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4:ひとりで留守番

「じゃあ、ここから絶対に動かないでね」


 森をしばらく歩いたが、まだ抜けられそうにない。

 そのうえ陽も傾いてきたので、俺たちはここで野宿することとなった。


「ひとりで大丈夫か?」

「えぇ。もちろん平気よ。むしろレイジくんがひとりで留守番するほうが心配だわ」

「……大丈夫さ! 平気へいき」


 男の俺が心配されるなんてな。

 まぁ異世界初心者なんだ。仕方ないよな。


 留守番、と言ってもじっとここで待つわけじゃない。

 彼女は水と、そして夕飯の食材になる物を探しに行った。

 その間、この辺に落ちている木の枝を拾い集めるのは俺の仕事だ。


「寒くなってきたな。火を付けられればいいんだが」


 ソディアは小さなバッグを置いて行っている。

 ファンタジーだとこういうとき、火打石とかで火を点けるんだろ?


『火を点ける程度の魔法なら大丈夫じゃろう』

「え? そんな魔法があるのか?」

『んむ! では枝に向かって利き手をかざし、復唱するがよいっ』


 なんで上から目線なんだ。

 さっきはこいつの言うことを聞いてとんでもない目にあったんだが。

 まぁいいや。着火用っていうなら、大したこともないだろう。


『念のため少し離れるのじゃぞ』

「ああ」


 山にした木の枝から二メートルほど離れ右手を出す。


『"燃えよ、始原の炎――火球ファイア"はいっ』

「"燃えよ、始原の炎――火球ファイア"はいっ」

『じゃからぁー、はいは要らんって』


 復唱しろというから、全部を言ってるのに文句言われるとか……。

 お?


 突き出した右手が熱を帯びたかと思ったら、なんだこれは!?


「おいっ。これのどこが火を点ける程度なんだ!」

『儂が知るかっ。どうしてこんな巨大な火球になるんじゃ!』


 右手の先にできたのは、直径二メートルもあろうかという巨大な火の玉。

 木の枝まで二メートル。

 火の玉も二メートル。

 気が付けば、枝は消し炭になっていた。


 しぅーっと音を立て収縮していく火の球。

 後に残ったのは灰のみ。

 それをぼぉーっと見つめる俺とアブソディラス。


『要するに、主は魔力の練り方がへたくそじゃし、そもそも魔力の量がおかしすぎるんじゃな』

「でもそれって、魔力自体はお前のものだったんじゃないのか?」

『う~む。そうなんじゃよなぁ。どうしてこんなことになっておるのやら』


 腕を組んで考え込むアブソディラスを見て、つい吹き出してしまう。

 これがドラゴンか?

 確かに見た目は――トカゲか。いや、トカゲと恐竜を足して二で割ったぐらいだな。

 どこからどう見ても人間には見えない。

 だがその仕草は人間そのものだ。


『主よ、何を笑っておるのじゃ?』

「ん? べーつに。あ、そうだ。お前さ、なんで旅なのさ」

『旅? ……あぁ、成仏するための願いかの』


 俺が頷くと、アブソディラスはぽつりぽつりと話し始めた。


『んむ。実はな――』


 ドラゴンは生前から、世界を旅してみたいと思っていたらしい。

 けれどそれには障害があった。


 彼が歩けば大地は揺れ、山が崩れて地面には穴が開く。

 その翼で空を飛べば、竜巻が発生し、離陸と着陸時に突風で木々が飛んでいってしまう。

 民家でもあろうものなら、跡形もなく吹き飛ばされるだろう……と。


『以前から旅をしてみたいとは思っておったんじゃ。じゃがそのせいであちこちに被害が出るのは、儂も望まぬところ。故に諦めておったのじゃが――』


 そんな折、勇者召喚の生贄として倒され、そして俺がやってきた――と。


『いやぁ、いろいろ諦めていた時に、主がぽんっと出てきてのぉ。そりゃあもう、超強力な吸引力で吸い寄せられたわい。かーっかっかっか』


 憑りつきたくて憑りついたのではなく、憑りつくべくして憑りついたのだと訳のわからないことを話す。

 俺が悪いのか?

 まぁあの場に残ってたとして、あまり良いことにはならなかっただろうし。

 摘まみだせの一言で放りだすような皇子様だもん。残ってたらどんな目に遭っていたかわからない。


「歩けば地震を起こし、羽ばたけば竜巻を呼ぶ……か」

『おほ。なんだかかっこいいのぉ』


 そんな話をしていたら、近くの茂みで音が鳴る。ソディアがもう帰ってきたのか――というと、そうじゃなかった。

 お互い目が合い、一瞬固まる。

 茂みから出てきたのは二人組の男だ。


 先に動いたのは二人組のほうだった。


「お、おうおう。ガキがひとりでこんな所で何やってんだ?」

「変わった服だな。あ、兄貴、こいつもしかしてどこぞの貴族のぼんぼんなんじゃ?」


 そんな訳ないだろう。

 そうツッコミを入れる前に、兄貴側がぽんっと手を叩いていやらしく笑う。


「なるほど。家来どもと逸れたか、それともお坊ちゃまの家出か。どちらにしろ金の匂いがするぜ」

「そうでやすねぇ」


 いや、しないだろ。

 っていうか、この流れからするとこいつら……盗賊だよな!


