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にごあい!~ただの高校生の俺だけど、2.5次元舞台愛好部を立ち上げました!~  作者: 千早 朔
第十章 終幕

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終幕②

***


 テレビを顰めっ面で睨む男が一人。不機嫌そうに缶ビールをグイッと煽ると、「もう一本だ!」と勢い良く立ち上がった。


「えー? 藍堂サン明日も練習じゃないんデスかー?」

「っせえ! もう一本くれえ平気だ! 黄琥! チーズのやつの残りは!?」

「おかきの事デスか? 冷蔵庫の横にあるじゃないデスか」


 撮影してきた例の舞台を見終えた途端、機嫌を損ねた藍堂に、黄琥は座る透貝に四つん這いで近づいてコソッと尋ねる。


「なんなんデスか、何で怒ってんデスかあの人」

「想像以上の出来で拗ねてるんじゃないかな? 文化祭の出し物だからって、期待してなかったみたいだったし?」

「あー、そーゆー」


 納得した様子の黄琥を弾き飛ばすかのように、透貝との間に缶ビールとおかきの袋を持った藍堂が「フンッ!」と乱雑に腰を下ろした。

 プシュッとプルを開けると、豪快な一口にゴクリと喉が鳴る。


「俺も早くビール飲みたいっ!」


 悔しげな声を上げた黄琥に、襟足の長い薄紫の髪を揺らした青年がクスリと笑む。桃里だ。


「もう少し我慢するんだな、未成年」

「へっ、お子ちゃまは大人しくジュースを飲んでりゃいいんだよ!」

「むう! 深酒して明日怒られてもしらねーデスからね!」

「おりゃそんなヘマしねーの。大人だからな」


 挑発するように藍堂がビール缶を振る。と、横から伸びてきた手にひょいとその缶を奪われて、「オイ!」と振り返った。

 奪った犯人は透貝だ。


「大人なら加減ってモンを忘れるワケないよね? ちょっと飲み過ぎじゃん?」


 言いながら奪ったビールを「はい」と桃里に受け渡す。

 予想していたのか、桃里は呆れたように微笑みながらも当然のように受け取り、


「翠さんはどう見ます?」

「俺? 期待以上だよ。いいね。賛否はあるだろうけど、俺的には俺達とは『違う』モノにしたのは、正解だったと思うよ?」


 ビールを取られ不満げに膝に肘をついた藍堂が、代わりにと黄琥から炭酸飲料を奪った。


「向こうは随分と純粋な翔だったな。ピュア度百パーセントって感じの。オメーには無理なやつ」

「ちょっ! そーゆー朱斗だって、ちょう紳士な朱斗じゃねーデスか! 藍堂サンみたいな腹黒さはないヤツ!」

「このっ、あいっかわらず生意気だなっ!」

「相手は選んでマスよ!」


 揉み合いになる二人にすっかり慣れている透貝と桃里は、特に構う事無く話しを続ける。


「技術は当然、可愛いレベルだけどね? でも俺にも、この碧寿は出来ないな」

「翠さんの碧寿は、歴史や時代を感じさせる『鬼』でしたからね。対してこの子の碧寿は、精霊のような神聖さに近い碧寿だ。まあ、僕にもこの沙羅のような『小悪魔』感はありませんが」

「次の課題にいいんじゃない? 小悪魔感。廉の沙羅は、ザ・傾国って感じの色気だったからねえ」

「検討しておきますよ」

「え、ヤダっすよ! オレ廉さんの沙羅、どストライクなんすから! なんかこー、百戦錬磨の色気ムンムンで!」

「俺もデス! 廉サンの沙羅になら騙されたいデス! 貢げマス!」

「そうか、ありがとう。いつかの為に覚えておくよ」


 クスクスと笑んだ桃里はビールを一口流し込む。見遣った液晶画面には、カーテンコールで涙を流す翔役の青年。

 その初々しさに、双眸を細める。


「……彼らは、来ますかね」

「……どうだろうねえ。少なくともまだ、『あそこ』で満足してるようだから、ね」


 言う透貝の目は、期待に満ちている。だが敢えて口に出さずに、桃里はもう一口を含んだ。

 あ! と声を上げたのは、黄琥だった。操作していたスマフォの画面を向け、


「なんか明日、再演決まったみたいデスよ……っ!」

「おい、マジか」

「まじデスまじデス! 学校のホームページとアカウントで報せが……ホラ!」

「げえっ! マジじゃねーかナニモンだよこいつら」

「えっと、なんか姫だとか騎士だとか?」

「ハア? どーゆーこっちゃ。オイなんか検索できねーのかよ」

「藍堂サンほんっと人遣い荒いデスよね。やりマスけど。えーっと……」


 検索に必死な黄琥と藍堂を保護者のような目で見ていた透貝は、再びテレビ画面へと視線を戻す。


「どちらにせよ、次の公演が楽しみだね?」


 その愉しげな横顔に、桃里は呆れ半分、期待半分で嘆息した。


***


 心臓がバクバクする。膝と手が震える。

 確かな緊張は逃げ出したいくらいに内側を蝕むのに、それよりも『早く』と求める欲が急く。

 板の上の信頼。スポットライトの照らす世界。そのどれもに『皆』がいて、息づく『何か』がいる。

 ぼんやりとした『予感』の中で、ただひとつだけハッキリとしているのは、今、この一瞬は、今しかないという事だった。


「……皆、準備はいい?」


 不敵に微笑む向日葵を映して、このめは眩しさに瞳を緩めながら、


「いくよ! ――にごあいっ!」

『かい・まくっ!!』



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