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53:死んで……る

 案内された謁見の間は、思っていたより重い空気に包まれていた。

 ぐ……こういうの俺、苦手。


 部屋の中央に敷かれた赤い絨毯の上を、どこかぎこちない足取りで歩く俺。

 対照的にコラッダは堂々と胸――いや、ブレストプレート? を張って歩いている。

 見習いとはいえ、ここはさすが騎士ってところか。

 隣で歩くソディアも、どこか緊張した面持ちだ。

 同志がいてよかった。


 赤い絨毯の先に玉座がひとつ。

 そこに腰を下ろした人が王様なんだろう。その隣にはアリアン王女が立っていた。

 気のせいだろうか、アリアン王女の顔色が悪いように見える。


 コラッダが片膝をついて座るので、俺とソディアもそれに倣う。


「娘を救ってくれたのはお主らか?」


 重く、威厳のある声が俺たちにそう呼びかける。


「は、はい」


 真っ直ぐ前を見れず、ただそう返事するのがやっとだった。

 顔を伏せたまま左右をチラ見すると……うへー、なんかすっげー人がいっぱい並んで見てるじゃん。

 これ、全部騎士だの貴族だの大名だったりするのかな?

 あ、大名は違うか。


「国王として、ひとりの父親として礼を言おう。お転婆の過ぎる娘であるが、それでも私にとって大事な子のひとりであるからな。そなたらに感謝する」


 国王がそう言うと、周囲から一斉に拍手が上がった。

 が、それもすぐにピタリと止む。

 まるで誰かが号令をかけ、タイミングを合わせているかのように、だ。


 えっと、今このタイミングで返事をしろっていう意味、なんだよな?


「み、身に余るお言葉をいただき、恐縮至極に存じますっ」


 やや緊張気味だったが、大丈夫だよな?

 セリフ、間違ってないよな?

 確認するようコラッダを見ると、大丈夫だと言わんばかりに冑が上下に頷いた。


「うむ。では報酬を授けよう。本来であればきちんと礼を尽くさねばならぬところであるが……あいにく立て込んでおってな」


 そう言うと、国王は隣に立つアリアン王女をチラリと見た。

 それに気づいてなのか、彼女の顔は一層青ざめる。

 何かあったのだろうか?


 二人の騎士がやってきて、ひとりは革袋を、もうひとりは札のようなものを三つ持って来た。

 革袋の中身は金貨。枚数にして五十枚入っているという。

 ご、五十……五百万円相当!

 

「その札を国境検問所で見せれば、我が国への通行税の一切が免除される。他にも、国営の施設を無料利用することも出来る。有意義に使われるがよい」

「あ、有難き幸せ。大事に使わせていただきます」


 通行証というだけでなく、国営の施設もタダで使わせてくれるのか。

 って、国営の施設ってなんだろう?

 そんな風に首を傾げていると、後ろの謁見の間の扉が突然開け放たれた。


「ドーラム国王! キャスバル王子のペンダントがこの王城で見つかったというのは、どういうことですかな?」


 現れたのは、五十代の男。その後ろからも何人かの男女がやってきて、口々に王子の行方がどうとか喋っている。

 床に座った俺たちのことなんか目に入ってないかのようにずかずかやってきて、そして押しのけ王の前に。


 絨毯の左右に並んでいた騎士たちが慌てて彼らを引き留める。


 なぁんかこういうシーン、アニメや映画でも見るなぁ。

 こう……国王に真相を迫るんだけど、実はそいつが裏で糸を引いていました的な。

 ま、そんなものは物語の中だけの話であって、現実にそんなことが早々起こるはずないよな。


 話を聞く限りだと、現れた一行がニライナ王国の使者。

 そして彼らはキャスバル王子の行方を捜して――え? キャスバル王子が行方不明?

 だからアリアン王女の顔色が悪かったのか。


 謁見の間に真っ先に入ってきて国王に食ってかかる勢いの男の手には、確かにペンダントが握りしめられている。

 青い石がその手の隙間から見えるが、アリアン王女も言っていたっけか。

 王子のペンダントには青い石が使われているって。

 だとすると、本物?

 王女が見たのも本物だと本人は言っているし……ん?


『――れか……誰か私の声に耳を傾けてくれ……誰か……』


 この声。

 さっきトイレの前で聞いた、あの声と同じじゃないか。

 ど、どこからか、幽霊が入ってきてるぞ!?


 きょろきょろと辺りを見渡し見つけたのは、ニライナの使者が手にしたペンダントから。

 いや、男が持つペンダントからほんのり光る靄が立ち上り、その靄の先端にかなり薄っすらと人影が見える。

 声はその人影――若い男性から発せられていた。


 ま……まさか……。


「キャスバル王子?」


 俺の問いかけに、靄の上に立つ霊体が振り向く。


『見えるのか、お主!』


 ひぃーっ。キャスバル王子の霊体発見っ。

 ってことは――死んで……る。


「お客人を別室へお連れしろっ」

「「はっ」」


 国王が慌ただしくそう命令すると、俺たち三人は騎士に連れられ謁見の間を追い出されてしまった。

 扉が閉まる際に振り向くと、靄の上からすがるように手を伸ばす男の姿が。

 癖のない紺色の髪に青い目。靄の上だったから身長はわからないけれど……俺より少し高いかな。

 誰かに確認できればいいんだが。


 最初に通された部屋へと戻された俺たちは、これからどうすればいいのかと悩むことに。


『用は済んだのじゃ。はよリアラの下へ』

「王子様が行方知れずだなんて……アリアン王女、心配でしょうね」

『そうですよねぇ。お互い想いあった中ですから、そりゃあ心配でしょう。だけど王子のペンダントがこのお城にって、どういうことなんでしょうね?』

「そうね。王女はドレスティンの町でそのペンダントを見せられ、信用して馬車に乗ったのだと言うし」

『その時落としたにしても、ペンダントがお城にあるって不自然ですよ』

『お主ら儂の話を聞けっ』


 コラッダはともかく、ソディアにアブソディラスの声は届かない。

 ということで、スルーしているのはコラッダだ。

 あと俺。


「なぁ……実はさ……」


 アブソディラスの『出発じゃ』という訴えを完全無視し、俺は重たい口を開いた。


「あのペンダントに……キャスバル王子の亡霊が憑りついていたんだ」

「え……」

『そ、それじゃあ……』

『『俺らと同じアンデッド!?』』


 ずいっと右足の下から出てきたアンデッドのせいで、俺は後ろ向きに思いっきり転倒。

 その時見たのは、扉の前で口元を抑え、叫ぶ一瞬前のアリアン王女――だった。

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