21:アタシとのことは遊びだったのね
案の定、アンデッドが魔法の武具を装備することは出来なかった。
いや、できたとしても、命がけだろうな。うん。
「ねぇ、レイジくん。思うんだけど、アンデッドに魔法の武具は無理なんじゃない?」
「うん。俺もそう言ったんだけど……おい、本当にアンデッドでも装備できる武具ってあるのか?」
頭上のアブソディラスは辺りをきょろきょろし、それらしい物を探しているようだ。
『あるある。じゃがその為にはやらねばならぬことがあるぞい』
「やらなければならないこと?」
『んむ。武具に呪いを付与することじゃ』
きょろきょろするのを止めたアブソディラスは、ドヤ顔でそう言った。
呪いを……付与?
「呪いを付与した程度で装備できるようになるのかしら」
と、アンデッドに通訳してもらったソディアが言う。
『ただの呪いではない。死霊使いであり、こ奴らの主人であるミタマが付与することが大事なのじゃ』
「じゃあ、死霊使い専用の呪い魔法なのか?」
『んむ。なかなか難しい魔法じゃぞ。アンデッドが触れられるように、闇の力を付与せねばならぬが、実際に呪いを付けてはいかんのじゃ』
呪いの魔法なのに呪うなって……面倒くさい制約だなぁ。
まずはその呪文というのを教えて貰う。
そして呪文と共にイメージしなければならないのだとか。どういう呪いにするのかを。
でも実際に呪いを掛けてはいけない。
あくまで武具の性質を、闇属性にするだけだ。
『しかもじゃ。時間制限付きじゃと、その都度掛けなおさねばならなくなる。じゃから永続的な効果になるよう調整せねばならぬぞ。さもなくば――』
歩いている途中で効果が切れ、気づいたらアンデッド浄化……なんてことになるぞと脅す。
俺にではなくアンデッドたちに向かって。
『ひぃぃぃ』
『ゆ、勇者様ぁぁぁぁっ』
あぁ、また影に潜っちゃったよ。
静かになったところで作業を開始しますかね。
「とりあえずテスト掛けするけど、価値の低いもので試したいな」
「あら、どうして?」
「いや、普通に呪いが付与されたら、その武具が使えなくなるだろ?」
「解除すればいいじゃない」
あ、なるほど。
じゃあやるか。
「"常闇に住まう亡者のひと欠けら。血塗られし紅の闇を纏わせ、その呪いを与えん――混沌闇付"はいっ」
なんてこっ恥ずかしい呪文だよ。
この世界は厨二病で溢れかえっているのか。
頭を抱えながら唱えた呪文だったが、適当に選んだ片手剣は無反応。
『うぅん。何故恥ずかしがるのじゃ? ちゃんとイメージせねば、呪えるものも呪えなくなるぞい』
「呪いの魔法ですもの。詠唱中は恥ずかしがるんじゃなくって、誰かを呪うつもりで唱えないとダメよ」
なんでこの二人は似たような反応を示すんだろうか。
誰かを呪うつもりと言われてもなぁ。
『主よ。これまで起こった嫌なことを思い出してみよ。そして復讐を誓うような、そんな気持ちで詠唱するのじゃ』
「嫌なこと……ねぇ」
嫌なこと……あぁ、あれは五歳ぐらいだったか。
辛うじて記憶に残ってるものだけど、思えば初めて怖いと思ったな。
幼稚園の送迎バスが来て、ドアが開いた瞬間……。
――僕も一緒に行くよ。
そう言って同じ年頃の男の子が出て来た。
ただし、顔の半分が吹っ飛んでいたけどな。
もうそのリアルな姿が、当時の、いや今の俺でもかなりのものだ。
そのまま憑りつかれ、気絶し、ひいばあちゃん宅に担ぎ込まれたっていう。
たぶん、人生初の憑りつかれはこの時だな。
そりゃあもう、ひいばあちゃんは心配したもんさ。
だから簡単除霊方法も教えてくれたんだが、当時はまだうまく唱えられなくって、なんどもひいばあちゃん宅に駆け込んだな。
まったく。俺は何もやってないのに、なんで憑りつくんだよ!
人様に憑りつく暇があったら、成仏しやがれってんだ!
『よし、今じゃ!』
「お、おう! "常闇に住まう亡者のひと欠けら。血塗られし紅の闇を纏わせ、その呪いを与えん――混沌闇付"はいっ!」
呪文の完成と共に、今度は片手剣に紅色の光が宿る――と思ったら、純白の光に変わった?
な、なんかこれ……神々しくも見えるんだけど。
『ミ、ミタマよ……どうして呪いの呪文でそうなってしまうんじゃ?』
「え? な、何かマズいことに?」
「レイジくん……何故呪いの呪文でこんなことになるの?」
同じツッコミを上から横から貰い、更に足元からはアンデッドの悲鳴が漏れ出している。
いったいこの付与魔法がどうしたっていうんだ?
「レイジくん。その剣。聖属性が付与されているわよ」
「……え?」
聖、属性?
『あぁぁぁっ。やっぱり勇者様は、わしらを強制成仏させる気なんじゃぁ〜っ』
『酷いっす! 惨いっす!』
『酷い……アタシとのことは遊びだったのね!』
『カラカラカラ』
自分の影にこの剣を突き立てたら、こいつら成仏してくれるんだろうか?