表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/97

52:身だしなみぐらい整えないと

 王都に到着したのはドレスティンを出発した翌々日の昼過ぎだ。

 この辺りを知る冒険者ゴーストによると、馬車での移動というのも考えると、昨日のうちに到着してもおかしくない距離だという。

 実際、アリアン王女も馬車の中で愚痴をこぼしていた。


「もっと早く走れませんの?」


 ――と。

 で、そのたびにジャスラン隊長が「移動を速めて馬が疲れたところを襲われれば、逃げ切ることも出来なくなりますよ」と諭しのろのろ走行に。

 その辺り、俺たちにはよくわからないので従うしかない。

 もちろん王女は不満タラタラだったけどな。


「まぁこうして無事到着したんだ。よしとしよう」

『うむ。あとは褒美とやらを貰って、さっさとリアラの住む町へ行くぞい』

「いや、リアラさんは……というか、褒美貰う気満々なんだな」


 アブソディラスが活躍した訳ではない。なのに我がごとのように、何が貰えるかのぉとさっきから五月蠅い。

 ドラゴンなんだから、そういうのに興味なさそうなんだけどなぁ。


 アリアン王女と親衛隊隊長ジャスランは先に王へと謁見し、俺たちはその後ということに。

 応接室というか客室というか豪華なホテルのスイートルーム?

 そんな部屋で待つこと数十分。


「遅いなぁ」

「そ、そうね。で、でも王様と会うんですもの。一介の冒険者が、そうそう会えるような方じゃないんだから、仕方ないわよ」


 と、一番そわそわしているソディアがそう話す。


「緊張してる?」


 と尋ねると、真っ赤な顔で「してないもんっ」と。

 してる。もの凄く緊張してるだろ。

 唇を尖らせて「してないもん」と言い張るのも、なんとも可愛らしい。

 普段はキリっとしているけど、たまにこういう表情をするからなぁ。


 っと、緊張している訳じゃないけど、便所に行きたくなった。

 謁見中に行きたくなるのはまずいよな。


「お、俺……ちょっとトイレに」


 そう言って部屋を出ようとすると、ソディアが――。


「待って。私も行くっ」


 ――と。


『僕は……留守番してますね』


 うん、まぁコラッダは便所なんて行く必要ないもんな。

 しかし、まさか女の子と一緒にトイレとは。もちろん日本のトイレみたく、男女別々の造りではあるけれど。


 客間の外にいた兵士にトイレの場所を聞き、二人でお城観光をしつつ目的のトイレへと向かう。


「俺、本物のお城に入ったのは初めてだ」

「偽物ならあるの?」


 というソディアの質問に、そもそも偽物が何なのか悩んだ。

 某テーマパークのあれは、偽物に入るのだろうか?

 いや、行ったことないんだけどさ。


 トイレに到着して別れた後、案の定先に出てきて彼女を待つことに。

 それにしても……長い。

 女のトイレは長いって聞くけど、本当に長い。

 十分以上経ったんじゃないか?


 あ、もしかして。

 王様に会う前に、気合入れてめかしこんでいる、とか?

 じゃ、じゃあ、俺もちょっと……寝ぐせでもないか確認しておこう。


 そう思って再びトイレへと入ろうとしたとき――。


『――誰か……私の声が……聞こえぬか』


 どこからか風に乗ってそんな声が聞こえてきた。

 その声がこの世ならざる者の声であることは、直ぐにわかった。


 それほど近くではないが、遠くでもない。

 若い男の声だ。


『どうした、主よ』

「幽霊だ」

『ぬ? どこにも見当たらぬようじゃが』

「近くではない。でも遠くって訳でもない。誰かに話を聞いて欲しそうな、そんな感じだ」


 聞きに行くのかと尋ねられたが、憑りつかれても困る。

 それに――。


「お、お待たせ。ごめんなさい、待たせちゃって」


 と、ほのかな石鹸の香りを漂わせたソディアが戻って来た。

 うん。やっぱりおめかししていたようだ。

 案外女の子らしいよな――と、思わず笑みが零れる。


「な、なによ。どうして笑うの? な、なにか変?」

「いや。あぁ、髪も整えていたんだな」

「そ、そりゃあ王様に会うのよ? 失礼のないように、身だしなみぐらい整えないと」


 そう言って彼女が俺の髪を弄る。


「寝ぐせ?」

「う、うん。ここ、ね。ちょっと……うん、よし」

「ありがとう」

「ふふ。じゃあ行きましょ」


『――誰か……私の声を……どうか、誰か聞いて欲しい』


 悲痛な声が風に運ばれてくる。

 その声に耳を貸さないよう心掛けながら、元いた客間へと向かって歩き出す。

 通路の先、前方からジャスラン隊長と部下がやってくる。

 俺たちの姿を見て、部下の方が踵を返し、ジャスラン隊長だけがやって来た。


「どうかしたかい、お客人」

「あぁー、謁見する前にその……」


 俺は後ろの通路を指さすと、その先に見えるトイレで察したようだ。

 ジャスラン隊長は笑顔で頷くと、謁見はもうすぐだからと客間に急いで戻るよう促された。


 もうすぐ……一国の王様と対面する。


 うん。そう思ったらちょっと緊張してきたぞ。

 部屋に戻ってすぐ、遂にその時は来た。


「お待たせしましたみなさま。謁見の準備が出来ましたので、ご案内します」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