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にごあい!~ただの高校生の俺だけど、2.5次元舞台愛好部を立ち上げました!~  作者: 千早 朔
第九章 舞台「あやばみ」開幕!

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舞台「あやばみ」開幕②

 暗い舞台に程なくして光が戻る。先程まで朱斗が仁王立ちしていた箇所には、変わって別の姿。腰を落としてのんびりとどこかを望む青髪の男は、長い髪を一つに纏め首横から垂らしている。青地に黒文様の着物に独特の威圧感。だが、手にした黒の煙管がくるりと回ると、変わってひょうきんな気配が漂う。

 キャラクターとしても人気の高い碧寿の登場に、ひっそりと沸き立つ気配。だが碧寿は一切の動揺もなく、ただ、風雅に遠くを眺める。


 鳥の囀りに、水の流れる音。山奥の気配に包まれる中、また違う男が盆に湯呑みをふたつ乗せ現れた。緑の短髪に馴染む深緑の着物は裾をたくし上げ、ピッタリとした黒布がそれぞれの足を覆っている。長身と大きく開かれた襟に、碧寿とは異なる奔放さが漂う。

 気づいた碧寿が、口だけを動かした。


「つまらん。実につまらん。そうは思わないか? 獏よ」


 湯呑みを側に置きながら、獏が小首を傾げる。


「それはただ怠惰に過ごす現状を言ってんのか? それとも、ご執心の『烏天狗』に動きがないことを言ってんのか?」


 数年前に創られた式神の獏にとって、『烏天狗』とは翔の事である。彼は半妖なのも、未だに『覚醒』が出来ず、その能力を自己の意思無く切れ切れにしか発動出来ないのも、一応、碧寿から聞いている。

