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17:罰ゲーム

 声を頼りに夜の森を移動。

 ランタンの灯りとソディアが召喚した光の精霊だけが足元を照らし、なんとか進んでいく。

 木の根や岩で、かなり足元は悪い。灯りが無ければこんな所、歩けないぞ。

 と思うんだが……。


「なんでお前らって、灯りが届かない場所でも平気な顔して歩けるんだ? いや、スケルトンに表情はないか」

『あ、それワイらを軽くディスってるっしょ』

「気のせいだ。で、なんで暗い道でも平気なんだ?」


 今も俺の前後左右にはアンデッド軍団が歩いている。

 一部飛んでいるとも言うが、ゾンビとスケルトンは確かに歩いているんだ。

 足場が悪いのでゾンビは歩き難そうではあるが、木にぶつかるということも無い。

 スケルトンなんかは軽快に森を歩いている。


「アンデッドは暗視能力があるのよ」

『ソディアお嬢ちゃんの言う通りのようで、幽霊じゃった時もそうなんですが、生前に比べると視力がようなりましてな。しかもアンデッド化してからというもの、夜でも日中と同じように見えますのじゃ』

「え!? それ羨ましいんだけど。じゃあ、この先に何が見えるかわかる?」


 ヨサクじいさんは俺に言われて進行方向をじぃっと見つめる。


『木、ですかのぉ』

「あぁ……うん。森だもんな。木が見えるよね」


 聞いた俺が馬鹿だった。

 早くサナドを見つけよう。


 今も俺と、そしてチェルシーにはサナドの声が聞こえている。

 チェルシーの前に……と、そればかりだ。

 まだ強制力が働いているのか。


 なんとか辿り着いたのは、小川から数百メートルは離れたであろう森の中。

 声は、目の前にある大岩から聞こえていた。


『サナド、そこにいるの?』

「いるなら出てきてくれ」

『いや、主よ。そこ、お願いするような言い方じゃなく、命令口調にしてみるのじゃ』


 命令口調?

 そういえばさっきも、命令気味な口調で気合入れたらアンデッド軍団が戻ってきたんだっけ。

 すぅーっと息を吸い込み、腹の底から声を出すように――。


「サナド、来い!」


 っと叫ぶ。

 すると、大岩がぼわぁんっと淡い光を発して……。


『はいーっ!』


 っと、サナドが現れた。


 死霊って、もしかしてM属性なんだろうか。


『サナドーッ』

『チェ、チェルシー!?』


 あ、憑りついていたチェルシーが離れた。

 あっさりだなぁ。


 喜びの再会を果たした二人は、人目というかアンデッド目もはばからず熱い抱擁を交わす。

 ……彼女なんて、未だに出来たことない俺に対して……これなんて罰ゲーム?


 しかし、大岩から出て来たってことは、彼の遺体はこの下ってことか。

 岩にガッツリ憑りついた状態で、地縛霊化しているんだな。


『サナド、ずっと……ずっと探していたんだよ』

『チェルシー……僕は謝らなければならないんだ。髪飾りはまだ……』

『ううん、いいの。サナドの気持ちは、もう充分伝わったから。それに謝るのは私の方。あんな馬鹿な事をして……あなたを川に飛び込ませたりして……私、取り返しのつかないことをしちゃったんだもん』


 あぁ、うん。

 ここは二人の昼ドラ劇場になるんだな。

 あ、ちょっとチェルシー! 黒い靄を背負い込むんじゃない!!

 散れっ、散れっ。


 俺他アンデッドたちが、チェルシーの周囲に集まる黒い靄を必死に散らそうと手を振る。

 そんな光景もまったく目に入ってない二人は、完全に別世界にいるようだ。


 サナドがそっとチェルシーを抱き寄せ、そ……そして!?


 あぁぁぁぁ、もうダメだあぁぁぁぁ。


 俺はこの昼ドラ劇場に耐え切れず走り出して、そして大木の根っこに足を引っかけて転倒。

 うぅぅ、リア充爆ぜろ。


「レイジくん、大丈夫!? もう、暗いんだから走っちゃダメよ」


 転倒して擦りむいたのか、頬が痛む。

 その頬に駆け付けたソディアが手を添え、何かの魔法を唱えた。


「"生命をもたらす精霊よ。彼の傷をその力で、湧き上がる生命力を以ってして癒してあげて"」


 ぽっと光ったソディアの手。

 暖かい……。


 俺、生きててよかった。


『放っておいても一瞬で塞がるのにのぉ』


 アブソディラスの言葉が彼女に聞こえないことを、俺は感謝した。






『それでね、勇者様。サナドを――』

「わかってる。岩をどかして埋葬して欲しいって言うんだろ?」


 こくこくと頷くチェルシー。その背後では、岩から離れることのできないサナドがぺこぺこと頭を下げていた。

 彼が何故地縛霊になったのかは明白だ。

 遺体が岩の下敷きになっているから――だと思ったんだが。


 手ごろな木を数本伐採し、アンデッド&竜牙兵を使っててこの原理でようやく大岩を動かすと――辛うじて人骨だとわかる物と、その指先に朽ちかけた木片が見つかった。

 ほんの数センチ先に、サナドが探していた物がある。

 彼は川を流されながらも見つけていた。

 だがそれを手にする直前、川岸にあった大岩が倒れ、そして押しつぶされた――と。


 彼が地縛霊となったのは、どうしても取り戻したかった髪飾りがそこにあったから。

 それを手にするまで、自分は成仏できない。

 でなければ天国にいるであろうチェルシーに顔向けが出来ないから……と。


『まさかチェルシーまで成仏していなかったとは思わなかったよ』

『サナドを置いて、ひとりで成仏できるわけないじゃない〜』

『チェルシー』

『サナド』


 罰ゲーム、まだ続くのか?


