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18:最強になるしかないのぉ

『主よ。目の下にクマが出来ておるの。寝不足か?』


 テントを竜牙兵に手伝って貰いながら片付け、丸めて紐でくくる。

 その間、アブソディラスが俺の顔を覗き込んでそう言った。


 えぇ、寝不足ですけどなにか?

 だってこいつら、徹夜でどんちゃん騒ぎするんだもん。五月蠅くて全っ然眠れなかったんだぜ。

 あぁ、数日前にも同じようなことあったな。


「五月蠅くて眠れなかったとか?」

「ソディアもか?」


 と尋ねたが、彼女は首を振る。


「ごめんなさい。私は風の精霊にお願いして、自分の周りの音を消してもらっていたから……」

「そんな手があったのか!」

「こ、今夜はレイジくんのテントもシルフに頼んであげるわね」


 やった!

 これで安眠できるってもんだ。


 ソディアが朝食の準備をし、俺は川で水汲み。

 それから二人でご飯を食べる。


 なんだろう……女の子と、それもこんな美人と二人っきりで食事なんて、夢のようだ。


『勇者様ぁ。暇っすよぉ。早く出発しましょうよぉ』

『ご飯食べなくても平気ってことは、痩せられるかなぁ?』

『無理でしょ。アタシたち、死んでるのよ?』

『わしも若い頃に死んでおればよかったのぉ』

『カタカタ』


 アンデッドさえいなければ、本当に夢のようなひと時だったのにな。





 片付けも終え、再出発。

 しかしチェルシーは、なんで浮遊霊になったんだろう。

 なったというか、戻った?

 元々は浮遊霊なり地縛霊だったんだ。そこから俺の呼びかけに応えてアンデッド――ゴースト化していた訳だろ?


「なんでチェルシーは、ゴーストから浮遊霊になったんだろう?」


 誰にという訳でもなく疑問を口にすると、当然とばかりにアブソディラスが答える。


『主の死霊術が半端じゃったからだのぉ。ほれ、みなを呼び出したとき、主は儂が教えた呪文をアレンジしたではないか』

「どんな風にアレンジしたっけ?」

『わからぬことを、いろいろ教えてください、じゃ。命令になっとらんのじゃよ』

「はぁ……」


 だっていきなり上から目線だと、逆に怒らせて憑りつかれるかもしれないじゃないか。ヘタすると呪われるかもしれないんだぜ。

 だがアブソディラス曰く、命令じゃない=強制力が弱いせいで、強い想いのある地にやってきたチェルシーが、成仏しなかった理由を思い出して霊に戻ってしまったのだと話す。


『最強にして伝説の古代竜である儂の全てを吸収しおったくせに、情けないったらありゃせんわ!』

「いや、死霊術だって初めてだったんだ。別にいいじゃん」

『良くないわ! 最強の死霊使いとなるのであれば、もっとしっかりせい!』

「え? 俺、最強の死霊使いとかなる気ないし」


 と、ここまでアブソディラスと話したところで、突然アンデッドたちがザザっと俺を取り囲む。

 一体だけはソディアに俺とアブソディラスとの会話を通訳していた。


『わしらのご主人である勇者様が最強ではないということは、従者であるわしらも最強ではないということですじゃぞ!』

『アンデッドとして仕えたからには、最強の道を進みたいっす! 俺、足がこうなる前は冒険者だったっすよ!!』

『よくわからないけど、最弱より最強のほうがいいじゃない?』

『カラカラ』

『はい。私も最強のほうがよろしいかと思いますです、はい。最強だとお金もがっぽがっぽ入るイメージですし、はい』

『最強になりましょう!』

『『最強!』』

「え、レイジくん、最強目指すの?」

「いやいやいや」

『最強になるしかないのぉ』


 死人どもめぇ……他人事だと思いやがって!


『けど勇者様が最強の死霊使いになるのなら、俺らもそれ相応のアンデッドにならなきゃダメっす』

『カラカラカララ』

『ラッカもそう思うっすか!』

『カラッ』


 お、コウとラッカに友情でも芽生えたのか?

 武器かぁ。あるといいなぁ。

 だが――。

 ゴーストは相手に触れて生気を奪うだけ。

 スケルトンとゾンビはひたすらタコ殴り。


 今はまだいい。

 でもそのうち強敵が現れたら……頼みの綱は竜牙兵だけになってしまう。


「せめて竜牙兵みたいに武器を持っていたらな」


 俺の呟きに過剰なまでの反応を示すアンデッドがいた。


『それっす!』

『カララッ!』


 コウとラッカだ。

 だけどラッカはともかく、コウは……。


「竜牙兵。その剣をコウに貸してやってくれ」

『カタカタ』


 律儀に刃の方を自分に向け、危なくない柄の方をコウに差し出す竜牙兵。

 よし、こいつには竜牙兵Aというコードネームをつけてやろう。

 で、残りがB、C、D、Eっと。


『い、いいんっすか?』

『カタカタ』


 コウの問いに竜牙兵が頷く。

 あいつら、素直でいい奴らだよな。荷物も率先して担いでくれるし。


 竜牙兵愛用の剣にコウが手を伸ばす。

 伸ばして――すり抜けて――空を掴む。

 再び伸ばして――すり抜けて――空を掴む。


 何度か繰り返した後、竜牙兵が首を振って剣を腰の鞘に戻してしまった。

 項垂れるコウ。

 そうなるよな、やっぱ。


「コウ、お前はゴーストだ。物質には触れない。武器も防具も、もう装備できないんだよ。かわいそうだけど、こればっかりは諦めるしかない」

『そ、そんなぁぁぁぁっ』


 叫ぶコウを慰めようとラッカがその肩に手を――置けない。

 コウが物質に触れないように、実体あるモノはコウに触れられないのだ。

 こればっかりはなぁ……。


『装備出来る武具もあるぞい』

「『え!?』」


 俺とコウが同時に叫ぶ中、アブソディラスはドヤ顔で宙にいた。


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