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2:主に惚れるじゃろうて

『おほーっ。体が軽くなったわーい。いやぁ、以前はのぉ、小さめの城なら座るのにちょうどいいぐらいのサイズじゃったからのぉ』

「はぁ!? なんでお前がいるんだよっ」

「うう、五月蠅い! 黙って歩けっ」


 後ろから槍で突かれ思わず口を噤んだが、そのままそぉっと頭上を見てみた。


 いる……むしろ肩に乗っている!?


「俺、帝都に戻ったら、新しい槍を新調するんだ」

「あぁ。俺もそうしよう。ったく、なんでよりにもよって死霊使いなんだよ」

「触るだけで呪い殺されるって、本当かな?」

「お前、触ってみるか?」

「嫌だよ、止めろよ!」


 なんだろう、この兵士たちは。

 人に槍を突き付けているくせに、それを持つ手は震えてるし、やたら怯えているように見えるんだけど。

 それに……すっかり俺……。

 憑りつかれている。思いっきり憑りつかれている!


『以前はのぉ、この穴も狭くて通るのが一苦労したんじゃ』


 知るかよそんなこと!

 あぁもうっ。なにがどうなってんだ!


『ぬ? 何か揉めておるようじゃの』

「揉めている?」


 さっきの場所と比べれば天井の高さは半分以下だが、それでもやたら大きな通路の先に人だかりが見える。

 松明の明かりに照らされているのか、手前の壁に影が浮かび上がっている。


「いやっ。止めなさいよっ」


 女の声だ。

 影の様子からだと――両手を頭の上で……縛られてる?


「帝国軍の兵士が、こんなところで何をしているっていうの! ちょっと、槍で何捲ろうとしているのっ」

「げふっ」


 棒のようなもので彼女のスカートを捲ろうとした奴がいたようだ。

 その槍を彼女が蹴り上げ、捲ろうとした奴の顔面を直撃……。


 どうなっているんだ?

 捕まっているんだろうけど、反撃もしている?


「この女……ふざけやがって!」


 男が語気を荒らげて吠えたかと思うと、次に布を切り裂く音が響いた。


「きゃぁーっ」

「おおぉぉ!」


 女の悲鳴と男たちの歓声が同時にあがった。


「おいおい、なんだか楽しそうなことになってるじゃないか」

「おい、早く歩け!」

「っ痛」


 おい、今のは刺さったんじゃないのか!?

 槍に押し出され歩かされ、人だかりの輪へと押し込められた。

 

 前のめりに倒れたところを踏みつけられ、起き上がることができなくなる。

 目の前には……。


 スカートを破り取られ、下着姿があらわになった女が……いる。


「いや……見ないでよ……」

「ごめんっ」

『おほーっ。リアラに似ためんこい娘じゃのぉ』


 首をひねって頭上をきっと睨みつけると、鼻の下……いや、鼻筋を伸ばしたドラゴンがいる。


「殺すのか?」


 と俺を踏みつけている兵士が仲間に問う。

 え、殺すって……そんなにアッサリ人って殺せるものなのか?


「イイ女なんだぜ? 殺すには勿体ないだろう。楽しんだ後にでもヴァン様に献上すれば、褒美を貰えるかもしれねえぜ」

「あぁ、そりゃあいい」


 楽しむ?

 褒美?

 何言ってんだ、こいつら。

 まともじゃないだろ?


「て、帝国兵が古代竜の住む洞窟で……何をしていたのよ!」


 気丈にも彼女は怯まず、そう叫ぶ。

 ただし、足をくねらせ少しでもパンツ姿を見られないよう、必死なようだ。


『どうする主よ。助けるか?』

「は? た、助けるって……俺に何が出来るっていうんだよ」

『そうじゃの。儂がひとつ魔法を教えてやろう。その魔法であの馬鹿どもを蹴散らし、娘を助けるんじゃ。そうすれば娘は主に惚れるじゃろうて』


 ほ、惚れるって、何言ってんだ!?

 こんな時に、ふ、不謹慎だろ!


『教えるのはちょっとした範囲効果のある魔法じゃが、この人数なら全身に軽い火傷を負わせるぐらいになるじゃろう。とは言え、追いかけることも出来ぬぐらいにのダメージを与えられるじゃろうて。たぶん』


 今たぶんって言ったよな!


『なぁに。安心せい。万事儂の言う通りにすれば大丈夫じゃからの。なんせ儂、伝説の古代竜なんじゃし。かーっかっかっか』

「その伝説のなんとかってのは、今死んでるんだろ?」

『かーっか……しょぼーん。そ、それよりはよ助けんと、穢されてしまうぞい』


 くそっ。やるしかないのかっ。

 これが夢であったら、どんなによかったか。


「うおおおおぉぉぉっ」


 腕と腰に力を込め、踏みつけている男を払い飛ばす。

 直ぐに立ち上がり捕らわれの身となっている彼女を庇うようにして仁王立ちする。


「おいおいおいおい。異世界から来た勇者様――のオマケが何やってんだ?」

「こいつ、オマケなのか?」

「あぁ。古代竜の残りカスしか吸収できなかった、しかも死霊使いだぜ」

「ひえっ。し、死霊使いだと?」


 明らかに俺を馬鹿にしている兵士たちだが、その間にもドラゴンの死霊が俺に語り続ける。


『魔法はの。ただ唱えるだけじゃダメなのじゃ。内側に蓄えられた魔力を練り上げ、それを一気に放出するようなイメージを作り上げねばならぬ。まぁ異世界から来た主にはまだわからぬじゃろうが、とにかく集中するのじゃ』

「わかったから早く!」


 兵士たちが俺を笑いものにしている今のうちに。


『うむ。では復唱せいっ"煉獄の炎を我が手に。爆ぜろ、そして焦土と化せ――爆炎フレイム"はいっ』

「ぐ……"煉獄の炎を我が手に。爆ぜろ、そして焦土と化せ――爆炎フレイム"はいっ!」

『いや、はい、はいらんじゃろ?』


 ドラゴンの死霊に言われ、右手を突き出し厨二病全開な何かを唱えた。

 腹の底から何か暖かい――いや熱いものが湧き上がってくる。

 これが魔力ってやつか?

 それを感じながら、湧き上がる物を膨らませ、最高潮に達したところで――放つ!


 一番近くにいた兵士の頭上に線香花火のようなものが現れ――と思った瞬間。


『ぬぉ! い、いかんっ。復唱じゃあぁぁっ"絶対防壁パーフェクトシールド"はいっ』

「え? "絶対防壁パーフェクトシールド"はいっ」


 線香花火が消え、代わりに辺り一面を炎が包んだ。

 けたたましい轟音とともに爆風が襲う。

 マズい――そう思ったが、俺と彼女の周囲だけ、炎も煙も届いていない。


 なんだ……なんだこれは!?


『主ぃぃぃぃっ! 何をやっておるんじゃっ。強力すぎじゃろうっ。誰が洞窟を破壊しろというたっ』

「え、洞窟を破壊?」

「ここにいたら巻き込まれるわっ。杭を外して。早く!」

「お、おう」


 頭上で縛られた縄に杭が刺さっていて、それで彼女は逃げられないようになっていた。

 その杭を外すと、彼女は縛られた手で俺を掴み走り出そうとする。

 何がなんだかわからない俺はそれに従って走ったが、背後で崩れる音がした。

 走りながら振り向いて見た光景は、炎が舞い、天井が崩れ落ちる様子だった。


 俺はいつからマップ破壊兵器になったんだ?

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