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にごあい!~ただの高校生の俺だけど、2.5次元舞台愛好部を立ち上げました!~  作者: 千早 朔
第七章 結束の合宿!

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結束の合宿!⑤

 慌ただしい昼食を済ませ、洗い物を完了させた後、再び部員を大部屋に集めたこのめは「早速なんだけど」と切り出した。


「これから各自着替えてもらって、暫くはそれぞれの『キャラ』として過ごしてもらおうと思います」

「は?」


 面食らった顔で呟いた紅咲の横で、睦子が不安げに手を挙げた。


「あの、でも衣装は学校では……」


 答えたのは雛嘉だ。


「心配ないワ。午前中のウチにシゲちゃん先生に協力してもらって、成映と三人で運んできたの」

「車を出してくれてね。本当は合宿も一緒に参加したかったみたいだけど、今回は『生徒の自主性を重んじる!』って。あ、食料とかお菓子とか、シゲちゃん先生の差し入れが殆どだから、明日皆でお礼言おうね」


 武舘には申し訳ないが、明日の荷物運搬もお願いしているのだ。

 納得の気配に、このめは説明を続ける。


「この隣の……そこの襖を堺にして、向こう側が『あやばみ』の世界。基本的に、演者の人達が過ごす場所。今いるコッチ側が、それ以外の役割の人達。この間の映像もあるし、ノートパソコンも置いていって貰えたから、打ち合わせに使って下さい。演者の人たちはこっち側に来たら『キャラ』じゃなくて素に戻っていいです。漫画とかDVDも置いてあるから、確認してもらってもいいし、あと、休憩も適宜はさんでね」


 そう。このめと吹夜が『キャラの理解』についての策として挙げたのは、『なりきって過ごす』事だった。

 台本ではなく、自身の『理解』で会話を紡ぎ、行動を作る。例えその『理解』が役者の演技を通した知識でも、その先にある『キャラ』の姿を知れるのではないかと思ったのだ。


 手分けしてダンボール箱を運び込んだこのめ達は、睦子達の手を借りて着々と着替えを済ませた。

 今日はメイク道具も準備万全らしく、雛嘉と文寛兄弟の手によって順に化粧を施される。この三人は事前に、キャラ毎のメイクをどうするか打ち合わせていたらしい。


 四苦八苦しながら、はじめてカラーコンタクトを着ける。最後にウィッグを被れば、『変身後』の高揚感がやる気を押した。


「何か、誰かわかってるのに、誰かわかんなくなるね」


 黒髪黒目のこのめが呟くと、白髪に赤目の朱斗へと変貌した吹夜が、見下ろして「だな」と肩を竦めた。

 紅咲は金の髪に薄い茶目となんだか神々しい。「みてみて、口紅って初めて塗ったんだけど、似合うでしょ」とご満悦気に笑む姿は、事情を知らない人が見れば異国の女性だと思うだろう。


「スゴいね、なんか舞台役者みたいだ」

「『みたい』じゃなくて、舞台役者なのよ! 少なくとも、文化祭まではね」


 杪谷は髪色に近い青目、そして雛嘉も同様の青目になっている。獏の髪色は緑だが、瞳の色は『親』である碧寿の色を持っているのだ。


「じゃあ皆、準備はいい?」


 このめの合図で、装いを纏った演者陣は襖の縁へと横一列に並ぶ。見える顔はどれもやる気に満ち溢れている。


「『キャラとして過ごしてみよう作戦』、開始!」


 高らかな宣言と共に、五人は『あやばみ』の部屋へと踏み入れた。


 さて、始めてみようと踏み込んだはいいものの、このめは早速迷った。

 碧寿達と翔達が共の部屋で過ごす事など、原作では当然あり得ない。だから想像力を働かせる。もし、碧寿達と同じ部屋にいたのなら、翔はドコに座り、何をして過ごすのだろう。


