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にごあい!~ただの高校生の俺だけど、2.5次元舞台愛好部を立ち上げました!~  作者: 千早 朔
第七章 結束の合宿!

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結束の合宿!③

「俺は、お前を迷惑だなんざ思った事はねえ! お前を一方的に『助けてる』だけだと思った事もだ」

「……うん」

「っ、お前が世界を広げて、もっと他に拠り所を見つけたのなら、それでいい。けど、けどな。……今更俺に、変な『遠慮』なんてするな。……本気で、怒るぞ」

「……うん」


 守ろうと思ったのに、結局、傷つけてしまった。

「ごめん」と繰り返すこのめに、吹夜は悔しそうな顔で「もう、いい」と言う。


「……俺も同じだ。訊けば良かったのに、出来なかった。……『慎重』だったんじゃない、『臆病』だったんだ」

「え?」

「成映センパイに、言われた。その通りだった。今回の事も、このめが切り出さなきゃ、俺はまだ抱えたままだった」


 吹夜は自嘲気味に、緩く頭を振った。


「……いつも大事な所で強いのは、お前の方だな」

「『誰かを頼るのは、悪い事じゃない』」


 怪訝そうな瞳が向く。

 このめは苦笑しながら、


「俺も、成映先輩にそう言われたんだ。……俺は俺には出来ない事を啓に頼ってるから、啓も、啓には出来ない事を、俺に頼ったらいいよ。そうやって、お互いに……足りない所を皆で補い合えば、どんな難しい時でも、きっと上手くいく」


 ひとつひとつ、すり合わせて、繋いで。壊れかけているのなら、また、繋ぎ直せばいい。

 言い切ったこのめに、吹夜は小さく笑いながら「なるほどな」と嘆息した。これは了承だ。昔から頼もしい幼馴染が共に動いてくれると言うのなら、こんなに心強い事はない。

 このめは駆け出す。確認せずとも、背後にいた幼馴染はほんの数秒で隣に並んだ。


「よし! 走りながら作戦会議! 仲直りの方法と、『俺達の』キャラの理解についてやるべきこと!」

「俺はまだへんこでて、演技とか嫌になってるんじゃないかって配慮はねーのか」

「啓は大丈夫だよ。昔っから本気でへこんだ後は、怖いくらいやる気出る派だから」

「……しかたねーな」


 二つの足音を見送った紫陽花が、花弁に溜まった雨水をほとりと落とした。


***


 散々頭を捻ったこのめと吹夜は、ひとつの策を思いついた。けれども二人では実行力に欠ける。今、頼れる場はどこだろうと考え、同意見で杪谷へ連絡した。

 すると、このめ達の提案を聞いた杪谷は、「僕達も似たような事考えてた」と、ある計画を持ち出してきた。

 そこから慌ただしく手回しを始め、なんとか実行へとこぎ着けた翌日。このめと吹夜が下りたったのは、昼前の北鎌倉駅だ。この時期は紫陽花を目的に多くの観光客が集まり、昔の情緒を残す宿舎のようなこじんまりとした改札には、長蛇の列が出来ている。

