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夜の散歩

作者: mello

誤字脱字や文章力の無さはご容赦下さい


あと、あらすじってなに書くか分からん

僕の名前は村瀬紘一 25歳

将来の夢 イラストレーター

現在の職業 スーパーのアルバイト

25歳で将来の夢だなんて吹きだし者のようだが、それは僕に才能がないから仕方ない

夢を諦める気は現在の所無い

というか諦めきれない


僕には好きな人がいる

同じスーパーでパートをしている北見花子 41歳

綺麗な黒髪を腰まで伸ばした髪をいつも一つに纏めている

爪もネイルサロンに行っているのだろうか同じパートの同年代の女性と比べても綺麗だ

化粧もスーパーで働く以上ケバい化粧は出来ないはずだ、女性の化粧に詳しい訳ではないがこれも他の同年代の女性に比べて肌が綺麗で、化粧は最低限という風に見える


結婚はしているらしい

左手薬指には結婚指輪が外された事がなさそうだ


僕は彼女の幻想的な雰囲気が好きだ


「あっ、あの…」


スーパーの休憩室、意を決して話しかける


「あら、こういちくん。何かしら?」


いつもの笑顔で聞き返してくれる


「えっと、…その………」


どもる僕、普通の女性はここで

『なにこいつ』『気持ち悪っ』『オタクかよ』

という態度を隠さない

仕様がない、なんたって僕は25年間

女性と積極的にコミュニケーションを取ってこなかった

どう接していいのか分からない


「よ…よ…良かったらその…、今度…家に遊びに来ませんか?北見さんに是非見せたい物があ…あるんですが…」


北見さんは困った顔をした

困っていながらも、嫌そうな色は微塵も見せない

僕が彼女を好きになる理由の一つだ

そして長い逡巡の後


「分かったわ。いつが良いかしら?」


ダメで元々、当たって砕けろ、やる後悔よりやらない後悔

色々なやる気にさせるフレーズを総動員し、声はかけたのだが

本当にOKが出るとは露とも思っていなかった


いや、これもまた僕の勝手な防衛本能で

勝手な未来予知をしていた

彼女は人妻だ

15歳も年下とはいえ大人の男女が、男の家に遊びに来る

それが法廷で『浮気の証拠』と提出されれば、彼女が甚大な迷惑を被ることになる

どうせ断られるのだろう、でもどうせ断られるなら彼女の様な優しい女性なら僕をあまり傷付けず断ってくれるのだろう

そんな希望を持った誘いだった


「あぅ…あの……では、三日後の夜10時でどうでしょう……か?」


「三日後の夜10時……」


彼女は天井を見上げ少し斜めに視線をやる

何かを思い出しているようだ

いや、考え事か?

断る算段か?


