第二話
そこでは、あるイベントが行われていた。月限定のイベントというべきなのか分からないが、彼らにとっては人生の一大イベントであることは確かだ。
大勢の人々の中で祝福されるのは二人の男女。彼らがこのイベントの主役であった。僕と水無月さんは彼らを見つめ、自分たちも幸福感を得ていた。
「確かにこれは6月のイベントなのかもしれない・・・」
「そうだろう、みんな、君の存在に感謝している証だよ」
僕がそう言うと、水無月さんはしばらく見せなかった笑顔を浮かべた。6月は確かに梅雨の季節だ。しかし、晴れ間の日差しは真夏並みに暑い。本来は明るさを持った月であるのだ。
「ジューンブライド、6月に結婚式を迎える花嫁は幸せになれる・・・・。すっかり、忘れていたわ」
水無月さんは喜びの声を上げた。
ここは教会。花嫁と花婿が人生最大のイベントを迎えている。僕は知り合いの結婚式に彼女を誘ったのだ。堅苦しい式ではなく、教会で式だけ挙げる簡素なものだが、それでも彼らは幸せそうだった。
ちなみに何故、6月の花嫁が幸せになれるのかというと、6月の英語名Juneはローマ神話の結婚の女神ユノから取っていることに由来するらしい。これ、ウィキペディアで調べただけなので、僕が博識というわけではない。
そうなると西欧諸国ではない日本には直接的に関係ない気もするが、業界では頻りにアピールしているわけだし、とりあえず良としておこう。
まあ、とにかく、これで水無月さんの機嫌が直ったなら、問題はない。そして、結婚式はさらに盛り上がる。参加している未婚の女性にとって最大のイベントが行われようとしていた。主役新婦が持ったブーケが天に向かって放り投げられる。それに群がる女性たち。誰もが次の花嫁の座を狙って、目がマジになっていた。そして気が付くと僕の隣に水無月さんの姿はなかった。
彼女も女。こういうことには敏感になるらしい。そして、彼女の動きは他の誰よりも早かった。ハイジャンプで他の女性よりも一段高く飛び上がった彼女。しかし、それと同じくらいの高さで飛び上がる女性の影があった。
「何するのよ!」
水無月さんが叫んだ。その手にはブーケは握られていない。握っているのは水無月さんと同時に高く飛び上がった女性。小麦色の肌の健康的な女性だった。
「ブーケは次の花嫁を選ぶものよ。それなら、次の月の私が手にするのが相応しくないかしら?」
そう言った彼女は見覚えがある女性だった。7月こと文月さんだった。
「チクショー!何で、あんたがいるのよ!来月のあなたが!」
水無月さんはその場にしゃがみ込み本当に悔しそうに顔を歪ませた。今にも泣きだしそうなその顔は梅雨時の空のようだった。そして、僕は自分の皮膚にポツリと水滴が当たったことに気づいた。
「あ、雨・・・・」
僕は今にも降り出しそうな鉛色の雲を見上げて呟いた。
おまけ
「どうして、私だけ、祝祭日がないんですか!」
水無月さんはその日、上司に直談判していた。僕が宥めたことなどでは満足いかなかったらしい。その結果の談判である。それに対し、彼女の上司は困惑した表情を浮かべながらも、冷静な視線を水無月さんに向けた。
「休みが欲しいと?」と上司。
「ええ、私だけ、ないのは納得できません!」と水無月さん。
別に彼女が仕事もしないくせに休みだけはしっかりと主張するようなOLというわけではない。しかし、彼女にしてみれば、自分だけが休みがないことが差別化されているように感じてしまうのだ。
「分かった。休みをやろう」
「本当ですか?」
水無月さんの表情がその時華やいだものになったのは言うまでもないだろう。しかし、その後に続く上司の一言は完全にとどめをさした。
「これから、ずっと休んでみるか?」
「いえ、いいです・・・・・・」
水無月さんはがっくりと肩を落としたまま、梅雨の空のようなドンヨリとした表情で自分の席へと戻って行った。




