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にごあい!~ただの高校生の俺だけど、2.5次元舞台愛好部を立ち上げました!~  作者: 千早 朔
第五章 先輩という存在

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先輩という存在④

「で、でさっ!」


 しきり直したこのめに、視線が集まる。


「コレって、もしかしてもう着ていいの?」

「はい、是非。着替えのお手伝いしますので、手が必要な方は遠慮なく声かけてください」

「凛詠サン! お手伝いします!」

「うん、よろしく」


 各々自身の衣装を手に取り、その造りを興味深く観察しては、体操服を脱いで袖を通す。あの日このめが抱えて運んだ布も、見違える程に立派な衣装へと変貌していた。

 桜舞う着物を手にジンと痺れる感動に浸っていると、「いつまでにらめっこしてんだ」と吹夜に急かされる。練習着の浴衣で慣れたのか、着物を羽織り帯を巻きつける吹夜の手は躊躇がない。

 このめの衣装も難しい造りでは無いため、睦子には杪谷と雛嘉のサポートに専念してもらい一人で着替えを終わらせた。部分部分のネジレや皺は、先に着替え終わっていた吹夜が直してくれた。

 一番苦戦していたのは紅咲だ。派手な衣装もそうだが、装飾も多い。アクションを意識して所々縫い付けてあるようだが、最後の留めは着用後に行う仕様になっている。

 だがそこはさすが定霜というべきか、睦子と共に衣装に携わっていただけあって、テキパキと紅咲の周囲を動いて完成させていた。

 着替えの終わった全員が並ぶと、教室内が一気に華やぐ。

 現実には存在しない非日常の装い、という高揚感もそうだが、何よりそれを纏う演者陣が衣装に負けていない。

 相乗効果。自分はせめて、『馬子にも衣装』の枠に入れればいいなと願いながら、このめは着付けを終えた睦子の側に寄った。


「なんか、圧観だね。本当にお疲れ様、瑞樹」

「ありがとうございます。けど、まだ終わりじゃないですよ。武器も残ってますし、衣装も、言うなればこれからが本番ですから。演技の妨げになっては、あの子達も不本意です」


 輪をつくり、それぞれの姿を品評する部員を眺めながら、睦子が微笑む。

 あの子、と称す辺りに睦子の込めた心がチラつく。慈愛に瞳を細めたその顔面には疲労も滲んでいるが、意気込みの方が濃い。

 大事に着よう。

 ふと、雛嘉が振り返った。


「ねぇ、瑞樹ちゃん。ウィッグはまだ準備中かしら?」


 途端に睦子の顔が曇る。


「そのことなんですが……ウィッグ自体は手元にあるんですけど、僕、髪を切るってしたことないんです。もうちょっと勉強してから挑もうと思ってますので、すみませんが、もう暫く待って頂けますか?」

「アラ、そーゆー話しなら、アタシがやってあげるワよ?」


 腰に手をあて告げる雛嘉に、「え?」という声が重なる。

 杪谷だけはニコニコとして、


「眞弥は髪のセットとか、得意だから。僕もたまに切ってもらうし」

「ちょ、そんな特技あんのかよ!?」

「そーよお。なんならアンタの髪も切ってあげるワよ? 迅ちゃん。その中途半端に伸びた毛先、ずーっと切ってやりたくてウズウズしてたんだから」

「こ! れは! この長さが気に入ってて!」

「ま、今はアンタの髪よりウィッグね。ホラ、瑞樹ちゃん、出した出した」

「は、ハイ!」


 パタパタと後方に駆けた睦子は、机上に置いていたダンボールを一箱抱えてくる。下ろされた中には長さの違うカラフルな髪が、それぞれ透明な袋の中に縦長に収められていた。

 まるで巨大な毛虫だ。


「それぞれキャラの長さに近いものを選んでます」

「ならやりやすいワね。スプレーはある? 髪固めるの」

「はい。……コレですね。動いても乱れないように固めるには専用のモノがいいとネットで見たので、評判が良さそうなのを選んだんですが……」

「花丸よお。さ、チャチャっとやっちゃいましょうか! ……て、これじゃ折角の衣装が毛ダルマになっちゃワね。全員脱ぎなさい」

「ハア!? もう脱ぐのかよ!」

「迅、うるさい。さっさと手伝う」

「サーセン凛詠サン! 了解っス!」


 睦子が慌てたように「あ、ケープありますよ」と付け足したが、「こんなに綺麗につくってあるんだもの、変に汚したくないワ」と雛嘉に却下されてしまった。

 このめ達にも異論はない。再びジャージ姿に戻り、ヘアセット大会が始まった。

 一番に指名されたのはこのめだ。理由は、翔の髪が誰よりも単純で、早く出来上がりそうだから。

 椅子に座るこのめを囲むようにして、初めて触れるウィッグネットの付け方を指導される。プロジェクターで投影したスクリーンには翔を演じた役者のアップシーンが一時停止で映り、定霜の手にはDVDのパンフレット、睦子の側には、このめの持ち込んでいた漫画がスタンバイ中だ。

 首にケープを巻き、地毛を纏めたウィッグネットをヘアピンで頭頂部に固定され、その上から黒髪の短髪が被せられる。

 ボサボサに乱れるそれも専用のクシでとかれると収まってきたが、机上に置かれた鏡に映る見慣れない自身の顔に、このめは思わず「うわ……」と漏らした。


「だーいじょーぶ! ちゃんと整えてあげるから!」


 自信の漂う物言いの通り、雛嘉は手際よく切り刻んでいく。

 プロジェクターに映る姿を細かく確認し、定霜を呼びつけ相談して、睦子に頼んで漫画を開き、相談しては切っていく。

 形が決まれば、スプレーで固定して完成だ。


「まだ微調整は必要でしょうけど、一旦はこんなトコかしら。ハイ次、啓ちゃん! いらっしゃい!」


 外したケープの髪を下に落として、雛嘉が招く。

 このめが窓に映る自身の姿を暫く唖然と眺め、次いで吹夜が作り上げられていく様をぼんやりと眺めているうちに、朱斗の複雑に跳ねる白髪も出来上がった。


「俺って案外白もイケるんだな」


 この幼馴染は、こんな時でも自信家だ。


「どうせならこの状態で、衣装着てみるか」


 吹夜の提案でこのめ達は、再びいそいそと着替えを始めた。この頭で体操服は脱げないので、その上から重ねる。

 着替え終わる頃には杪谷も出来上がっていて、長い青髪を首横に纏めた姿で嬉しそうにやって来た。


「髪、重くないすか?」

「重いね、変な感じ。そうそう、みてコレ。取り外し出来るんだよ」


 指差す先をよく見れば、垂れる長髪はヘアクリップ式で上手く固定してある。

 こんな構造になっていたのか。

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