わかれ道
湖のわきにコロニーを作っているネズミさん達。
僕が近づいていくと、巣穴から顔を出してこちらを見ている。
僕は巣穴に近づきすぎないように気をつけて、こっそり持ってきたパングズを手前の地面に撒く。
待ち構えていたかのように、ネズミさん達が、続々と出てくる出てくる。
あっと言う間に撒いたパンクズに群がると、手にとって食べ始める。
僕はしゃがみこんでボーッとその様子を眺める。
色んな色や体型のネズミさんがこのコロニーには住んでいる。
前にシロガネが教えてくれたことを思い出す。
僕がネズミさん達にご飯をあげるとき、シロガネが一度だけ一緒に来てくれたことがあった。
あの時に、こんなに沢山の種類のネズミ達が共存しているのは、暴走魔力の影響だろうってシロガネは、言ってた。
何でも暴走魔力に触れて、チセイノコウジョウとシャカイセイノカクトクが起きたんじゃないかって、言ってた。
世界がこんなんになっちゃう前は、ネズミさんは同じ種類でしか生息してなかったんだって。
僕は、ネズミさん達がこんなに沢山、仲良く暮らせるようになったんなら、暴走魔力って実はすごいって、その時思ったんだ。
でも、そんなこと言ったらシロガネは哀しむし、アサギはシロガネを哀しませたことを怒ると思ったから、もちろん言葉にはしてないよ?
あっ、シュガーだ。
この子はシュガーだよ。
一番の仲良しさんの女の子なの。
シュガーはとっても器用なの。
前肢の指が六本あって、他のどのネズミさんより器用なの。
僕の歌が好きみたいで、いつも歌ってって言う目でこちらを見てくるの。
そしたら僕はいつも歌ってあげるの。一緒に歌うんだ。
「シュガーもパングズ食べなよー。」
どうしたんだろ。何だか悲しそう。
パングズも食べないの?お腹がいたいのかな?
僕、まだテイムスキルのレベルが低いから、シュガーの言いたいこと、あんまり細かいことまではわからない。
でも、大事なお友達だから、一生懸命お話ししてみなきゃ。
シュガーが必死に話しかけてくる。
「ちゅーちゅー。」
「ふむふむ。何かがない?」
「ちゅーっ!」
「食べ物?」
「ちゅちゅぅ」
「違うのかな。お友達?」
「ちゅぅぅ。」
「うーんとっ、おとうと?」
「ちゅーっ!」
「おとうと、ない? あっ、おとうとがいないの?」
「ちゅーっ!ちゅーっ!」
「えっー。大変おとうとが居なくなっちゃったの?」
僕はもし、自分の世話している弟が居なくなっちゃったらって考えたら、居ても居られない気持ちになってしまった。
きっとシュガーも、今、すごい心配なんだよね?
だって、シュガーも僕と同じお姉ちゃんなんだもの。心配で心配で、そりゃパングズも食べられないよね。
「おとうと、どっちに行ったとか、わかる?」
「ちゅー!」
シュガーは一鳴きすると走り出す。
僕も慌ててシュガーのあとを追いかけ始める。
シュガーは速い。洞窟のでこぼこした道も、軽やかにかけ、その小さい体を生かして狭い隙間をショートカットして走り続ける。
僕も駆け足スキル全開で、一生懸命追いかける。
僕も負けないぐらいに身軽なんだから。
ひょいひょいと障害物を飛び越す。
時たま鉈がカチャカチャぶつかり、落下の時に帽子が飛ばないよう、片手でおさえる。
さっききた道を戻り続ける。
(あれ、うちの方なのかな。)
うちから湖へ向かう、最初の分かれ道までくる。
シュガーはそのまま、まっすぐに進んでいく。
(あっ、そっちはダメっ!)
「シュガー、まって!」
シュガーは立ち止まると、悲しそうにこっちをみてくる。
「ちゅぅ。」
「そっちはお外だから。いっちゃダメなの。」
「ちゅぅちゅぅ」
シュガーは悲しげになくと、そのまま前を向いて再び走り始める。
僕は手を伸ばし、そのまま伸ばした右手をゆっくりと下ろす。
「だって、シロガネもアサギもダメだって。」
もう、シュガーの姿は見えない。
僕はおろした手をぎゅっと反対の手で握りしめる。
「だって、だって、だって。」
僕は分かれ道を振りかえる。向こうにある、うちを想像する。
家にいるアサギのことを考える。
これから生まれてくる弟のことも考える。
(僕はお姉ちゃんになる。でも、シュガーだって・・・)
「ごめんなさい、アサギ」
僕は俯いていた顔をあげると、シュガーを追いかけて走り出した。