「ええ、大丈夫よ」


『夜の10時に大人の男女が男の家に行く』


この意味を彼女は正しく理解しているのだろうか

先程から、話が上手く行きすぎている

しかし、上手く行っているのであれば辞める必要はない


「で…で…では、一度…夜の9時半に一度、このスーパーの外で…ま…待ち合わせして僕の家に参りましょう」


一拍間を開けて答える彼女


「おばさん、デートなんて久しぶりだからドキドキしちゃう」


『デート』という言葉に思わず赤面してしまう


「じゃ…じゃ…じゃあ、し…失礼します」


僕は、彼女と同じ休憩室に二人っきりで居るのが耐えれず、思わず出て行ってしまった

制服を置いて、店の外へ、そして帰路へつく

6分後に仕事が再開だというのに


「あら?こういちくんはもう仕事は上がりだったかしら?」


北見は頬に人差し指を当て、また天井を見上げ少し斜めに視線をやる





三日後


時刻は夜の9時

場所は僕の働いているスーパーの前

約束の時間まで、あと30分あるが僕は待ちきれずに家を出て来た

気温がぐっと下がり、ダウンジャケットを着ているのに酷く寒い

しかし、今から北見さんが家に来てくれる

そう考えただけで寒さを忘れる事ができた

時計の長針が真上から20°右下へ下がったころ

彼女が来た


「あら、こういちくん。早いのね、お待たせしちゃったかしら?」


今日の彼女は、いつもパートに来る雰囲気とは違う

膝辺りまで隠れる茶のトレンチコート

青の横にジッパーが着いたブーツ

コートより少し濃い茶のショルダーバック

いつもより綺麗にしている化粧



僕の家は安いアパートの1kだ

1kではあるがキッチンがそれなりに広いので、居住空間としては十分

なので、実質2kといえる


玄関の扉を開き、北見さんを招き入れる

室内の空気は外に比べるとずいぶんと温かい

北見さんが寒がってはいけないと、家を出る際に適温に設定したエアコンが作動したままにしておいたからだ


「汚い所ですが、上がってください」


僕は、玄関で跪き『彼女用の綺麗なスリッパ』を足元に揃えて置き

彼女の手を僕の肩へ誘導し、彼女のロングブーツのジッパーを片方ずつ下ろし

彼女用のスリッパへ足を案内する

一度も彼女を家に招いた事も無いのに『彼女用』とはおかしいが

北見さんを家に誘うと決めた時から、準備を進めていたのだ

彼女用のスリッパを始め、彼女へ出すための紅茶、紅茶を入れるカップ、彼女を寒がらせてはいけないとエアコンの新調、乾燥する季節にエアコンを点けるのだから更に乾燥するのを防ぐための加湿器、机・椅子の新調等々


「あら、ありがとう」


そしてクスっと笑い


「シンデレラになった気分だわ」


その笑顔と言葉に僕は不思議な気分になった

行動としては、41歳のおばさんのブーツを25歳の冴えない青年が脱がせているだけなのだが、彼女と一緒に居るだけでなんだが自分も幻想的な雰囲気でメルヘンになった気分だった


