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30:笑顔で見送るアンデッドたち

「うわああぁぁぁぁぁっ!」

「な、何故この階層にアンデッドがいるんだっ。しかもこの数、おかしいだろ!!」

「ど、どうする? た、戦うのか?」

「ば、馬鹿言えっ。勝てる訳ないだろ」

「じゃあどうするんだよ!」

「逃げるに決まっているだろっ」

「ま、待ってくれえぇぇっ」


 そんな感じで逃げていく冒険者を、笑顔で見送るアンデッドたち。

 俺とソディアは冒険者に見られないよう、円陣を組んだアンデッド軍団の中心に身を隠している。

 冒険者が遠ざかっていけば再び前進。


「いったい何組の冒険者が迷宮から脱出していったかな」

「……もう数えるのも止めたわ。それより次の十八階層で野宿できる場所を探しましょう」

『姉さん、二十階層なら安全地帯セーフティーゾーンがありやすぜ』

「姉さんは止めてよチャックさん! どう見てもあなたの方が年上でしょ、もうっ」

「じゃあ二十階まで直行だな」


 迷宮は階層によって構造がバラバラだ。

 一階層のようにフィールド風になっている所もあれば、洞窟らしい外観もある。迷宮っぽく壁に囲まれた階層もあった。

 二十階までチャックたちの案内で迷うことなく、一直線にやってきた。

 それでもそれぞれの階層が広いだけあって、ここまで来るのに数時間。


「腹減ったな」

「そ、そう? 私はまだ平気だけど」


 とソディアが言った瞬間、誰かの腹の虫が鳴る。


「や、やだコウったら、そんなにお腹が空いたの? え、えっと、安全地帯ってどこかしら?」

『お、俺っすか!? 俺の腹の虫っすか!?』


 たぶん違うんだろうが、そういうことにしておいておこう。

 ごつごつした岩肌がむき出しになった二十階層。いくつも枝分かれした通路も、チャックたちが迷うことなく進む。

 そして次の角を曲がった先が安全地帯だって所で――。


「うわっ。通路いっぱいにモンスターが溜まってるぞ」

『あぁ、たまにあるんですぜ、こういうの。安全地帯が近いからって、道中のモンスターを引き連れたまま逃げ込んでくる連中がね。そのせいであぁなっちまう、と』

「ネットゲームでいうトレイン迷惑行為だな」

『ネ、ネット? なんでやすか、それ?』

「あぁ、気にしないで。それよりアレ、どうしたものかな」

「そうね、さすがに私もあの数を一度に倒せるような魔法は……」


 一度のあの数を倒せるような魔法、ね……あ、あれなら行けるかお?


『ではレイジ様、我々が――』

「いや、俺がやってみる。ここまで俺、な〜んにもしてないからな」


 そう。俺はここ地下二十階まで来るのに、何一つしていない。

 する間もなくアンデッド軍団がモンスターを一掃してしまうというのもある。

 それでもソディアなんかは、遠くから魔法で援護攻撃をしていたぐらいだ。

 なのに俺は――。


 覚えている攻撃魔法は、直径二メートルの"火球ファイア"。

 洞窟の天井を破壊する、アンデッドに当たったら浄化間違いなしのマップ破壊兵器"爆炎フレイム"。

 あと攻撃に使えるとは思えない生活魔法三つだ。

 威力が極端すぎて使い勝手が悪い。


『ま、待てミタマよ。ここで天井が崩れたら、みな生き埋めになるぞ?』

『俺は大丈夫っすよ』

『コウは黙っておれ!』

「レイジくん、魔法はダメよ。みんなが死んじゃうわ」

『俺たちは死なないっすよ』

「コウは黙ってて!」


 二人に黙れと言われてシュンとしるコウ。

 お前さ、学習しろよ……。


『レイジ様の魔法って、そんなに凶悪なのですかぁ?』

「凶悪ってもんじゃないわ。彼ね、私を助けてくれた時――」


 ソディアがあの洞窟での話をカルネに聞かせる。するとカルネは目を輝かせた。


『素晴らしいですレイジ様! さすが勇者様ですぅ』

「はぁ……どうも」

『でもここで詠唱付きの魔法は危険ですぅ。私たちゴーストはいいですけどぉ、レイジ様やソディアさん、あとゾンビスケルトンの皆さんもお陀仏ですぅ』


 俺はこのまま活躍する場を与えられないのか?

 異世界に来て、魔法が使えるようになって、でも馬火力のせいで魔法を使えないのか?


『だから無詠唱で行きましょう〜』


 ……無詠唱?






 拳を突き出しぎゅっと握りしめ、ばばっと開いた手で薙ぎ払うかのようなポーズを付ける。

 払った手を最後に再び体の前に持ってくると――。


「"爆炎フレイム"!」


 と言って指ぱっちん。


 うん。

 自分でやってなんだが……厨二病患ってるなぁ――とか思っていたら、前方のくんずほぐれつなモンスターの頭上で、光が――爆ぜた!?


『うひょー。これまた練りすぎじゃぁぁ』

『カラカラカラ』

「きゃあぁぁぁっ」


 爆風!

 爆風があぁぁぁっ。


『復唱! "絶対防壁パーフェクトシールド"はいっ』

「パ、"絶対防壁パーフェクトシールド"! はいっ」


 畳二枚ほどの発光する壁が現れ、爆風から飛んでくる石から、そしてモンスターの肉片から俺たちを守る。

 見えない壁でもあるかのように、飛んできた物体は弾かれ、逸れてから後ろに飛んでいく。

 全てが収まったとき、前方で群がっていたモンスターは一匹も残っていなかった。


 天井は……崩れていない。

 念のため壁――大丈夫だ。

 床――特に穴も開いていない。


 成功だ。俺はマップ破壊兵器の汚名を返上したぞ!


「やったぜ! 全滅させてやったぞっ」


 そう拳を高らかに上げたとき――。


 ――ピシッ

 ――パキッ

 ――ガラガラドッシャーン。


 ガラスで出来た建造物でも割れたような、そんな音が響き渡った。


『今ので安全地帯を構成する結界が、壊れてしまったですぅ〜』

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