『小物かのぉ。こんな奴ら、ちょちょいのちょいで軽く捻ってやればいい』

「は? 何言ってるんだよ。向こうは武器だって持ってるんだぞ。できるわけないじゃないかっ」

『できるできる』

「無理だってっ」

「何をブツブツと喋ってやがるっ」

「兄貴、こいつ頭がいっちまってるんじゃないっすかね?」

「なんだっていい。とっ捕まえるぞ!」


 そう言って長身の「兄貴」と呼ばれている方が剣を引き抜く。すぐにもうひとりも同じように剣を抜いて構えた。

 ど、どうしよう。

 さっきの魔法を使うか? いや、下手すると森まで燃やしてしまいかねない。


「攻撃魔法以外でなんとかできないのか!?」

『ならば儂の言う通り復唱するのじゃ。"我に従え。竜の骨より出でたるは竜牙兵ドラゴントゥスウォリアー"はいっ』

「"我に従え。竜の骨より出でたるは竜牙兵ドラゴントゥスウォリアー"はいっ」

『はいは余計じゃっ』


 ごごごごごっと幽霊ドラゴンの顔がアップになる。

 大きいから、近づきすぎ!

 あれ……ごごごごごってこれ、地鳴りじゃんっ。

 ぼこっ、ぼこっと足元の地面が盛り上がり、そこから這い出てきたのは……。


「骸骨!?」

『おぉ、やはりできたか』


 カラカラと音を立てて竜牙兵が五体、ボクに跪きじっとこっちを見ている。

 髑髏だ。目玉も睫毛も何もない、ただの黒い窪みがじっとこっちを見ているんだ。


「あああああああああにきぃぃ。な、なんかマズいっすよぉ」

「ひいいぃ、が、骸骨っ」


 ほら、二人も怖がってるよ。俺だって怖いよ。

 カタカタと音を鳴らし、五体の骸骨が一斉に二人へと振り向く。


「「ひいいぃぃぃぃっ」」


 盗賊二人が同時に叫ぶ。

 次の瞬間、二人は荷物を放り投げて森の奥へと逃げていった。


『おや、せっかく竜牙兵を呼んだというに、何もせぬまま逃げおったわい。追うか?』

「いいよっ。そんなことよりどうすんのさ、これっ。ちゃんと成仏するんだろうな?」

『いや、成仏というか、これはのぉ――』

「あぁもういいっ。必殺! 迷わず成仏してください! あの世に帰ってください!!」


 曾祖母に教えてもらったお祈り。憑りつかれたらとにかく一心不乱に「成仏してください」と唱えろと言われていた。

 その甲斐あってか、竜牙兵たちは顔を見合わせ肩をがっくりと落としながら地面を掘って戻っていく。

 お、おお。こっちの世界の幽霊にも、祈りは通じるみたいだ。


『いや、それが命令と思って土に潜っただけじゃ。可哀相に、生まれて最初の命令が成仏じゃからなぁ。ま、あれはゴーストタイプではないから、成仏なんぞせんがの』

「え? あれってスケルトンとかそういう類のものじゃないのか?」

『魔法生物じゃ。まぁいい。これでわかったことがある』

「わかったこと?」


 アブソディラスは頷く。


『主は儂の血肉を吸収しておること。そして骨もじゃ』


 うぇ……血肉に骨……。


『血の中には儂の知識が流れ込んでおる。肉には再生能力が』

「じゃあ知識の勇者と癒手の勇者って、それぞれドラゴンの血と肉を吸収したってこと?」

『うむ。吸収とはその言葉通りじゃよ。自らの体内に儂のそれぞれを取り込んで、力にしておるのじゃ。まぁ吸収とゆうても、他の勇者どもが吸収したのはこれっぽっちじゃがの』


 そういってドラゴンは、まるで米粒でも摘まむような仕草をする。


「あの、俺の場合、水晶には【残り物】と出ていたんだけど、それってどういうことだかわかるか?」

『残り物というより、ほとんど全てということじゃ。その中には当然、儂の骨も含まれておる。さっきの竜牙兵はの、ドラゴンの骨から作られる魔法生物じゃ。あれが産みだせたのも、儂の骨を取り込んだ主だからこそじゃ』

「なるほどぉ……え、ちょっと待って。じゃあもし俺が、ドラゴンの骨を取り込んでなかったら――」


 あの恥ずかしい厨二病を患わせたような呪文は、ただの言葉でしかなかったと?

 竜牙兵は現れず、今頃俺は盗賊たちに……。


『結果オーライじゃ。かーっかっかっか』


 ……やっぱり幽霊なんて、ロクな奴がいない!


「ねぇ。さっき悲鳴が聞こえたんだけど、レイジくん大丈夫だった?」


 ソディアが戻ってきたのは、まさにこのタイミングだった。

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