「若い男の子の部屋にしてはずいぶんと綺麗なのね」


彼女は部屋をキョロキョロと見渡し始めた

といっても、『部屋』はキッチンだけで奥の1Rの方は襖を閉め、見えない様にしていた


僕は玄関から、肩に置かれた手を引き新調した、対面式の机と椅子へ誘導した

そして自分は彼女の横に行き


「コートを預かります」


彼女がコートを脱ごうとするのを手伝い

コートを彼女の椅子の後ろのハンガーラックからハンガーを取り、綺麗に掛ける

そして椅子を引き


「どうぞ座ってください」


「ありがとう。ふふっ」


彼女が椅子に腰かける瞬間笑われた気がした

いや、気がしただけでなく声も聞こえた

僕の振る舞いは何かおかしかったか


「お茶を淹れます。何が良いですか?」


椅子に座った彼女を見届け、キッチンへ向かいオーダーを聞く


「そうね、じゃあ…」


背中越しに質問し、彼女はそのまま答えたので表情や何をしているかは分からなかったが

一拍開けて


「お紅茶を頂ける?」


「ダージリンでもいいですか?」


「ええ」


彼女の飲み物の好物は既に聞いていた

2年半前に




彼女がスーパーの休憩室で、同じくパートをしているお友達

原瀬真由美さんと世間話をしている時だった


「私、最近緑茶にハマっててね。旦那が『玉露』を買って来てくれたから飲んでみたんだけど。これが美味しいの、北見さんは飲み物は何がお好きなの?」


「私はお紅茶が好きですね。昔、連れて行って貰ったお紅茶の美味しい店で飲んだのが美味しくて」


僕は休憩室の隅で小さくなってはいたが聞き耳を立て彼女たちの会話を一言も聞き漏らさず聞いていた

その過程で、北見さんが昔行ったという店を特定し

実際に行ってみて紅茶の銘柄を聞き、そのお店で販売されていた紅茶を購入し

お店で出される紅茶と、自分の家で作った紅茶とで何が違うかを研究し

できるだけお店で出される紅茶に近づけた物ができるようになった

紅茶にうるさい人からすれば恐らくまだまだ『別物』という判断をされるだろうが

僕の素人舌では少ししか違いが分からない程度にはなった




湯を沸かす

しかし、湯が沸騰する少し前で加熱を止める

そのまま保温

一度100℃まで加熱し、沸騰した湯は紅茶の茶葉が開くのを阻害する為

飲む際の香りに影響する

銘柄にもよるが、紅茶の最適温度は98℃と聞いた

男の部屋には似付かわしくない可愛らしい白を基調とし薔薇が散っている様を描かれた陶器製のティーポットに湯を注ぐ

その湯をカップに注ぐ

そしてその湯を一度全て捨てる

あらためてティーポットに湯を注ぐ

ティーポットの中のティーストレーナーに紅茶の茶葉をソソソ、と入れる

ティーポットに注がれた湯の量と、ティーストレーナーに入れられた茶葉の量

これを間違えると大変な味になる


そして余熱で茶葉が開くのを少し待ち、盆にティーポットとティーソーサーに載ったカップとティースプーンを二つずつ載せて机へ

彼女の座る位置から左手側に立ち、カップを彼女の前へ置く

ティーポットからカップへ紅茶を注ぐ

彼女の向かい側にも同様に


そして、机の中央に置かれたシュガーポットの蓋を開け


「砂糖はどうしますか?」


「一つください」


シュガーポットの中にある角砂糖を一つ彼女のティースプーンで掬い彼女の紅茶で入れ

かき回し、溶かす

音を立てては下品なのでカップの側面や底に当たらないよう慎重に


自分のカップも同様にする


「ミルクはどうしますか?」


「いいえ、結構です」


ようやく僕も腰を落ち着ける

しばらく無言で紅茶の香りや、口に含んだ時の僅かな甘みと渋みを堪能する

体感で1分、実際には何分経過したか分からない

北見さんがこう切り出した


「お手洗いをお借りしても良いかしら?」


余韻に浸っていた僕は反応が遅れた


「…えっ、ああ、はい。どうぞ」


僕は玄関横の扉を掌で指し示した

後、エスコートするべきか迷った


女性をトイレにエスコートは失礼か?

でもこれまで靴、コート、机、色々エスコートしたのにいきなり投げ出されたように感じるだろうか


考えていると彼女はスッと席を立ち、トイレへ入ってしまった

失敗したか…?