 なんとか通り抜け、次の降車団体に巻き込まれないよう、改札から離れた路地へと寄る。

 約束の時間までは、あと五分ある。だがこのめは不安にかられ、キョロキョロと周囲を見回した。


「ちゃんと来てくれるかな……」

「眞弥センパイが『最強兵器』を送り込むから心配ないって言ってたろ」


 次の電車が止まり、雪崩のごとく数多の人が降りてくる。溢れる楽しげな面々の中で、ふと、陰鬱に瞼を伏せるひとりを見つけた。

 睦子だ。手には小さなボストンバックを握りしめている。

 このめが手を振ると気づいたようで、片手を上げてニコリと笑んだ。


「良かった、来てくれたんだ」

「ビックリしました。急に、合宿だなんて」


 そう、このめ達が計画したのは、土日を利用した合宿だ。

 初めは学校にある合宿施設の利用を考えていたのだが、今からでは申請が間に合わないだろうと、杪谷が以前使用していたという鎌倉の家での開催となった。


「ところで、凛詠くんは……?」

「まだ、だね」


 昨夜慌てて部員に連絡を出した所、睦子は了承の返事を返してくれたが、紅咲は親の説得が難しいかもしれないと難色を示していた。

 定霜の件で、紅咲自身も深手を負っているだろう。気乗りしないのもあるのではないかと返答に迷ったこのめに反し、雛嘉が即座に『最強兵器』の投入を申し出たのだ。

 定霜は無反応だった。けれどもその件に関しては、濃染が請け負ってくれたと聞いている。


「迅くんも、来てくれるといいんですが……」

「シゲちゃんセンセーに訊いてみたら、アイツはまだ退部届を出してねえって。この部に未練があるんなら、来るだろ」


 次の列車が止まる。目を皿のようにして探すと、ふわりと揺れる薄桃色の髪。


「っ、りよん!」


 堪らず叫んだこのめの声にハッと顔を上げた紅咲は、「恥ずかしいから」と唇だけを動かして、人差し指を口前にやる。

 改札から出て向かってくるのも待ちきれず、このめが駆け出して飛びつくと、「ちょっと!」と慌てた声で少しだけよろめいた。吹夜と睦子も側に寄る。


「一本前に乗ろうと思ってたんだけど、乗り換えで迷っちゃって。遅刻した?」

「いや、ギリセーフだな」

「お疲れ様です、凛詠くん」

「始めて来たけど、遠いね、鎌倉。で、このめはどーしたの? 僕が来ないと思ってた感じ?」

「だって、だってさあ!」

「あーハイハイ、わかったから。心配かけました」


 ポンポンと適当に背を叩かれ、このめは渋々離れる。

 片手を腰にあてて呆れたように息をついた紅咲は、「まあ、落ち込んではいるけどね」と微かに首を傾けた。


「けど、上演を諦めたワケじゃないから。やるっていうんなら、来るに決まってるでしょ。……アイツがどうするかは、知らないけど」


 迅、ではなく、アイツと称した辺りに紅咲の複雑な胸中が見て取れる。おそらくあの日以降、まともに会話もしていないのだろう。


「ところで、『最強兵器』ってなんだったんだ?」

「あ、僕も気になってました」


 吹夜に続いて挙手した睦子に、紅咲は「ああ……」と視線を転じて、


「濃染先輩と、文寛先輩達だよ」

「え!? あの三人が来たの!?」

「荷物は準備しておけって言うから脱走でもするのかと思ったら、ご丁寧に呼び鈴鳴らして両親に説明してくれてさ。ほら、濃染先輩なんて、見るからにカッチリしてるじゃん? お陰で両親は安心して応援、僕は堂々と玄関から出れたってワケ」

「それは確かに……『最強兵器』だね」


 人の流れも通り過ぎ、周囲が散漫となる。木々の緑が鮮やかに踊る中、流れを逆らってこちらに歩を進める人がいた。

 すれ違った数人が、浮ついた瞳で振り返る。夏に近づく熱気を感じさせない涼やかさで、「お待たせ、揃ったね」と杪谷が微笑んだ。


「さすがっていうか、なんていうか……」

「やっぱ別格だな」


 どこか悔しげに呟く紅咲と吹夜を「コラ」と窘めて、このめは「急なお願いだったのに、ありがとうございました」と頭を下げる。

 倣うように、睦子も「お世話になります」と低頭した。


「誘っておいてなんだけど、昨日連絡した通り、大人数が泊まる想定がない家だから、雑魚寝になっちゃうんだ。ごめんね。和室だから、座布団並べれば多少はマシだと思うんだけど」


 自分はともかく、座布団を敷いて雑魚寝する上級生組の姿が、どうにも想像がつかない。

 そう思ったのはこのめだけではないようで、吹夜が「面白そうっすね」とフォローのような本音を漏らしていた。


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