アサギが男を拾ってきた
シロガネに助けられ、自分の部屋に戻った後、僕は熱を出して寝込んでしまった。
初めての外、初めての命がけの戦いに僕の体は思った以上に疲れちゃったみたい。
僕が寝込んでいる間に、シロガネは次の仕事に行ってしまったらしい。
ようやく熱が下がり始め、しこたまアサギに怒られた後に、シロガネが行ってしまったと聞いた。
あれ以上怒られなかった安堵半分。久しぶりのシロガネとのお話があれだけなのが、残念半分。
僕はベットに横たわり、胸元のペンダントを弄りながら、忙しげに働くアサギを見ている。
アサギは僕のお世話と、僕の代わりに僕たちの弟のお世話と、外でのお仕事と、本当に忙しそう。
(ごめんね、アサギ)
僕が首から下げているペンダントにはシロガネが歌いかけて、僕が身につけている限りは自動で魔纏状態になるようにしてくれたみたい。
多分一生の付き合いになると思うけどよろしくね。弟くん。
そうだ、弟くんにも名前、つけてあげよう。
シュガーの弟だから、ソルトにしよう。
「君は今からソルトだよ。前の世界には真っ赤なお塩もあったってシロガネが言っていたから。」
僕はペンダントを撫でながら語りかける。何故かその瞬間、いつもより、多目に魔力が引き出される。
『ピコン』
前に聞いた電子音が聞こえた。
『リリスにより、契約が宣言されました。変異体(仮名称ソルト)は封印状態のため契約は保留されます。$&#%?=%***<』
「何だろう。これ、訳のわからないこと言うよね。アサギに聞いたら前の世界の残像だから気にするなって言われたけど。世界が崩壊してすっかりバグったって。」
僕は気にすることをやめ、また寝ることにした。
数日たち、もうそろそろ起きても大丈夫かなって日に、アサギが男を拾ってきた。
大事な事なので、もう一度。
アサギが男を拾ってきた。
僕、アサギはそんな性格じゃないとずっと思ってたから、意外と衝撃だよ、と伝えたら軽く頭を叩かれました。
何でも昔の知り合いらしい。名前はダグラスって言うらしい。
外の近くで倒れていたから拾ってきたらしい。
(自分でも拾ってきたって言ってるのに、アサギ)
ダグラスはぐったりしていて、気を失っている。
僕は快くベッドを貸してあげることにする。
手早くシーツを取り替え、整えると、二人でダグラスを持ち上げて寝かす。
髪が伸びているけど、隙間から見えた顔はなかなか渋い感じのおじさんだね。
(アサギってこういうのが趣味だったのか。いいんだよ。ホムンクルスだって生きているんだから、恋の1つや2つ。)
そんなことを考えていたら、またアサギに、はたかれた。
たまにアサギは思考を読んでくる。これだから精神スキル持ちはやだな。
僕は、はたかれた頭を撫でながらアサギに質問する。
「ダグラスは、なんで外にいて無事なの?ホムンクルスじゃないよね。」
アサギは無言でダグラスの左手の甲を指差す。
そこには真っ赤な宝石が埋まっていた。
「これ?」
僕は触れないように気を付けながらそっと観察する。
「それは本人の血と特製のポーションの混合物だ。シロ姉さんのお手製さ。」
「これがあるから大丈夫なの?」
「完全じゃないけどね。暴走魔力の侵食をある程度浄化できる、らしい。カルド様なら完璧なものを作ったはずなのにってシロ姉さん、いつも溢していたな。」
遠い目をしながらアサギが呟く。
急にダグラスが跳ね起きる。
「ここは?」
ダグラスは辺りを見回す。
その視線が急に私に固定される。
アサギがダグラスの肩をおさえる。
「ダグラス、アサギだ。落ち着け。倒れていたから運んだんだ。」
ダグラスは一度視線を外しアサギを見る。
「ああ、倒れてしまったのか。すまない。助かったよ。」
しかしその視線はすぐに僕の方を向き、口を開く。
その口からは僕には内容が理解出来ない言葉が紡がれた。
「貴女が羅針盤の乙女ですね。お願いします。俺はレインホールド隊長を探しているんです。どうか助けて下さい。」