少し後悔しつつ目を別の所へやる

キッチンが目に入った

いつも見ている光景

しかし、ふと気が付いた


生活感がない


調味料の類、椀や箸等の食器類、調理器具、余りに少なすぎる中

紅茶の道具だけが完璧にあった

そして、ダージリンと筆記体でかかれた茶葉缶が山と積まれたゴミ箱

『お紅茶を頂ける?』

彼女のリクエストに彼女の気遣いが見えた

僕は上手く振舞えていると思っていた

僕の家に来たらたまたま昔飲んだことのある思い出の紅茶が出て来たと

しかし、彼女に見透かされたようだ

僕は猛烈に恥ずかしくなった

彼女は見透かしただけでなく、僕に恥じをかかせないためにあえてそれに乗ってくれたのだった


頭を抱えていた僕は水の流れる音聞き、即座に先程のポーズに戻った

だけでなく、彼女の席の後ろに移動した


しかし、彼女は椅子に腰かける事無く


「ところでこういち君、私に見せたい物があるって言ってたわよね?」


あ、また先手を取られた

しかし正直ここから先は何のプランも無かった

失礼の無いマナー等をネットで調べ、紅茶を飲むまでは完璧に想定し何度も練習した

でもここから先はネットには乗っていなかった

ここから先は自分の気持ち次第、という事だ


「あ…えと…じゃ、じゃあこちらに来て下さい」


僕はいつもの様にどもり口調に戻りながらも、奥の部屋の方へ彼女を誘導した

そして、襖を開ける


そこには僕の仕事部屋があった

夢はイラストレーター

それは嘘じゃない

でも絵画も好きだ

というか、起こりはそちらが先だった

僕は単純に『絵』が好きだった

絵を眺めるのも、絵になりそうな雰囲気も、絵を書くのも

しかし、今の時代

『画家』という職で食べていけるほど社会は寛容ではない

現在、『高級絵画』と呼ばれる絵は、その大半が

描かれた当時に『価値がある』と判断はされず

キャンパス代、絵の具代、労力を考えると僅かな値段で取引され

画家はその日食うパンを買うので精一杯という暮らしが多かったと聞く

画家が亡くなり、『誰か』が

『この絵は素晴らしい』と発言し、初めて価値が発生し

その価値はすぐに青天井に値上がりし、画廊が儲ける

そういうシステムになっている

有名な話に

江戸時代、海外との貿易の際

陶器類の輸出の包み紙として利用された『浮世絵』に海外の人は感銘を受け、陶器類よりもむしろ浮世絵が欲しくて取引していた

という話がある

感銘を受けた海外の画家には、かの有名な『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』も含まれる


絵描きになりたい

でも、画家では食っていけない

じゃあイラストレーターとして生活したい

しかし、現実は甘くない

イラストレーターの待遇も決して良くはない

余り有る才能と技能を持ち合わせ、そしてヒット作に恵まれるという幸運が重なり

初めてイラストレーターで生活するという待遇を得る事ができる

多くのイラストレーターは多大な労力をかけ、描いた自分の作品に『作品価値無し』の烙印を押され、苦しみ

一人、また一人と夢を諦めていく

僕もそんな一人であった


僕の仕事部屋に飾られていた一枚の絵画

美しい女性が半身気味にこちらを振り返り、ほんのわずかな微笑みを口元に浮かべ

右目から一滴の涙が頬骨辺りまで伝っている

その後ろには遠近感的に真後ろに

水が滝の様に落ちている、若しくは昇っている

その水の中には無数のイルカが昇っている様子が描かれていた


「綺麗な絵ね…」


彼女は感想をポロリ

しばらくその絵を見た後、他の絵もじっくりと見ていく

女性が公園のベンチに腰掛け、秋の黄色に色づくイチョウの葉が降る中、本を読みながら長い髪を手で耳にかけている絵

女性がオープンカフェでカップを口に運んでいる絵

女性が誰も居ない曲がりくねった山並みの歩道を歩いている絵

女性が新幹線の窓側の席で窓の外を眺めて物思いに耽る絵


シチュエーションは全て違うが、同じものがただ一つ

誰が見ても、描かれている女性は皆同じ女性だった

女性は歳の頃は30歳前後、長く綺麗な黒髪、そしていつも憂いを帯びた薄幸の美女という雰囲気だった


「この女性はこういちくんの彼女?でも少し年上の様ね…」


僕は、言うと決めていたことが喉から出なかった

彼女にこの絵を見せた時に絶対に言うと決めていた事


「えと…」


言葉に詰まり、テンポが悪い

普通の女性ならイライラしそうな会話

しかし北見さんは急かさず、ゆったりと返事を待ってくれていた


「僕の絵に…描かれている女性は、全部…貴女です」


