ダグラスの願い 3
「今、地上を安全に歩き回れるのは、君たちホムンクルスと、この宝石を身に宿した者だけなのは知ってるかな。」
そういって、ダグラスは手の甲の宝石を見せてくる。
「うん、きいたよー。」
「そうか、それでな。今、世界がこんなになる前の世界を取り戻そうと、シロガネを筆頭に沢山のホムンクルスたちが頑張っているんだ。これは、そのうちの一人から聞いた話なんだが、この世界に満ちる暴走魔力は、均一の濃度じゃないらしいんだよ。場所によって非常に濃い地域があるらしい。俺たちはそこをスポットって呼んでいるんだが。」
そこで席を外していたアサギが戻ってくる。手には人数分の白湯が。ダグラスは軽く手をあげ感謝の意をアサギに伝えると、白湯を口に含む。
再び話し始めるダグラス。
「それでだ、とあるスポットで、レインホールド隊長を見たって噂があるんだ。」
「それで、なんで僕なの? 羅針盤の乙女って何?」
僕は一番不思議に思っていたことを聞いてみる。
「うん、それはだな、夢で見たんだよ。あれはちょうどそのスポットでレインホールド隊長を見たと言う噂を聞いた頃だった。毎晩、毎晩、君が羅針盤を手にしている姿を。その夢の中で、君は羅針盤を使って、暴走魔力に侵された巨大な動物から暴走魔力を抜き取っていたんだ。」
こちらをじっと見つめてくるダグラス。
「この夢は、いつも俺が必要とするものを見せてくる。そして、レインホールド隊長が行方不明になったのは、この宝石が作られるよりもだいぶ前のことだったんだ。彼女が暴走魔力の影響下にある可能性は高いと思う。だから、リリス、お願いだ。俺と一緒に来てほしい。」
僕はダグラスの話に衝撃を受けていた。
(暴走魔力に侵された巨大な動物ってソルトのことだよね。絶対そうだ。そうに違いない。え、僕が助けられるの。シュガーに弟を取り戻してあげられるの?)
僕は胸のペンダントをぎゅっと握りしめる。そしてダグラスに向かって宣言する。
「いくよ! やっぱり僕、ついていく!」
「リリス! 何言っているの!」
アサギの悲鳴のような声。
「言ったでしょ! 弟は、お仕事はどうするの!」
「ごめんねアサギ。でも、僕が行かなくちゃ行けないんだ。それに僕、行きたい。ソルトのことも助けたいし。レインホールドって人も助けてあげたい。」
僕は、決意を示すため、意思を込めて高らかに歌い始めた。これはパパの創造物であるホムンクルス同士でしか伝わらないから、ダグラスはポカンとして、こちらを見ている。
重低音から一気に高音域へ歌い上げる。
歌い終わると、アサギはしぶしぶだが、僕が行くことを承認してくれた。