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はじめての世界

 僕は初めての道を全速力で走る。


 所々薄暗くて、気づけない窪みや出っぱりに足を取られる。でも、もつれさせながらも足を動かすことは止めない。

 シュガーはなかなか見えてこない。


 左右の壁の感じがだんだん変わってきた。


 僕がいつも見慣れている壁は、しっとり湿っていて、丸みを帯びているのだけれど、ここら辺の壁は何だか乾いてきていて、所々刺々しい。


 乾いていて走りやすいけど、いつもの床じゃ無いみたいで、なんか変な感じ。


 少し、狭くなってきた。


 僕はまだまだ立って走れるぐらいだけど、だんだん天井が近づいてくる。


 これ以上狭くなったら走れないかもってギリギリのところを走り続ける。


 不規則に高低差のあるような狭い場所も、ぴょんぴょん跳ねて急ぐ。



 不意に、明るくなる。


 青臭い匂いのする風が吹き抜ける。


 目が、痛い。


 こんなに明るいのは初めて。


 一生懸命目をすがめ、少しでも早く馴れるようにと、片目づつトライする。


 ようやく、少しまわりの景色が見えてくる。



 僕が初めて見た世界は、真っ白だった。



 空気が、白い。

 ふわふわとした白く光る小さな粒が、そこかしこに浮いている。


 人差し指を、そっと小さな粒に伸ばしてみる。

 指の爪の先に粒が触れた瞬間、パチン、と粒が弾ける。


 微かに指先に魔力がまとわりつく感覚がする。

 しかし、すぐにするりと、魔力は肌のうえを流れ落ち、そのまま空気へと溶け込んで行く。


「この光る粒が暴走魔力、なのかな?」


 僕は自分の人差し指と親指を擦り合わせながら、今の不思議な感触を反芻する。


「あっ、シュガーを探さなきゃ!」


 僕は慌てて辺りを見回す。


 空気が光って遠くが見えにくい。

 意識を集中する。


 微かにシュガーの声が聞こえる。


「あっちかも!」


 僕は駆け出す。

 茂みを回ったところに、シュガーが倒れている。


「シュガー!大丈夫?大丈夫?ねぇ、どうしたの」


 僕は膝をつき、おろおろとシュガーに両手を伸ばす。


 掬い上げ、覗きこむ。


「ぢゅぅぅ」


「痛いの?怪我したの?」


 そっと全身を見てみる。

 怪我はなさそう。


「あれ、光の粒が集まってきてる?」


 良く見ていると周囲の光の粒が少しずつ、まるでシュガーに引き寄せられるように、一つ、また一つふわふわとよってきている。


 光の粒がシュガーに当たると、やっぱりパチンと弾ける。

 でも、それがシュガーにはとっても痛そう。

 光の粒が当たる度に、僕の手のなかで、シュガーがびくんと震える。


 僕は思わずぎゅっと抱きしめ、シュガーに光の粒が当たらないようにする。

 でも、光の粒は、隙間から入り込んでくる。

 シュガーを苦しめ続ける。


「どうしたらいいの、どうしよう。」


 僕は泣きそうになる。

 後から思えば、咄嗟だったとしか言えないけど、僕は半分無意識に自分の魔力でシュガーのことを覆ってみた。

 僕の魔力に包まれるシュガー。

 光の粒は僕の魔力に触れて弾けると、そのまま僕の魔力の外側を流れ落ちて行く。


 シュガーは楽になったのか、落ち着いた表情を浮かべてこちらを見る。


「ちゅー」


 そう一言鳴き、疲れたのかシュガーは眠ってしまう。


 僕にはそれが、ありがとうって言っているのが、何故かはっきりとわかった。


『ピコン』


 なんか音がしたっ。


『ラット:変異体 と使い魔契約が結ばれました。ラット:変異体は命名済みのため、命名シーケンスが省略されます。』


 聞きなれない声が、聞こえる。

 僕は体を強張られ問い返す。


「誰かいるの?」


 僕はシュガーを守るようにしながら、周囲を見回す。

 必死に索敵するが、敵の姿は見当たらない。


「何だっ、今の。」


 警戒したまま、しばらく待つけど、何も起きない。


 そのまま待っていたがあまりに何も起きないので、さっきの謎の声のことはひとまず忘れることにする。

 警戒を解こうとしたところで、何か引っかかりを感じた。


「あれれ?」


 警戒していたせいか、何かまわりから、違和感を感じる。


「何だろう、気配は何もないんだけど。」


 ゆっくりとまわりを見回す。


「わかんない。うーん。あっ」


 周囲の光の粒が、減っている?


 よくよく見てみると、光の粒がすべて同じ方向に動いている。

 そのせいか、ここら辺の光の粒が減って、僕は違和感を感じたらしい。


「何だか、嫌な予感がするよ。」


 僕はどうしようか悩む。


 でも、考えるまでもないよね。


 ここはアサギや弟が危ない目に会わないように、確認だけでもしなくちゃ。お姉ちゃんなんだから。


 僕はシュガーを服の胸元に入れて保護すると、ゆっくりと光の粒が向かう方へと、歩き出した。










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