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45/97

45:気絶したかな?

「我に従え。竜の骨より出でたるは竜牙兵ドラゴントゥスウォリアー


 竜牙兵の骨――は、元々俺の指の骨。

 竜牙兵が倒された所には、俺の指先の骨だけが残っていた。

 その骨を手に再び呪文を唱える。

 すると、俺の指先の骨がぽろっと落ちて、元のあった竜牙兵骨と合体!?


「合体した!」

『融合したと言わんかい。なんじゃ、その幼稚な言い回しは』

「ぬぐ……あ、出てきた」


 カタカタと音を立てて竜牙兵が四体、地面から現れる。

 ん? なんかさっきまでと様子が違う?

 生き残った竜牙兵と比べても、なんか……あ、冑被ってら。剣も少し大きいかも?

 あと背丈も若干伸びたような。


『竜牙兵の骨にはの、それまでの経験が蓄積されておるのじゃ。その骨と新しい骨とを融合させることで、強さの引継ぎのようなものが出来るんじゃよ』

『生まれたての竜牙兵と、戦闘経験を積んだ竜牙兵とでは、強さが違ってくるのですぅ』

「レベルアップしてるってことか」


 あ、生き残った竜牙兵が、融合合体した竜牙兵を羨ましそうに見ているぞ。

 で、俺をじっと見つめ、何か言いたそうな顔――いや表情はないけど、きっとそうなんだろう。


「あいつもレベルアップさせてやれないのか?」

『そりゃあ骨に戻せば出来るが、せっかくなんじゃし、もっと経験を積ませれば――』


 出来る――と聞いたとき、手を叩いて竜牙兵は明らかに喜んでいた。

 せっかくなんじゃし――とアブソディラスが続けたとき、肩を落とした。

 感情豊かな奴だ。


 だがこの融合。何度でも出来る訳ではないらしい。

 融合すればするほど強くなるが、サイズも大きくなっていくのだとか。

 実際、癒合合体組は元の竜牙兵と比べても、身長が5センチほど伸びている。

 で、今の次点で既に2メートル近い。その上冑には角まで生えてるし、このまま伸びるとダンジョンに入らなくなる日も来そうだ。


「なるほど。融合合体は四、五回が限界だと思ったほうが良さそうだな」

『うむ。どこに行くにも、大きいと不便じゃからの。そのことに関して、儂以上に痛感出来る者もおらんじゃろうて』


 と、どこか遠くを見つめるアブソディラス。


 そういうことなら仕方ない。

 レベル1竜牙兵の肩を叩き、


「もう少し経験値溜まったらな?」


 と諭す。

 分かってくれたのか、こくりと頷いた竜牙兵は俺の荷物を背負って待機モードに入った。

 ほんと……忠犬だよこいつは。


「竜牙兵の再生も完了した。あとは――」


 馬車はアンデッド軍団が取り囲んで動けないようにしてある。

 御者は既にいない。


「逃げたのか?」

『いえ、奴らのひとりでやした』


 先の襲ってきたあの六人のうちのひとりだったのか。


「あの連中、随分と強かった印象だけど、俺が魔力を封印して弱体化したせいかな?」

『いえ、あいつら、全員手練れの暗殺者でやしたよ。あっしでもタイマンだと押し負けていたかもしれやせん』

「暗殺者……にしてはこんな馬車での登場なんて、おかしくないか?」

『ま、中にいる奴に聞いてみましょうや』


 そう言ってチャックが馬車のドアを叩く――いや、叩けない。

 彼がすり抜けていった後、男の悲鳴が上がって向こうから出てきてくれた。


 男の容姿は、一言でいえばデブ。

 それもかなりの――だ。


 出てきたはいいが、周囲にはゾンビスケルトンゴーストだらけ。

 今度は短く悲鳴を上げると、その巨体はピクリとも動かなくなった。

「気絶したかな?」

『レイジ様、こいつの心臓、動いてません』


 ……マジか。

 その場の空気が凍る。

 そしてひとり、またひとりと無言で俺の影へと潜っていった。

 竜牙兵が気を使ってか、自分たちはどうすればいいとばかりに頭蓋を傾げてくる。


「あぁ、お前たちはそのままでいいよ。何かあったら守って貰わなきゃならないからな」

「レイジくん、どうする?」

「うぅん……どうするかな」


 馬車の中に何か奴らの素性が分かるようなものでもあればいいけど……ある訳ないよなぁ。

 そう思って覗いた馬車の中。


 俺は思わずドアをパタンと閉めた。


「どうしたの?」

「……人が、いた」

「人?」


 そう。人がいた。

 馬車の後部座席に女性がひとり、眠っていた。

 彼女はパジャマを――いや、あれはネグリジェってやつか?

 とにかくスケスケのみえみえで、男としてここで見ちゃいけないんだと思いドアを閉じた。


 このデブ……もしかして奴隷商人だったのか?

 と、地面に転がる男を見下ろす。

 

「ソディア、頼む。その……女の人だ」

「え……わ、分かったわ」


 ソディアが察して馬車の中へと入る。

 あ、そうだ。俺の着替えの学生服があったな。

 派手だからあまり着ていない赤いブレザーを、待機している竜牙兵の背負い袋から取り出し――


「ソディア。俺の着替え」

「ありがとう。ついでにマントも借りていい?」

「分かった」


 中を覗かないようにブレザーとマントを手渡す。あとは彼女に任せて外の方を片付けるとしよう。


 襲って来た暗殺者たちの亡霊は――いない?


「あいつら、成仏したのか?」

『残念ながら……ですがこっちは――』


 そう言ってチャックがあのデブの首根っこを掴む。

 あれ? 体に障れてる?

 

 と思ったがなんてことはない。男の霊体を引きずりだしただけだ。


『ひぃ、お、お助けください』

「いや、あんたもう死んでるから」

『ひぃぃっ』


 俺たちは男の素性を訪ねた。

 案の定、男は奴隷商人だったが、馬車の二人を奴隷として客に売るつもりではなかったらしい。


『い、依頼を受けたのです。この馬車と中の女とをニライナまで運べと。わ、わたくしどもは、そういった極秘で物を運ぶ仕事も請け負っておりますので』


 同じ商人であるモンドが、こういう裏の運び屋がいつの時代にも存在するのだと話す。

 そういう運び屋は、たいていが奴隷商だとも。


「誰に依頼された?」

『知りません』

「もう一度聞く。誰に依頼された?」

『知りませんっ。依頼者の顔も名前も分かりません。本当でございますっ。その方がお互い何かと都合がよいのでございます。特に相手が身分の高い方である場合にはっ』


 身分が高い……貴族、だろうか?

 一緒にいた暗殺者は、裏組織から雇った者たちだと奴隷商は話す。


「レイジくん。彼女の意識が戻ったわ」

「ソディア。彼女、怪我とかは?」

「……無いわ」


 ん?

 なんだろう。ソディアが急に不機嫌になった?


『そ、それではわたくしめは、これにてお暇させていただきます』

「え、ちょ――」


 どこからともなく現れた光の道筋。

 それに乗ってブタは下りて(・・・)行った。


 光の道筋が、地面に向かって伸びてるの見たのは初めてだ。

 あれは地獄行だな。

 

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