 が、物事を大枠でしか捉えない獏にとって、彼が『烏天狗』だと言われているのならば、『烏天狗』なのだ。

 当然、その方程式を知る碧寿は、特に問い正す事もせずに溜息をつく。


「あの者に変化があれば、この怠惰な現状は存在しない。二つは密に繋がっているのだ。故に――、うん?」

「どうした?」


 神経を研ぎ澄ませた碧寿が、薄く口角を上げる。


「喜べ獏。どうやらあの者達が、動こうとしている」

「どうしてわかる?」

「山神と鬼には、互いに切っても切れない縁がある。他方が在る為には、他方が在らねばならないのだ」


 断言する碧寿に、獏はわらからないと眉根を寄せ、


「それは共に人を支配する為か?」


 その言葉に、碧寿は青い瞳に憂いを浮かべた。


「……そうだったなら、こんなにも手を焼かずにすんだのだがな」


 呟くような声に、獏は益々首を傾げた。煙管がくるりと回る。おそらく自分の創造主は、過去へと思考を飛ばしているのだろう。

 程なくして、「だがまあ」と振り切るような笑みが向いた。


「それは昔の話しだ。既にバランスの崩れた現世では、他方が他方を喰っても、さして問題あるまい」

「喰うのか?」


 保護的な微笑みが、剣呑な気配を帯びる。


「……それは『彼』次第だ」


 暗転。

 木々の枝葉が笑う奥で、鳶が高くピーヒョロロと鳴く。後方には幹と緑の映像が映し出され、場面がまた別の山中へと変わった。

 舞台袖から歩いてきたのは、不満げに唇を尖らせた青年だ。これまでの出演者とは違い黒髪黒目と地味で、服装も書生のような出で立ちをしている。


「ったく朱斗のヤツ、なんでまたこんなトコに……」


 平々凡々なその中で唯一異質なのは、手にした錫杖だ。山伏でもない彼が持つには、どうにも浮いている。

 きょろりと辺りを見回した青年は、「呼び出しといて遅刻かよ」と腕を組んで座り込んだ。怒りの様相だが、再び鳶が鳴くと物憂げに眉根を開く。


「……なーんか今日は朝から変だったよなー。沙羅のヤツも、妙に大人しいし」


 ボンヤリとした不安が胸中に渦巻く。だがその思考は、淡いライトを背負って現れた待ち人の姿に途切れた。


「翔」


 朱斗だ。翔は立ち上がりもせずに、「遅刻だぞ」と窘めた。


「いーけどさ、別に。ってか話しって、家じゃダメなのかよ? ああ、沙羅に聞かれたくない内容なのか?」


 翔の家には、すっかり沙羅が居着いている。

 朱斗は否定も肯定もせずにじっと翔を見据え、安堵したように「ちゃんとそれ、持ってきたな」と呟いた。


「それ? ああ、錫杖のこと? お前が持って来いって言ったんだろ」

「ああ、言った。だから確認したんだ」


 その、瞬間だった。

 流れる曲が音量を上げ、穏やかな空気を緊迫させる。

 一気に詰められた間合い。シャッと刀が鞘から抜かれ、光る切っ先が翔目掛けて振り下ろされた。


「な!?」


 カキーン! と高い衝突音。

 翔は手にした錫杖で、刃を凌いでいた。突如の事態に混乱したまま、朱斗を凝視する。だがその表情は変わらない。


「あのなあ! 冗談にしては趣味が悪いぞ!」


 切っ先を振るいながら身を引き非難するも、朱斗は悪びれる様子もなく「いいか、翔」と諭すように言う。

 なんだろう。なんだか、良くない感じがする。

 背に嫌な汗が流れる。朱斗の放つ鋭い殺気が、自分に向いている。翔はやはり事態を飲み込めないままも、反射的に身構えた。


「先代の『烏天狗』亡き後、本来ならば、息子のお前がその役目を引き継ぐ筈だった。だがお前は今になっても、まだ覚醒出来ずにいる。実に好機と、お前を狙う妖かしも増える一方だ。そして同時に、村人からのお前に対する不審も強い」

「……知ってるさ。わざわざ言われなくとも、オレが一番良くわかってる。馬鹿にしてんのか」

「お前はこの現状の危うさをわかっていない」

「なんだと?」

「オレは社に住まう白蛇の血を引いている。信仰と引き換えに、この山と村の平穏の為、手を貸すのが決まりだ。故に」


 チャキッと響く金属音。朱斗が意図を持ち、刀を構える。


「お前はオレの手で斬る!」


 早まる音楽が焦燥を煽り、翔へと駆け向かった朱斗が刀を振るい斬りつける。


「っ! んだよ! わけわかんないって!」


 受け止めても受け止めても、朱斗の刀は威力を保ったまま何度でも狙ってくる。遊びではない。稽古でもない。本気の目だ。

 幼少期より『白蛇』の力をコントロールする朱斗に、いまだ『未覚醒』の翔が敵うはずもない。

 それは朱斗だって、承知の上だ。承知して尚、翔を『狩ろう』としているのだ。


 信じられない。信じたくない。信じていたい。

 朱斗は翔の、かけがえのない友人だ。半妖だと馬鹿にされた幼少期から、体のいい『人柱』となった今に至るまで、どんな時でも朱斗だけは、寄り添い支えてくれた。なのに。

 容赦ない絶望が、翔の腕を斬りつける。


「つっ……! おま、本気なのか!? 本気で俺を、殺そうとしてんのか!」

「黙れ。オレはもう、お前のお守りなどゴメンだ」


 ガキン! と響く衝突音。翔はまだ、仕込み錫杖の切っ先を抜けずにいる。まだ、ほんの僅か、悪い冗談であってほしいと縋る心が勝るからだ。

 だが向かい合う朱斗は押し合う腕に更に力を込め、そんな翔の希望も見透かしているかのように、冷たく嘲笑し、


「山神の血筋? 笑わせる。覚醒も出来ないままの、只の脆弱な人間じゃないか」

「な!」

「いっそ喰ってやる。そうすれば、オレの血肉として守り神の一部となれる。先の烏天狗も、愚息がこのまま未熟な半妖として恥を晒し続けるより、ほんの僅かでも糧になれたのならと喜ばれるだろう」

「どうして……そんな……っ!」


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