 なんだか実際の翔も戸惑うような気がする。そう感じた瞬間、碧寿がどうするのかが気になり視線を遣ると、気づいた碧寿は薄く口角を上げ、煙管を手に窓辺へと歩を進めた。追行する獏は好戦的な瞳で見下ろして来たが、まるで碧寿の言いつけを守っているかのように、それだけで何もしない。


 縁側沿いの柱にもたれ掛かるようにして碧寿が座り込むと、獏はキョロキョロと周囲を確認した後、ゴロリと寝そべった。身体も大きく、枕代わりに片肘を立てる姿は可愛気の欠片もないが、漂う雰囲気はまるで暇を持て余した猫のようだ。


 碧寿へと視線を遣るこのめを眼に映しながら、吹夜と紅咲もまた、それぞれの行動に思考を巡らせていた。

 翔に救われた沙羅は、翔に好意を抱いている。普段のスキンシップも多い。碧寿達に関しては敵対意識を持っているというよりも、『関わってはいけない』という意思が強いように思えた。事実、翔が碧寿との遭遇を報告してきた時も、『あやつには関わらん方がいい』と忠告している。

 ならば。


「翔!」


 紅咲は碧寿の姿を物憂げ眺める翔に飛びついた。


「わっ! と、沙羅?」

「なにぼうっとしておるのじゃ。わらわと遊べ。ほら、トランプがあるのだろう? 神経衰弱でもやらぬか」


 原作にトランプなど存在しないが、その辺は暗黙の了解だ。この部屋に用意されているモノは使って良いルールである。

 グイグイと手を引いて碧寿とは反対の隅へと翔を移動させると、膝を折るようにして腰を落とし、「ホレホレ、早うせい」と畳を叩く。


 翔は呆れ顔で「わかったわかった、ちょっと待って」と置かれたトランプを手に戻ってきた。プラスチックケースを開け、「沙羅と神経衰弱なんて、勝てる気がしない」とボヤきながらも伏せたカードを広げている。

 構ってほしい沙羅は、きっと一案提示するだろう。紅咲は「ならば」とカードを広げる手を止め、出来るだけ緩やかに首筋近くへと指先を移動させると、着物の襟元を少しだけずらし、


「一戦毎に、敗者が一枚脱ぐのはどうじゃ」

「なっ!」


 真っ赤な顔でハクハクと唇を動かした翔は、暫くしてハッとしたように「いや! オレの着物が足らなくなる!」と却下する。

 なんだか本当にこのめではなく、翔と会話をしているようだ。紅咲は愛用の扇子で口元を隠して笑う。


 そんな翔と沙羅のやり取りを見ていた吹夜は、古びた文庫本を手に取ると、翔の斜め横に腰を落とした。

 丁度碧寿との間を塞ぐ形だ。何よりも翔を優先する朱斗が腰を落ち着けるとしたら、この位置だろう。

 朱斗は普段、沙羅を『化け狐』と呼ぶ。それは沙羅が以前、翔の命を狙って来たのを根に持っているからだ。けれども信用の有無を問われれば、間違いなく信用の部類に入るだろう。何故なら今の沙羅は、翔を拠り所としているからだ。


「朱斗も入れよ。オレひとりじゃ分が悪い」


 誘う翔に、朱斗は首を振る筈だ。


「いいや。オレは札遊びに興味はない。それに、その化け狐を懐かせたのはお前だろう? 責任を持て」

「ちえっ、お前はそーゆーヤツだよ」

「わらわは翔と遊びたいのじゃ、他の者はいらぬ」

「ったく、オレが弱すぎて退屈だって喚くなよ」

「平気じゃ、五分の勝負となるよう調整するからのお」

「面と向かって手加減宣言かよ……。ま、でもそんくらいしてくれないと、沙羅の番で終わっちゃうからな。はい、並べた」


 嬉しげな沙羅とジャンケンを交わし、神経衰弱ゲームを始める。

 遊んでいるうちに、このめは不思議な感覚に陥った。反射で発する言葉が、自分ではない誰かの言葉のような気がしてきたのだ。

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