44:やっておしまい!
「殺れ」
馬車から顔を覗かせた男がそう言うと、馬から降りた奴らが武器を手にゆっくりとやってくる。
「待て。女は生かして捉えろ。なかなかの上玉だ。高く売れるかもしれへん」
馬車の男が再び命令を下す。
ソディアを……売るってことか?
武器を手にした奴らは一言も発することなく――跳躍した!
「ソディア!」
「自分の身は自分で守れるわっ。それよりレイジくん!!」
いっきに距離を詰めてくる奴らに向かって、詠唱付き魔法は間に合わないっ。
「竜牙兵、ソディアを守れっ」
敵は六人。
三人が竜牙兵に斬りかかり、一瞬にして一体が倒される。
竜牙兵が……律儀で俺のことを案じてくれる、まるで忠犬のような可愛い竜牙兵を……。
「よくも俺の大切な竜牙兵を! 火球!」
突き出した右手から出たのは、マッチの火すら凌ぐほど小さい火球。
僅か数十センチ飛んだところで消えた。
ダメだこりゃ!
「っぷ」
「あ、てめーっ。今鼻で笑いやがったなっ」
「……死ね」
『躱すんじゃ!』
無理!
やべっ、斬られる!
そう思った瞬間、誰かが俺の足を掴んで――こけさせられた。
「痛ってぇー」
『電撃!』
思いっきり後頭部を地面に打ち付け、痛みに悶える俺の隣から半透明の腕が伸びた。
伸びた手には同じく半透明な杖が握られており、そこから青白い閃光が迸る。
カルネの魔法か!
「っち」
相手の男は素早く反応し、後ろに跳躍してそれを躱す。
竜牙兵を簡単に倒した奴といい、こいつといい……強い。
見ると立っている竜牙兵は二体。
ソディアは二人を相手に防戦一方だ。
俺は――。
目の前のひとりですら手一杯だ。
使える魔法が少なすぎる。詠唱する時間もない。
一旦は後ろに下がった男も、直ぐに獲物を構え迫ってくる。
火球はダメだ、弱すぎる。
地面を蹴って飛びかかろうとする男。
『今じゃ!』
「これならどうだっ。"爆炎"!」
「ぐあっ」
無詠唱であるゆえ威力は小さい。しかも昨日までの俺と比べれば、今の魔力はゴミみたいなものだ。
それでも超至近距離――顔面で爆発をモロに食らった男からは、ぶすぶすと肉が焼け爛れるような音が聞こえてくる。
「もう一発――"爆炎"」
「ぎゃああぁぁっ」
今度は奴の腹を狙って魔法を唱える。
この魔法は火球と違い、飛ばすタイプではない。
狙った場所で炎を爆発させる、空間設置型だ。
思い描いた場所で爆ぜた炎は、男の衣服を燃やし、大きな火傷を負わせることに成功。
俺と対峙していたのはこの男だけ。
だが竜牙兵の数が減っている。すぐに俺のところへ来るだろう。
「お前たち、出番だぞっ」
地面に手を付きそう囁くと、足元の影が大きく膨れ上がる。
そして――。
『『おおぉぉおーっ!』』
咆哮するアンデッドの群れが、いっきに飛び出してゆく。
「チャックチーム、竜牙兵と対峙していた奴らを! コウ、ラッカ、コベリアは俺と一緒にソディアの助けに。あと誰かそいつに止めを――と、もう刺してたか」
飛び出してきたその時に、顔と腹に火傷を負わせた奴をそのまま撲殺したようだ。
残り五人。
「"電撃"!」
さっきカルネが見せた魔法を、ソディアと戦っている男のひとりに放つ。
迸る閃光が男の足を捉えると、激痛で顔を歪めて一瞬の隙が生じる。
「はぁっ!」
その隙をソディアは見逃さない。
魔法が付与された切れ味抜群ソードは男の胸板に大きな傷をつけたかと思うと、ドパァッと鮮血がほとばしる。
更に別の男にはラッカが放った矢が、その鋭い眼光に突き刺さった。
勝てない――そう悟ったのか、男は逃げようと踵を返す。
――が、それを許すほどアンデッドは甘くない。
『おーっほっほっほ。お痛が過ぎたわね。アタシ、絶対に許してあげないんだから』
ビシーっと伸びた鞭が男の腕を捉え、コベリアに引っ張られあっという間にぐるぐる巻きに。
『コウっ、やっておしまい!』
『おぉーっす!』
どこぞのお代官様のように、ぐるぐる巻きだった鞭を解き放つと同時に――今朝、俺の腕を躊躇いもなく傷つけた剣が、寸止めもなく振り下ろされる。
男の首が落ちる瞬間、俺は思わず目を背けた。
異世界に来ても、やっぱりこういうのは慣れないよ。
「レイジくん、大丈夫?」
「ソディアの方こそ。ごめん、最初からみんなには出てきて貰うべきだった」
「ううん。仕方ないわ。山道を通る馬車が全て、あんな奴らとは限らないんだし」
あんな奴ら……何故突然俺たちを襲ってきた?
俺が死霊使いだと知って?
もしかすると、樫田が話していた暗殺者……にしては、馬車での派手な登場というのがおかしい。
馬車に乗っていた男に聞くか。
『レイジ様、こっちは片付きやした。残念ながら残った竜牙兵は一体だけでして』
「あ、あぁうん。ありがとう」
俺の判断ミスのせいで、竜牙兵を死なせてしまった……。
『主よ。倒された竜牙兵の骨、拾っておくんじゃぞ』
「あぁ……骨は拾ってやらないとな。どこかに埋めて、供養してやろう」
『何を言っておるんじゃ……骨を再利用して竜牙兵を再召喚するんじゃよ』
え……再……利用?
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