冷静に考えてみよう

アルバイトの青年とパートのおばさん

特別仲が良い訳でもない

おばさんは結婚している

青年はチャラい雰囲気でもない

青年がおばさんを家に連れ込み

突然大量の絵を見せられ

ここに書かれた絵は全部、貴女を妄想した絵です

と言われる


普通ならストーカー案件

良くて接近禁止命令

悪ければ逮捕

そんな事案である


「そう…」


しかし彼女の反応は違った


「嬉しいわ…」


ここで少し首をひねる


「この絵が私って、少し美化し過ぎていない?」


少し照れながら笑顔で冗談を返してくれた

僕は嬉しくなって声が少し高くなった


「そんなことないです。僕の目には北見さんはこう映っています。まだ北見さんの魅力を書ききれていないくらいで…」


「ふふふっ」


北見さんがまた照れ笑いをした


「ところで、この絵だけは他の絵とは雰囲気が違うのね」


彼女は最初に見た絵を再び見た

他の絵は、起きている間に北見さんの事を考え描いたものだが

この絵だけは夢の中に出て来た北見さんだった

僕が北見さんに何事か言った後、少し間を開け北見さんが一言何かを発するのだが

僕の耳は、水の中に入った時の様に曇って聞こえたため、何を言っているのか分からなかった

北見さんの言葉だけでなく、言葉を発したはずの僕の声も

でも、目が覚めた時

なんだか今の情景は忘れてはならない気がして、すぐに制作に取り掛かった

書き上げるのには4日かかった

3日間一睡もせず、4日目の朝に仕上がった

3日目と4日目はアルバイトだったが、それとは気付かずサボってしまった


そんな絵に気付いてくれた


「その絵の風景、見たくありませんか?」


僕は、嬉しくてつい簡単に言ってしまった

言ってしまってから気付いた

もっと説明してから言おうと思っていたのに


「見たいわ」


彼女はこちらを振り返りもせず、只々絵を眺めてこう言った




タクシーが停まったのは閉館時間が過ぎた隣県の水族館だった



「こういちくん、もう閉園時間は過ぎているわよ?」


僕は先に降り、北見さんの側のドアの外に立った

料金は既に払っている


「ここの従業員が友達で、今日ある女性を連れて行くと言づけていますので大丈夫です」


ドアが開くと片手を前に


「ありがとう」


北見さんも慣れてきたのか、すかさず出した手を握り返してくれた

水族館の入り口に20歳頃の若い男の子が座って煙草を吸っていた


「おい佐藤。またタバコなんて吸っているのか。もう辞めろって何回も…」


遠方の友達との再会に、内輪のノリで話しかけてしまった

はたと気付いた僕は紹介した


「僕の地元の後輩です。」


「どうも初めまして、村瀬先輩の2つ後輩の佐藤と言います。今日は館長にお願いして閉園後にお客さんを入れるのを許可してもらいましたので気兼ねなくお楽しみください」


佐藤は急いで煙草を吸い殻入れに押し付けて自己紹介した


「初めまして佐藤君」


北見さんは会釈を一つ

僕は北見さんの手を引き、中へ


入り口付近は

大きな部屋に縦に貫いた丸いガラスがいくつも埋まっていた

その中には地面から天井まで水が入っていて水槽になっていた

水槽の中には色んな種類のクラゲが居た

一つの水槽に1種類ではあるが、その水槽が一杯あるので一体何種類のクラゲがいるのか


そこには優雅に泳ぐ…というか漂うクラゲが居た

半透明なもの

触手の先端が色づいているもの、色々だ


そこはそこそこに過ぎ去り

次なるエリアへ

次の部屋はペンギンを飼育している部屋らしかった

コートを着ても寒いであろう程度の室温であった

ペンギン達も立ったまま眠っているようだった


次のエリアはイルカとジュゴンが一つ目の部屋と同じく

部屋を縦に貫く複数の丸いガラスが埋まっていた

一つ目の部屋との違いは、天井と地面で水槽が区切られているわけではなく

部屋の中央辺りで区切られていて、イルカとジュゴンが一緒にならないようにしているようだ

天井からイルカが現れ、地面に消える

そんな演出がなされた部屋であった


「綺麗…」


北見さんは僕の部屋にあった光景を見て思わず口にした



さぁ、ここが問題だ

どう切り出すか…


「あ…あ…あ…あの!」


何度もどもる内にいつの間にか声が大きくなってしまった


「す…好きです!付き合って下さい‼‼‼」


腰を90°近く折り曲げ、佐藤にあらかじめこの部屋に用意しておくよう言っておいた

薔薇の花束を差し出しながら

人生初めての愛の告白をした


しばしの沈黙


小さく鼻をすする音

北見さんか?


