31:よし作ろう
休憩所の結界を破壊してしまった。
まずやることは――逃げる。
そしてどうするか大いに悩む。
座り込んで頭を抱える俺に、ソディアも同じように座ってこう言う。
「新しく結界を作れば?」
「誰が?」
「レイジくんが」
「俺が?」
「そう」
「よし作ろう」
と簡単に言ったものの、結界の仕組みがまず分かっていない。
アブソディラスとカルネが同時に説明しだすが、二人とも違う仕組みを話している。
つまり結界を作るには、複数の方法があるってことか。
その中でも比較的簡単は、今すぐにでも作れる方法で試すことにした。
まず、あの休憩所の結界は、さっき俺が使った"絶対防壁"みたいなので通路を塞ぐ方式の結界だったこと。
そして壊した結界はさっきの通路の所にあったものだけ。
ここを補完すればいいだけだ。
『結界の発生源には、この魔晶石を使うですぅ』
「オケ。四つに魔法を掛ければいいんだな?」
『そうじゃ。結界魔法を掛けた媒体を、通路の四方に嵌め込めばそれで終いじゃ』
媒体が破壊されれば、さっきみたいなことになる――と。
ったく。壊れるような軟な媒体使ってんじゃねえよ。
『ちなみに媒体の耐久度はぁ、術者の魔力ランクに比例するですぅ。結界石をどんなに攻撃しても、今まで破壊されたことは無かったですからぁ』
「俺が悪いのか!? やっぱ俺のせいなのか!?」
「レイジくん。急がないと、こうしている間にも、結界が壊れた休憩所内にモンスターが入り込む可能性だってあるんだから」
「そ、そうだった。えぇっと――"邪悪なる存在は入るべからず。闇の眷属を退け、安らぎと休息をもたらす、憩いの空間となれ――安全空間"」
魔晶石を握りしめ、何度か呪文を詠唱すると石が光り始める。
『結界魔法、成功ですぅ。あと三つ、お願いしますね〜』
「お、おぅ。なんかこれ、魔力が吸い込まれるような感覚なんだが」
『はい〜。吸い込まれてますよ〜』
『さすがに結界魔法じゃからのぉ。精神力の消費は"爆炎"の比ではないからの』
『ここの結界を張った賢者様は、七日七晩掛かって結界石を作ったそうですよぉ』
……俺、数回の詠唱で完成させてんだけど、大丈夫か、こんな結界で。
とはいえ、今までの魔法とはさすがに全然違う。
残り三つに魔法を掛け終えると軽い眩暈を起こすほどに。
「私が魔晶石を埋めてくるわ。その間ここで休んでて」
「竜牙兵とラッカ、彼女と一緒に行ってくれ」
『カラカラ』
これで結界の件は解決だ。
けど……さすがに休憩所に何食わぬ顔で入ることは出来ないな。
どこかで野宿ってことになるが、せめてソディアは安全な休憩所内で休んで貰おう。
――ソディア視点。
ほんと、レイジくんってば規格外過ぎるわ。
でもそれだけ古代竜の力が凄いってことよね。
さて、魔晶石をさっきの通路に埋めて、早くレイジくんの所に戻ろうっと。
えぇっと、安全地帯――あら、まだ誰もいないのね。
じゃあ今のうちにパパっと終わらせちゃいましょ。
竜牙兵にも手伝って貰い、通路の四隅に魔晶石を埋め込んでっと――。
四つが揃った途端、通路に光が満ちて――ラッカさんがその光に弾かれ後ろに転がった。
やだ、スケルトンだからモンスター扱いになって、結界から弾かれちゃうのね。
じゃあそもそも私たちは安全地帯に入れないってことに。
『カラカラ』
「え? なに? モンドさんいないと、何を喋っているのかさっぱり……あ、ううん、ラッカさんのせいじゃないのよ」
肩を落とすラッカさんだったけど、直ぐに思い出したように背後を指差す。
灯り……冒険者が来ているのね。
「ラッカさん。竜牙兵のふりしててね」
『カラカラ』
彼が頷くと、一緒に来ている竜牙兵の横に並んでシャキっと立つ。
ふふ。あれで竜牙兵のフリなのね。
「うわっ。ア、アンデッド!?」
「待ってっ。これは竜牙兵なの。仲間の魔術師が召喚した、私の護衛よ」
「竜牙兵?」
角を曲がって来た冒険者たちが、寸でのところで攻撃を中断。
直前での判断が出来るってことは、そこそこの冒険者ってことね。
ふぅ、助かった。
「それにしても、今日はいったいぜんたい何が起こっているんだろうな」
「あぁ、上層階にアンデッドの大群なんて、聞いた事もないぜ」
ギクッ。
「そのアンデッドも、段々と下の階層に移動しているって話だしな」
今、この階層にいるわよ。
「お嬢さん、仲間がいるって言うが近くなのか? 気を付けた方がいいぜ」
「え、ええ。すぐ合流するから、平気よ」
「アンデッド軍団が下りて来てるって言うんで、多くの冒険者は上の階層に逃げて行ったよ」
「そういえば全員真っ赤な装備の、やたら目立つパーティーも上のほうにいたな」
真っ赤な装備? レイジくんと同じ世界から来たあの連中のことね。
「その人たち、今何階層にいるのかしら?」
「ん? ここの安全地帯にいないなら、まだ十階だろうな。なんせ上のほうは大渋滞だからさ」
「アンデッドのおかげで、俺たちは快適な狩場を確保できそうだけどな」
「ははは。確かに。アンデッド様さまだぜ」
ここの安全地帯にはまだ誰もいなかった。
っということは、あの相田って奴らはまだ上の階ってことね。
ふふ。このまま最下層まで一直線よ!
情報提供をしてくれた冒険者と別れレイジくんの下へ。
彼はアンデッドたちに囲まれ何かを悩んでいるみたい。
「レイジくん、お待たせ」
「あ、ソディア。結界は?」
「大丈夫。ちゃんと張れてるから」
彼の隣に腰を下ろし、私は冒険者から聞いた情報を彼に告げる。
そして最後に――。
「野宿できる場所を探しましょう」
彼の手を引っ張り立ち上がると、チャックさんたちに野宿出来そうな通路が無いか尋ねて歩き出す。