『あぁあぁ、とりあえず他所でやって貰っていいっすか?』

『あ、ごめんなさぁい、コウさん』

『え? コウさん、いたんですか?』

『い、いたっすよ!』


 コウ、涙目。

 そうか、チェルシーの記憶に出てきてたぐらいだ、サナドとも顔見知りでも不自然じゃないよな。


 苦笑いを浮かべる二人の幽霊。

 その顔を見てコウも笑う。


『チェルシーとサナドはっすね、俺ん家とはご近所だったっすよ。だから……二人は弟であり、妹であり……。まぁそんな感じっす』

「そう、なんだ。だからコウは、そんな体で必死にサナドを探したんだが」

『へへへ。兄貴っすから』


 買ったばかりの毛布にサナドの遺体を乗せ、その手にはしっかりと髪飾りを握らせた包んだ。

 そして俺たちは夜の森を再び歩く。

 今度はアズの町に向かって。


『まさか出戻りすることになろうとはのぉ』

『ごめんなさぁい、ドラゴン様ぁ』

『まぁよいわ。リアラもお前さんらのように既に死んでおるでな。急ごうが急ぐまいが、墓の下におることは変わらぬ』


 お、アブソディラスの奴。

 この旅がリアラさんに会いに行くためだって、うっかり口を滑らせているな。

 まったく、適当な言い訳なんかせず、最初からそう言えばいいのにな。

 

 アズの町――の外にある古い墓地に戻って来た俺たちは、チェルシーの墓のすぐ隣に穴を掘った。

 彼の遺体は一部、土に還っていたのもあって骨は多くない。

 小さな穴を掘り終えると、毛布に包んだ彼をそっと置いて行く。


『ここね、勇者様やみんなで綺麗にしたの。あ、でも私はゴーストだから、箒もチリトリも持てなかったけど』

『へぇ。勇者様は優しい方なんだね』


 え、俺が優しい?

 い、いやいや。俺はただ、荒れ放題の墓地だと浮遊霊地縛霊で溢れかえるから、それが怖いから掃除したのであって……出来れば成仏してくれたらいいなぁ〜とかもあってだな。


『えへ。そうでしょ♪』


 チェ、チェルシーまで……。

 う、うぅ。

 成仏を願ってただけって、言えないじゃないか。


「ふふ。見つかってよかったわね、レイジくん」

 

 そう言ってソディアが微笑む。

 あぁ、みんなに勘違いされたままになってしまう。

 でも、いいか。


 やがてサナドの骨が全て穴に置かれ、チェルシーの墓に手向けていた花を半分入れ――そして土を被せていく。


「チェルシー、よかったな。これでお前の無念は全て晴らせたぞ」

『はい。サナドを見つけたい、髪飾りを見つけたい、そして彼に謝りたいっていう願いは叶いました。それも全て勇者様のおかげです』

「これからはサナドと二人、あの世で幸せに暮らすんだぞ」

「幸せになってね」

『はい。でもそれは何十年か先ですね』

「「え?」」


 い、今、何て言ったんだ?

 彼女に問おうにも、サナドとイチャイチャモードに突入してしまったし。


『では勇者様。チェルシーのこと、よろしくお願いします』

「は? いやいやサナドさんよ、彼女と一緒に成仏するんじゃ?」

『いえ、成仏するのは僕だけです。チェルシーは他に未練が出来たようなので』


 そう微笑むサナドの霊体が薄くなっていく。


『チェルシー、もう一度受け取ってくれるかい?』

『もちろんよ、サナド。待っててね、勇者様がおじいちゃんぐらいになったら、そしたら私も成仏するから』

『あぁ、待ってるよ』


 おいおい、俺がおじいちゃんになったらって――どういうこと?


 サナドの手に握られた髪飾り――の、あれは霊体髪飾り!? それをチェルシーに手渡したサナドは、更に色を薄めていった。


『勇者様。サナドが迷わないように、浄化の光で導いてあげてください』

「え、浄化の?」

『ほれ、主が盗賊どもを成仏させたアレじゃよ』


 あ、あぁ、アレか。


「サ、サナド。め、目を閉じて、幸せだったころのことを思い浮かべて。そこに光が見えたら、その光に向かって意識を飛ばすんだ」


 強制成仏ではない、別の方法でサナドを導く。

 ひいおばあちゃんの言葉を思い出しながら。


「あなたを包む優しい光を感じて……その光がサナドを導いてくれる」

『光……温かい……あぁ……あぁ』


 天から月光が舞い降りた光が道となる。

 サナドはその道を進んで、少しずつ天へと昇って行く。

 ふいに俺たちを見下ろし、チェルシーとの最後の別れの言葉を交わした。


 その言葉を、チェルシー以外の全員が、砂を吐くような気持ちで聞かされたのは言うまでもない。






『あっ』

『どうしたっす、チェルシー』

『浮遊霊から、ゴーストに進化しましたぁ〜♪』

『おおぉぉぉっ。おめでとうっす!』

『おめでとう、チェルシーちゃん』

『みんな、ありがと〜』

『進化っていうか、戻っただけなんじゃ?』


 そんなアンデッド軍団の会話を、テントの中で聞いていた俺。

 進化とかじゃなく、むしろなんで成仏しなかったんだと。


 その後アンデッドどもはどんちゃん騒ぎを始め、五月蠅くて寝付けなくなるのだった。


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