「はい。よろしくお願いします」


いつもの優しい声

それに輪を掛けて天使のような声で返事をしてくれた


僕は思わず北見さんの顔を見た

そこに見えた風景は、僕の描いた絵

『そのものの風景』であった




花束を持つ北見さん

こんなに上手い事行くなんて夢のようだ

いや夢ですら思わなかった

ちょうど北見さんが返事をしてくれた瞬間に部屋のガラスの中をイルカが一斉に昇っていたのだ

佐藤の奴、にくいことしてくれる


「あの…あんな事言った後で、何なんですが…」


少し気まずげにおずおずと尋ねる


「北見さん…その…旦那さん、いらっしゃるんですよね…?」


彼女の持つ薔薇の花束から見える

左手薬指に視線をやりながら質問する


「ああ、これね?」


北見さんは右手で左手の薬指に触れた


「夫は8年前に亡くなったの。その2年前にガンを発症してね、闘病の結果亡くなったの」


自らに言い聞かせるように『亡くなった』と二度言った


「あちらのご両親も、『まだ若いんだから息子の事は忘れて別の人と幸せになってね』って言ってくれたのだけれど、私の方がなんだか吹っ切れなくてね…」


「そ…うだったん…ですか…」


思ったよりも重い話だった

北見さんにOKを貰った以上、この先は旦那さんとの話し合いになるのかななんて呑気に考えていた自分が恨めしい

思えば彼女のその独特の憂いを帯びた雰囲気はこういう身の上だから出ていたのかもしれない


「こういち君には失礼だけど……今日のこういち君を見て居たら昔の夫を思い出して懐かしくなってね…」


恐らく北見さんの旦那さんも北見さんにベタ惚れだったのだろう

あんな臭い演出をして昔の旦那を思い出すという事は、いくつか符号が合ったのだろうから


「でもこれからは、新しい人生の始まりですよ。僕が、昔の旦那さんの及ばなかった所を補います」


僕は彼女の目をはっきり見ながら言った

今まで北見さんの瞳をこれほどはっきりと見た事はなかった

しかし、この真剣な雰囲気の中見つめ合っていた二人であったが

北見さんが例のごとく、照れ笑いを浮かべた




「ふふふっ、よろしくお願いします」









エピローグ




あれから数週間

彼女との交際を始めるに当たって引っ越しを行った

始めは、彼女の家に二人で住むという話になりかけたが、彼女が『悪い』と言い出した


「この家は、昔の旦那と住んでいた家だから、こういち君、今は気にならないかもしれないけど、この先気持ち悪くなるかもしれないし、私も心機一転して、新しい部屋を探そう」


と言い出したのだ

実際僕は気にしては居なかったのだが、二人の職場のスーパーからは

前の僕の部屋からよりも遠くなってしまう事もあり、最終的には新しい部屋へ引っ越す事に同意した


そして、引っ越しを行ってからというものの

若しくは、彼女と付き合ってからというものの

僕はあらゆる幸運を引き寄せた


二人にとって感慨深い『絵』である

イルカと彼女の絵に手を加えることにした

というのも、僕があの時本当に視界に入った風景には手元に薔薇の花束が映っていたからだ

そして、数日で『直し』を行って、コンクールに応募した結果が引っ越しを行った次の日に知らされた


僕が応募したコンクールは正式名称がイラストレーター発掘アニメコンクール

というものであった

最優秀作品として選ばれた作品には、次期アニメにて作画担当として関われるという『景品』が付いていた

その結果

最優秀作品に選ばれ

僕は、念願だった『絵で食べていける』という生活になれた

これもなにもかも

彼女、北見花子さんと出会えたおかげであった








この内容は昨日、作者の夢で見たストーリーを思い出し・設定を肉付けし

一日で書きました

読んで頂いた後になんの余韻もないようなありふれたストーリーかもしれませんが

なんとなく投稿したくなったので投稿させて頂きます

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