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37:なんか目が合った

『俺の体を返せ!』

「そう言われてものぉ。どうして入れ替わったのか、儂にも分からんのじゃよ」

「ちょっと、その喋り方……まさか古代竜なの!?」

「うむ」

『うむじゃねえよ!』


 驚いたソディアが辺りをきょろきょろする。

 俺を探してくれているのだろう。

 そしてチェルシーが俺――の体の上を指さし、つまり俺を指さし『あそこ』と教えている。

 が、ソディアには見えないようだ。


「レイジくん、いるの?」

『いる。ここにいるよ』

『――と言ってるっす』


 通訳がいなければ言葉を伝えることもできないのかよ。

 えぇい、アブソディラスめ!


『それでレイジ様。お宝はどうしやす? 放っておくと迷宮に飲み込まれてしまいやすぜ』

『え!? それは困る。ここまで来た意味が無くなってしまうじゃないか』

『じゃあ、三つのうち、どれを開けやすかい?』


 コウがソディアに通訳をし、ひとまず宝箱を開けることを優先すると伝える。

 ソディアも相田との件があるし、それには同意してくれた。


 問題は、三つのうちどの箱を開けるか――だな。

 

 当たりはひとつ。

 残りは空、罠、ミミックのどれか。


 あ、そういえば。


『チャック。ゴーストは壁をすり抜けられるんだ。箱もすり抜けて中身を開ける前に確認できるんじゃ?』


 という俺の言葉に、冒険者ゴースト一同一瞬間をおいて、大歓声を上げる。

 俺、今凄いことに気付いたよな。

 これ、今後の迷宮でも当たりだけを選べるってことじゃないか!


『レイジ様、素晴らしい!』

『さすがレイジ様です!』

『いよっ、男前!』


 そう言ったまま、誰ひとり宝箱を覗きに行こうとはしない。


『えぇっと、誰が行ってくれるんだ?』


 何故か全員、一歩下がる。


『レイジ様。今あなたは浮遊霊です』

『……そうだな』

『あなたもすり抜けられるんです』

『……俺に行け、と?』

『いえいえ滅相もありません。行けではなく、貴重な体験をお譲りするだけですから』


 だからつまり、行けってことなんだろ?

 でもチャックの話は一理あるかもしれない。

 何かをすり抜けるなんて、ちょっと出来る経験じゃない。


 俺は好奇心に駆られ、目の前に並ぶ宝箱のひとつに顔を突っ込んだ。

 そして、突っ込まなきゃよかったと後悔した。


『あああぁぁぁぁっ、なんか目が合った。鮫の歯みたいなのもあったぁぁぁっ』

『おめでとうございやす。ミミックですな』






 当たりの宝箱の中身は杖だった。


『魔術師用の杖ですぅ。レイジ様がお持ちになっては?』

『いや、俺よりもソディアのほうがよくないか? ちゃんと魔法を使えるんだし。はい、通訳』

「え、でも私は剣を持っているし……。両方というのは、使いづらいから」


 あぁそうか。

 じゃあ、持つしかないのか。


「うむ。杖があれば、魔法を使う際の魔力の練り具合も、安定しやすくなるじゃろう」

『そうか。あとはアブソディラス。早く俺の体から出ていけ!』

「もうちょっとぐらい、ええじゃろう。それにじゃ。さっきも言うたが、どうしてこうなったか儂にも分からぬのじゃぞっ」

『えぇい、しのごの言わずに出ていけっ――』

「もうちょっとぉーっ」


 逃げようとする俺inアブソディラスだが、そもそも俺の霊体は肉体にくっついている。

 どんなに走って逃げても、自動追尾完備なんだよ。

 こうなったら実力行使だ。自分の体に向かって勢いよく飛び込み、奴を押し出してやる!

 ――お。


「戻った!?」

『戻りおったぁ〜!?』

「レイジくんなの?」

「あぁ、俺だ。俺だよソディア!」


 感極まってソディアを抱きしめ、そのまま抱え上げてくるりと一回転。

 あぁ、触れるっていいなぁ。


「レ、レイジくんっ」

「うん。人肌の温もりって、こんなにも安心できるもんなんだ――はっ!」


 抱きしめたソディアを開放し、同時に自分がしでかしたことを思い出して顔が熱くなる。


「ご、ごめん」

「う、うん。いいの……体に戻れて、よかったね」

「うん。ありがとう」


 気まずいような、それでいてどこか癒されるようなひと時。

 だがそれは一瞬にして終わった。

 

 吐息は真っ白に染まり、辺り一帯の気温が急激に下がっていく。

 これは……怨霊化したチャックたちが登場した、あの時と同じ!?


 そこで俺は思い出した。

 昨日、休憩中の冒険者が話していたのを聞いたアブソディラスからの情報を。


 ――『出るのじゃ。騎士の亡霊が』


 思い出すと同時に、全身の毛が逆立ち鳥肌が立つ。

 隣のソディアもあの時と同様、蒼白になった顔でどこともいえない場所をじっと見つめている。


「ソディア!」


 ソディアは幽霊への耐性がない。

 こんな時、どうすればいいのか分からないのだろう。

 だから……彼女は目を合わせてしまう。

 見てはいけないアレの目を。

 

 憑りつかれるだけならまだいい。

 だけど魂を吸い取られたり、憑依されたりすると厄介だ。

 

 そうならないよう、俺はソディアを引き寄せしっかり抱きしめる。

 一瞬体を大きく震わせた彼女だが、すぐに俺の背中へと腕を回し、小刻みに震えながらしがみついてくる。


 意識はある。

 大丈夫だ。


 けれど大丈夫ではないモノが俺の視界に現れた。


 冑で顔すら見えない全身を鎧で覆った人物。

 それが十人、白い靄とともに現れた。


「う、うわぁぁっ! き、騎士の亡霊!?」

『ひいぃぃぃっ、幽霊だあぁぁっ!』

「え?」


 甲冑を身にまとった騎士――の亡霊が、こちらのアンデッドを見て狼狽えている。


 いや、幽霊だーって……そちらさんだって幽霊だろう。

 

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