困惑気味の王子に対し、アリアン王女は目を輝かせてアンデッドたちを見ている。
王女、アンデッド耐性高いな。
だがすぐに何かを思い出したかのように慌てだす。
「レイジ様っ。早くキャスバル王子を救出しないと、今度こそ殺されてしまいます!」
「今度こそ?」
「はい。私聞いたのです。明日の朝にはキャスバル様のご遺体を、堀に投げ捨てる……そうジャスランたちが話していたのを聞きました」
「え!? ニライナの外交官と!?」
ジャスランが王女誘拐の犯人だろうとは思ったが、やっぱりなぁ。
その言葉にキャスバル王子が思い出したかのように話す。
『私の前に立ちはだかったのが、まさにその男――アリアンの親衛隊隊長であるジャスランだ』
――と。




